星の瞬き | ナノ


  見えざる敵


森の中に差し込む朝日は暖かく、心地良いものだった。…たとえその自然の一部が破壊されていようとも。サクラの怪力により森には乱暴に作られた道ができていた。景観に支障が出ているけれど、これはこれでいい。


「またずいぶんとやらかしたな」

「いや、逆にこれぐらいやった方がオレ達は蝙蝠と同じような理想を掲げている、と思い込ませられるんじゃないのか?」


森の一部分が抉れようとも、いつか再生することだろう。始動の宣言にしては大々的すぎたかもしれないが、世に反する行動を取れている。結果としては十分だ。

木の影から現れたオビトの方へ体を向ける。


「蝙蝠も動き始めたようだ。まだ慎重に息を潜めつつではあるが」

「ふーん…時期が重なったわけね」


行動を始める時が同じであろうがなかろうが、負けるわけにはいかない戦いだ。

オレ達は実在する敵と見えざる敵の、両方と戦わなければならない。蝙蝠と、世界と。偵察の状態もまずまず。いい出だしであると思う。

オビトに次いでゼツもが到着した。挨拶を挟まず報告が始まる。


「懸念スベキハ蝙蝠ノ六人ノ忍ダ」

「六人…?その六人が何か?」

「蝙蝠の里で腕利きの忍らしいよ。服部セイジの忠実な部下だとか」


服部セイジ。最終的に辿り着かなければならない、必殺すべきターゲット。その男を追って此処まで来た。

蝙蝠の里が小国の隠れ里であるにも関わらず、長き歴史を持つのはやつの采配によるものなのか。六人の忍が如何にしようとも、必ずやつを引き摺り落とす。

改めて負けるわけにはいかない、と認識して唇を噛み締めた。


「…気分はどうだ?」

「えーなにー!心配してくれちゃってるわけー?お前がー!?」


こいつから心配される日が来るなんて…。思いがけない行動に一瞬頭が真っ白になったが、いつもの調子を取り戻し軽口を叩いた。と、頭をギリギリと掴まれ締め付けられる。普通に痛い!


「ごめんなさいごめんなさいふざけ過ぎたって!…まあもう大分いいよ。オレはゆっくり次の目的地に向かう。その次にオレが動くまでお前は…」

「あれれー!こんなとこにデイダラ先輩の起爆粘土がー!もしかしてその辺で死んでたり?」


誰かの気配にオビトは素早くスイッチを切り替えた。こういうところはいつもすごいな、なんて思う。


「オイラの粘土を離せコノヤロー」


デイダラ、こんな近くまで来てたわけね。オレかオビトの迎えか。トビは「あ!生きてた!」と超失礼なことをのたまいやがる。ここがトビのウザいところだよな。


「テメェはどうであれオレの後輩なんだぞ…うん?」

「といってもボクの方が出世早かったですけどねー」


ブチリ。どこからか血管が切れた音がした。


「トビ、仏の顔も三度までだ。次なんか言ってみろ?テメェの死因はオレが決めるぞ…うん」

「って、どうせ爆死でしょ?」

「ソレ、三度目ダ」

「窒息死だ!…うん!」


ギリギリと足で首を圧迫していた。あははー仲良いねー。


「じゃあオレは用事を済ませてここを出発する。仲良くしなよ?な?」


最後に登場したサソリが「え?本当に行くのか?これを放って?オレに任せて?」なんて目をしてるがすまない、あとは任せたと素早く退場する。サソリ…お前の犠牲は無駄にしないからな…!


*****


五代目風影は砂隠れの里に帰還。多くの住民に出迎えられることとなりながら、その入り口をくぐった。

今回救援に来てくれた木ノ葉の忍達を我愛羅達三姉弟は見送る。その際、気にかけていた問いかけも忘れずに。


「天地橋に行くのか?」

「火影との交渉による」


「そうか…」やっと手に入れたあの人への道筋。自ら出向きたい気持ちは山々だが、砂隠れの里の騒動の後始末がある。自分が里を出て本当かどうかわからない情報を追うのは無理だろう、と我愛羅はつらい決断をした。


「何かわかったら知らせて欲しい」


もちろんだ、との返事をサスケは返す。

そうして木ノ葉の忍が砂隠れの里を去ろうとしていた時、風影邸の屋上には三つの影があった。砂隠れの入り口に目を向け、風に吹かれている。


「行っちゃいましたねぇ」


そのうちの一人の少女は目の上に手をかざして遠くを眺めていた。明るい口調でまーぶしー!と騒いでいる。日と同じくらい明るい金髪がなびいた。


「入り口で見送ればよかったんじゃないか?」

「見つかっちゃいますし。それに、また会えただけで十分なんです」


にっこり、やんわりと少女は微笑んだ。その笑顔の陰では憂いが隠れ見えしていた。


「…君は、何もかも一人で背負おうとするな」

「これが、オレが選んだ道なんです。後悔はないですから」


だからいいんです、と言う。

少し嘘が混ざっているのは間違いではないだろう。だからこうしてずっと名残惜しく里の入り口を見ているのだし、拳を握りしめて衝動を抑えているのだ。


「君のことが少し、羨ましい」

「はは…それ、昔別の人にも言われたことがあります」

「君は今までの人生に後悔がない。オレの人生は失敗の連続で後悔ばかりだった」


影として妻に重荷を背負わせ、腹心で義理の弟に苦行を強い、実の息子には恵まれた幼少期を過ごさせてやれなかった。悔やんでも悔やみきれないことばかりだ。


「…オレも、後悔ぐらいしますよ。あなたはこれからまた新しい人生を歩めばいい」


これからでも間に合うのだろうか。自分も年を取ったのではないだろうかと言ったが、やり直すことに年齢など関係ないと少女は言い切った。

そういう思い切りのあるところに背を押される。以前にも救われたことがあった。取り返しのつかないことになる前に。


「本当に、君にはなんとお礼を言ったらいいか…」


自分を救われ、息子を救われ、里を救われ。少女は幾度も救いの手を差し伸べてくれた。


「いえ、こうして恩を返していただいていますから、気にしなくていいんですよ。それにオレも彼がいなくなるのは悲しくて、嫌ですから。それよりも今回の被害は?」

「怪我人が多数いたが、死者はゼロだ」


それは良かったことだ。犠牲は少ないにこしたことはない。少女は言った。


傍でこの光景を見ていたチヨはただただ驚いていた。

ここに来るように言われ来てみると、あの狐の面がいるではないか。その面と先代の風影が親しげに話をしている。思わぬ人物が思わぬ人物とつながっていたのだ。俄には信じられない光景。この世は奇怪なことばかりだと。

少女はチヨバアに振り向いて眩しい笑顔を見せた。青いピアスが悲しげに揺れ、青い瞳が細められる。


「さあ、革命を始めよう」


まだ一歩を踏み始めたばかりだ。これより本格的に我々は動き出す。我らの夜明けを迎えるのだ。だがそこには命の危機がつきまとう。犠牲者などいらぬ。痛みを受けるだけの世界など壊す。

「そのピアスは…!」チヨは少女の耳に最近見たばかりの青いピアスを見つけた。我愛羅が片耳に大事そうに着けていたものだ。


「お主……名は?」


チヨの問いに少女は一瞬きょとりとし、金の髪を揺らしてふわりと笑った。


「うずまきナルセ」


交戦のコングをひっそりと
(まるで暗殺のように)


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