分かれ道
「見事に逸れちまったな」
抜け穴を作って脱出を試みたのはいいものの、その穴が途中で二股に分かれてしまっていたみたいだ。番号確認!先生、デイダラがいません!
こりゃあれだな。穴作ってる最中に抜け穴を複雑にした方が簡単に追いつかれない、とか考えてたせいだな。名前は適当につけたが、一応高等忍術の部類に入るだろうし。最後まで気を抜くなってことだ。
ずれた仮面の位置を直して、抜け穴の先を見つめる。地表にはつなげられたと思うが。
「とりあえず進むか。デイダラのバカを回収しなくちゃならねェ」
「さんせーい」
デイダラのやつ、サソリにまでバカって言われてやんのー。ププッ。
*****
「二手に別れてしまいましたね」
カカシが暁の三人が落ちて行った穴を眺めつつ言った。なんともバカっぽい退場の仕方ではあったが、逃げられたという事実に変わりはない。
穴の中で道が二つに分かれている。彼らが意図的かどうかはわからないが、別々に落ちて行ったことは確認済みだ。
逃げられたのならば追うしかない。危険を伴うとは言え、我愛羅を取り戻さなければいけないからだ。無線でガイに援護を要請したが、罠にかかってしまいすぐには向かえないとのこと。つまりこの四人で追尾するしかない。
「ワシはもちろんサソリの方へ」
「私も」
サソリの手口を知っているチヨバアがサソリとぶつかり合う方が勝率が高くなるのは必然。サクラも何か考えがあるのかチヨとの同伴を望む。
「じゃ、オレ達は我愛羅くんとやり合った方だね。異論は?」
「ない」
その場で素早く作戦を決め、最後の準備をする。この先は今いる場所以上に狭い場所。派手にやり合えば穴が崩れ落ちる危険性を伴う。
「くれぐれも無茶しないように」
カカシはそう言い残すと先にサスケと共に穴へ落ちて行った。穴を覗き込み、その暗さに喉を鳴らす。
「私達も行きましょう、チヨバア様」
頷きを返されたと同時に、女性組も暗闇の中へ足を踏み入れた。風を切る音が耳に入る。高さ自体はそれ程高いわけではないので地面は目に映る。
上手い具合に着地し、常備しているペンライトで先を灯した。意外に高さに余裕がある。そして深さと違い、抜け穴は長いようだ。
「よいか、サクラ。サソリは傀儡使いじゃ」
「はい。それは聞きました」
傀儡使いは傀儡の後ろで糸を操る。つまり接近戦に弱い。この狭い空間は傀儡使いに不利と働く。
「だが」とチヨが逆接の言葉を言った。
「サソリはただの傀儡使いではない」
「ただの…?それはどういうことですか?」
「やつは人傀儡を使う」
人傀儡。人間の死体を傀儡に作り変える、この世でサソリにしかできぬ芸当。先程の厳つい男も人傀儡の一つだ。あれはサソリの十八番傀儡、ヒルコ。
「では本体はどこに?」
「あの中じゃ」
ヒルコは傀儡使いの弱点を克服した傀儡。傀儡使いの鎧となり、且つ武器となる傀儡である。
サソリがまだ砂隠れに在住していた頃、サソリは天才造形師といわれ数多くの傀儡を作り上げた。カンクロウが使っている烏や黒蟻も、元はサソリが作ったものである。
「だがそれ以上に心血を注いだのが、人を傀儡にしてコレクションすること」
はっとサクラはチヨバアのことを見た。そんなものが芸術なんて、とチヨバアは嘲った。
かつてはヒルコも余所の国の忍であった。それがサソリのせいであのような姿になったのだと。人であった時の姿を残したままの傀儡、それを人傀儡という。
「よいなサクラ。つまりサソリを倒すにはまずヒルコを破壊せねばならん。じゃが傀儡の恐ろしいところは」
「仕込み…ですね」
そうだ、とチヨは頷いた。傀儡の恐ろしいところはどこからどの手順で攻撃が来るのかわからないところ。そして恐らくその全てに毒が塗られていることだろう。
「でもチヨバア様はあの傀儡のカラクリ良く知ってる。こっちに分がありますね」
「うむ。じゃがワシももう歳。一人でヒルコを破壊できるかどうかはわからん…」
だがサクラにはそれができる。綱手直伝の怪力があるから。ヒルコを叩き壊すことができる。
ただし、仕込みの攻撃は全て完璧にかわさなくてはならない。毒があるから掠り傷でさえ命取りになる。その危うさはカンクロウが痛む姿を見たから理解できる。
攻撃をかわすためには傀儡の知識と癖、咄嗟の攻撃を回避する状況判断能力を必要とする。
サクラは自信なく自分にはどちらも足りない、と言った。それもそうだ、とチヨは返した。それを得るには多くの実戦経験が必要だ。そのために自分がいるのだとチヨは言う。実戦経験はサソリの比では無い。
「よく聞け、サクラ。ワシとお前で、サソリを倒す」
*****
オイラもついてる。抜け穴を鳥に乗り駆け抜けるデイダラはそう思った。
サソリとナルセと別れてしまったが、獲物であるサスケがこちら側を追ってきた。サソリの旦那に邪魔されなくて清々する。
だが、いらないオマケまでついてきた。写輪眼のカカシは手に余る。流石のオイラも写輪眼二人を相手にするのはキツイな…。しかもここは狭い洞窟。自慢の芸術をここで披露したら岩に押し潰される可能性がある。
まずとるべき行動は一刻も早くこの穴を抜けること。北へ東へ真上へ。どんな穴を作ったんだアイツは…と若干呆れながら先を目指す。
背後から迫る忍具を華麗に避けながら、鳥の上で後ろを振り返った。ちゃんと追って来てやがる。
「オレなんか相手にしてていいのか?…うん?写輪眼のカカシ先生よ。言っちゃあ何だが、サソリの旦那はオレより強いぜ…多分な。うん…」
カカシだけでも注意を逸らそうとしたのかもしれない。だが、それはデイダラからの忠告に違いなかった。
「それに向こうにはあいつがいるからな…」
二つに一つ
(落ちる、進む)
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