星の瞬き | ナノ


  求める人は


「まだ…息がある!」

「早く蘇生を!」


暁から我愛羅の体を取り戻し、念のため脈拍をと確かめるとまだ僅かに脈を打っていた。尾獣を抜かれた人柱力は死ぬはず。理由はわからないがさておき、一刻も早く蘇生を行うべきだ。

まだ息がある我愛羅を広い草原で救出班は囲んで見つめる。医療忍者であるサクラとチヨバアが懸命に意識を取り戻させようと治療していた。


「のォ、サクラ…あやつが言っていた罪を償う、とは何のことじゃと思う?」


ふとチヨバアがサクラに問うた。チヨバアの耳を離れなかったあの言葉。やけに印象的だった狐の面。


「かつてワシがしてきたことは間違いばかりじゃった…ワシらのしてきたことが我愛羅やサソリのような忍を…沢山生み出してきた」


自国の利益ばかり求めて戦争を引き起こし、結果このような結末を導いてしまった。

悲しみと憎しみと痛みが世界に嘆きを与え、大きな傷痕を残して最悪な道へと押し進めていった。それは紛れもない事実だ。


「サクラ、サスケ」


チヨバアに名を呼ばれた二人は彼女の顔を見つめる。彼女は穏やかに微笑んでいた。


「お前達は正しい道を進め。決してワシらの二の舞を踏むでないぞよ」


同じ過ちは二度と繰り返してはならない。これからの未来はサクラやサスケのような若い者達が培っていくのだ。そしてそれを後ろから支えていくのはチヨバアのような前世代の人間。

今までにない世の在り方を作っていくのだ。


「ワシも年寄りじゃが…まだするべきことがあるらしい。尻拭いをお前達に任せるわけにはいかん」


まだできることがあるのだ。こんな年寄りであっても。


*****


我愛羅は一人暗闇の中にいた。そっと目を開ければ視界に入ったのは己の手。誰のものかと一瞬考えたが、また自分のものだとわかった。

静かに手を下ろすと、手の向こうに誰かが見えた。誰であろうと目を凝らすと、そこにはかつての幼い自分がいた。

一人ぼっちで座って泣いていた。傍には誰もいなかった。孤独だった。独りだった。


「(オレ…オレとは誰だ?…オレは……)」


自分が何者なのか、何の為に存在しているのか。我愛羅の頭は混濁する。何もかもがわからなくて暗闇に堕ちていく。

あの人に認められたい一心で、風影を目指した。風影になって、ようやくあの人に認められるところまで辿り着いた。

なのに、あの人はいない。

探しても、探しても、あの人は見つからなかった。まるで、今自分が何者かわからないように。


その時、ちりんと鈴の音がした。同時にふわりと誰かの体温を頭に感じた。


「我愛羅」


その声は昔自分に愛をくれると言った人のものであった。今、切実に会いたいと思っている人のものだった。

あの人だ。ああ、あの人だ。幻でもいい。ただ一目でいいから会いたい。涙を拭う腕を退け、あの人の姿を。


「もう起きていいよ、我愛羅」


視界の隅にあの金色が見えた気がした。



目を開ければ眩しいほどの光が目に入る。あの人はいないのかと思うと同時に、賑やかな声がする。ゆっくりと首を回すと、そこには沢山の砂隠れの人達がいた。


「これは…」


目の前に広がる光景に驚く我愛羅。


「皆お前を助けに来たんだよ」

「まったくだ。心配かけさせる弟じゃん」


そんな自分に近寄って来た姉と兄。そこで小さな喧嘩が起こる。

こんなにも大勢の人が自分を心配してくれた喜びを感じるとともに、どこを見てもあの人がいないことに対する憂鬱を感じた。


「(あいつがここにいるわけがない…)」


胸にぽっかりと穴が空いた感覚を感じ、手を胸に伸ばす。あの人は蜃気楼のようだ。手が届く、と思えばすり抜けていく。


「…うっうっ、それでも…風影様がっ…死んでなくてよかった……」

「我愛羅様がそう簡単にくたばるワケないでしょ!」

「イテっ!」


我愛羅を迎えに来た忍の一人が泣き始めた。それを見た隣のくの一から軽く頭を小突かれる。そのまま恋する乙女の如くマガジントークを始めた。


「我愛羅様は無口でクールで強くて格好良くてエリートで…」

「そうそう、それでいてどことなくかわいくてそれなのに風影で…」

「我愛羅様の危機は私が防いでみせます!今度こそ!」

「イヤ、私が!」


二人の女性は互いに言い争う。自分のことを指しているのに、どこか他人事のように見えてしまう。世界から色が消えたみたいだ。


「我愛羅。そのようなピアス…以前着けておったか?」


ふとチヨの目に入った青いピアス。我愛羅の耳元を指差しながらチヨは問いかけた。はていつから、とチヨは首を傾げる。我愛羅はこれか?と左耳の青いピアスに触れた。


「これは…恩人との思い出の品だ」

「まだ着けていたのか」

「目に見えるつながりはもうこれだけだからな…」


サスケの問いに答えながら、我愛羅は愛おし気にそのピアスに触れ続けた。



傍にいない
(ふぇっくしょい!…どこかでバカにされたか?)


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