07
「わざわざ呼び出して悪ィな、シャー坊」
狭い工房の中、手にしたインスタントコーヒーを乱雑に入れていく。
こぽこぽと小気味良い音と湯気を出しているそれを二つ用意。
一つを目の前の橙の青年に、もう一つを自分の前にことりと静かに置く。
「ま、狭いけどゆっくりしていけや」
言いながらボロボロのソファに腰を下ろし、持っていた小瓶を開ける。
一口大の角砂糖を一つ、二つとカップの中に吸わせ、六つ目を手にかけ、
「入れ過ぎ」
パッと、手に持っていた小瓶を素早く奪われる。何だよ、別にいいじゃんか。
「体に良くない」
「オレはお前らと身体の作りが違うから良いんだよ。あと瓶返せもう二つ入れるんだから」
「駄目。甘やかすなって言われてる」
「あの万年カチコチクソトサカ頭め」
脳裏を掠めた男に悪態を尽きながらしぶしぶカップを飲む。同時に菓子折りを開いて適当に数個取り出す。
「それで、本題は。ただ単にティータイム開くために呼んだわけじゃないだろ」
「シャー坊もほんと堅いなぁ…あいつの下にいすぎて性格移ったんじゃねェの?」
「食べながら喋らない」
「へいへい、ったく…」
バリバリと煎餅を噛み砕き、飲み込む。本当はもう少しゆっくりしながら色々話したかったもんだ。
「危険因子が現れた。目的が目的だからオレらが迂闊に手出せねぇんだ。悪ィがしばらくこっちに居てくれねぇか」
「……手を出せないというと」
青く澄んだ目がすぅっと細められる。
いいぜ、何事にも真面目に取り組むあんたのその姿勢、オレは好きだ。
「何でもシリウス目当てらしい。滅多に姿見せない上に文献にも碌に残ってねぇのによくぞそこまで嗅ぎつけたもんだ。縦横好きに穴あけまくって色んな所であやしーい実験してるんだと」
時代を跨ぎ、各地から人を集め、人体実験を、行っている。その目的は。
「それで、俺は何をすれば良いんだ?」
「一時的にこの世界の門番として役目を果たして欲しい。なり損ないとはいえオレも神の端くれ、迂闊に接触したらまずい」
元々隠居気味ではあったものの、この世界に現れた危機は排除しなければならない、それが門番の役目。
だがしかし相手の目的が神の力とあれば話は別だ。
「…….了解」
「あぁ、あと、二人ほど誤って穴くぐってこの世界に渡っちまったらしい。そっちの保護はオレがやっとくから気にせずに。家は王都に一軒用意しといたからそこ自由に使ってくれ」
机の上に明細書を乱雑に放り投げる。
一瞬だけ魏夏の眉間にシワが寄った様な気がしたが気のせいだな、うん。
「まぁなんかあったらすぐこれるしなんでも聞いてくれ」
「あぁ、わかった」
橙の青年は静かにカップを飲み干す。
これから何が起きるか、この時は知る由もなかった。
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