クレセントムーン | ナノ

06


浅い呼吸が、冷たい地下室に静かに響く。
ここに閉じ込められてから一体どれほどの時間が経ったのだろう。
身動ぎをすれば体の至る所を縛る鎖が鈍い音をあげる。部屋の隅に滴る水の音すら、今は気が狂ってしまいそうなほどに感じていた。

連中の目的は王だろう。
ならば身代わりである自分が此処にいる事が、彼の無事を何よりも証明している。
此処にいるのは王でもなんでもない。ただの、一人の一般人だ。
それが知られれば恐らく用済みか、或いは拷問か。

不思議と恐怖は無い。呪われた血族が此処で終わるのならば本望だ。情報を吐くつもりは微塵も無い。あるのは、虚無感と、ほんの少しの、後悔。最後に会ったのはいつだったか。

死ぬ前にせめて、一目だけでも。
脳裏を過った願いは瞬時に否定されることとなる。





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