星の瞬き | ナノ


  迷子という名の散歩は


右を向いて。ふむ
左を向いて。ふむ
前を向いて。ふむ
後ろを向いて。ふぅむ


「どこデス?ここ」


おかしいデスねー。貸してもらったアパートから出てちょっと散歩しようかなって思って出ただけなのに。一体これはどういうことデスか?

いえ、別に迷子というわけではないんデスよ?探索、そう探索デス!早くここの地理に慣れなきゃいけませんからねー


「何してるの?」

「カカカカカカシ先生!こ、こここここれはデスね!迷子ではなくて散歩という迷子というか、迷子という人生というか!!…あれ?」

「とりあえず一旦落ち着こうか」

「…ハイ」


カカシ先生に無事保護されました。



ちらっと隣に並ぶ人の顔を見上げた。木漏れ日が眩しくて、ちょっと目を細めてしまったけど。カカシ先生はいつも通りのほほんとしていた。


「…どうかしましたか?」

「ん〜?」


のほほんとしていたけれど、少し違和感を感じた。

カカシ先生はぽりぽりと頬を掻いて、視線を彷徨わせた後あたしを見た。


「そうだな…じゃ、家に着くまで暇潰しとして聞いてくれないかな」





オレが昔暗部だったってことは知ってる?そう、やっぱり知ってたんだネ。


ナルセが三歳の時だったかな。ナルセの世話係の任務に就いたんだ。

正直この任務は受けたくなかったよ。先生が意識不明になった原因が、その体の中に入ったやつの世話をしなくちゃいけないなんてね。

でも仕事だからさ、大人しくナルセがいるっていう部屋に行ったんだ。


ナルセはまだ幼いってのに、外で遊ばず部屋に籠るような子だったんだ。きっと外に出ればどうなるか知ってたんだろうね。

部屋に着くとさ、もちろんナルセはそこにいた。薄暗い部屋の中で分厚い本を読んでたよ。中々髪を切らないからざっくばらんに伸びた髪を鬱陶しそうに上げながらね。


こっちに気付いたナルセは本を読むのを中断させてオレを見たよ。そして口元を歪めて笑った。ぞっとしたよ。理解不能の恐怖が体全体を巡った。

オレがもう一度見るとにこにこと幼児が浮かべるように無邪気に笑ったんだ。全てを見透かされているようだったよ。三歳児らしくなかった。

暗部であれば誰でもつける仮面が、狗の面が意味を成していないようだった。

耐えきれなくて五日でその任務を降りたよ。それでも続いた方だって言われて驚いたね。短い奴は会った瞬間音を上げたらしいから。


だから九年ぶりの再会はすごく驚いたよ。しかも思いもよらぬ形で、だからなおさらネ。もしかしたら三代目が一枚噛んでいたのかもしれない。それはまあ、今となってはどうでもいいよ。

最初の演習の時は、正直がっかりしたよ。期待してたのに形振り構わず突っ込んでくるばかりで。オレはこんなやつに慄いたのかと失望したよ。


でも結局のところ二度、ナルセに恐怖することになった。


まさか演習に参加していたのが全て影分身だったなんてね。驚いた?オレも驚いたよ。これでも元暗部の上忍だってのに、たかが下忍の影分身を見破れなかったんだから。

九年前のオレが恐怖したのも無理はなかったよ。それだけナルセは周りを圧倒させる何かを、あの歳で既に持っていたんだから。


ナルセはオレのことを覚えていたよ。演習が終わって去り際にオレにだけに向かってこう言ったんだ。


「あんたはもっと持つかと思っていた」ってね。


オレとナルセの間には、サスケとサクラ達以上に溝があった。ナルセは元から他人と一線を画するような子だったけど、それを上回っていたよ。当然の報いだよね。

そこからなぜかむきになってね、オレなりに必死に振り向かせようと努力したよ。でも時間がなかった。遅かったみたいだよ。ナルセは里を抜けた。


「何度かナルセが知らない人に変化しているのを見てね」

「知らない人…デスか?」

「そう、リアナが着てた服みたいなのを着てたかな?班のチームワークがそれなりになってくると、その姿もあまり見なくなったけど。でもその時のナルセはすごく懐かしそうな顔をしていてね。今思えばそれが本当のナルセだったかもしれない」


カカシ先生は過去を悔やむように言った。


「ナルセのことを理解してやれなかったよ」


皆、ナルセさんのことをとても気に掛けてる。第七班も、第十班も、綱手様やカカシ先生だって。

気に掛けると同時に皆苦しんでる。過去への、後悔が残ってる。立ち止まってる。


やがてあたしが住んでいるアパートに着いた。自然と足は止まり、くっと拳を握った。


「他人のことなんて、誰だって完璧には理解できないものデスよ」


カカシ先生は「慰めてるの?」と言った。


「ええ、慰めています。カカシ先生は十分にナルセさんのことを理解できていますよ。だって、こんなにナルセさんのことを想ってるんデスから」


亜麻色の瞳と眠たそうな黒い目がかち合った。


「そうだといいな」


カカシ先生は力無く笑った。でも、変なわだかまりは胸から消えていた。


人生という名の迷子に出会う
(これが後押しになれば、と)


prev / next

[ back to contents | bookmark ]


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -