04
視界が大量の泡で覆われる。海面に叩きつけられた勢いで弾け飛んだ眼帯が、するりと闇に飲まれて消える。
息が、できない。
体を包み込む海水が静かに体温と体力をじわじわと削り落とす。
恐怖心から必死にもがくものの、水はまるで意思を持っているかのように手足に絡みついて逃がさない。動けば動くほど沈んでいく、海面が遠ざかって行く。闇が手招きしている。
嫌だ、嫌だ。一人は、嫌。死にたくない、あいつから離れたくない。
ごぼごぼと、口から息とほんの少しの朱がこぼれる。同時に大量の海水の侵入を許してしまう。傷口に染みる海水の痛みなど既に感じなくなっていた。
視界が歪む、歪む。意識も歪む。
力なく必死に伸ばしたその手を掴む者は、いない。
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