08
いつから俺らの道は違えてしまっていたのだろうか。
いつからこんなことになり始めてしまっていたのだろうか。
眼前に崩れた男の瞳に光はない。
ただただ無感情なその目は、だがしかしほんの少しの優しさを含んでいて。
その視線は、俺の腕の中で意識を失っているゲイルに静かに向けられていた。
「………ソイツのこと、頼んだ、ぜ、小隊長サンよ」
ノイズ混じりの音声が段々とか細くなって行く。
心臓部分にぽっかりと空いた大穴から、バチバチと青白い火花が散っては消え、また散っては消える。
動力源となるコアはもう無い。身体に残ったわずかな残留物質と、エネルギーをかき集めて懸命に紡がれる言葉に、唇を噛み締めながら耳を貸す。
「シェイド、お前は」
「違、う。シェイドは死ん、だ。俺はサイファ、だ」
「寝言は寝て言え馬鹿野郎、名前が変わろうが姿が変わろうがお前はシェイドだ」
無造作に投げられた手をぎゅうと握りしめても、硬い金属質な感触しか感じられない、先ほどまであれほど暖かかった腕が、身体が、冷えて行く。
「…はーヴぇイ、お前、変わった、な。随分、逞しくなった、なぁ…」
「変わってなんかないさ…ずっと、あの頃のままだ…泣き虫で弱虫な俺のままだ…」
「泣くな、よ」
「馬鹿、泣いてねぇよ…」
視界が滲んで前がよく見えない。暑くなる目頭をどうすることもできずに、ただただ拳を一層強く握ることしかできなかった。
「死ぬ訳じゃァねぇんだ、どうセまた入れ替エられて壊レるまでこキ使われる、そレの繰り返し。すぐに会エるだろ」
「長いこと洗脳されてバカみてぇな思考に侵されてんじゃねーよクソが…それじゃお前が報われなさすぎるだろが…!」
小さい頃に誘拐されてそれ以来行方知れずだった親友。
やっと会えたと思ったのに、こんなの、あんまりだ。
「約束、守れなくて ごめん、な」
ーまた、五人であの夕陽を見に行こうーー…
ぷつんと、何かが切れる音と共に、彼の身体から全ての光が失われた。
ゆっくりとまぶたが落ち、それきり彼は動かない。
「ッ………!!」
「いやぁー、友情とは素晴らしい、実に素晴らしいよ!君たち!!」
涙を堪えた瞬間、上空から降ってくる声に反射的に殺意が煮え滾る。まってました、と言わんばかりのそれはとても飄々と、嬉しげな声色で。
「ほら、君の大事な友達はココだ」
青色の悪魔が翼をはためかせながらくすくすと笑っている。
手にした、紅く光るそれを弄びながら。
先ほどシェイドの胸を貫き、強引に引き抜いたそれを。
「返して欲しいだろう?フフ、君の感情が伝わってくる様だ…!ぁあ、あぁ、憎しみ、激しい憎悪、とてもいい…!」
ペラペラと吐き出される一言一句全て、苛立ちを募らせるにはそれで十分過ぎた。
崩れた城壁の陰にゲイルを優しく下ろしながら、愛槍を掴む片手に力を込める。
コイツだけは、貴様だけは、
「絶対に許さねェ……!!!!!」
青色の悪魔は満足げに応えた。
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