涙を吸って赤く潤んだ唇に、そっと顔を寄せていく。
吐息が交わり、再び唇を重ね合う。
キスは慈しみに満ちたものだった。舌を絡め合わせて快楽を貪る為では無い、唇を通して相手の精神に深く潜り、特別な存在しか侵入を許さない深層部のドアをノックするような所作で軽く口唇を啄ばむ。そうして邂逅した心を触れ合わせるような優しさで重ね合わせるのだ。時折ぺろりと口端を舐めていくのがくすぐったい。東堂は何度も真波の唇を吸い、ふっくらと柔らかい肉感を愛して、楽しむような口付けを飽く事無く繰り返した。
互いの唇がどちらのものとも知れない唾液に濡れそぼった頃、やっと湿った音を立てて唇が離れると、いつの間にか閉じてしまっていた瞼にふわりと接吻が降って来た。ちろりと触れた舌らしき濡れた感触になぞられて、真波はまた自分が泣いていた事を知る。次に泣くときは東堂と再会した時のうれし涙だと、親友に告げた言葉が嘘にならなかった事にホッとした。
寮に戻ってくると、ドアを閉めるのももどかしく東堂に肩を押されてドアに身体を押し付けられた。肌に食い込むんじゃないかという握力で肩を捕まれ、痛いと抗議する暇も与えられずに噛み付くような激しさで唇を塞がれる。

「んっ……!」

まるで捕食するような荒々しさで、東堂は夢中に唇を貪った。閉じていた前歯を舌でこじ開け、逃げるように竦もうとした真波の舌を暴き、強引に絡み合わせる。思わず怯んでしまった真波も、すぐに口を開いて東堂の舌を受け入れた。

「ふっ……ぁ」

下側から持ち上げるようにして舌を掬われると、唾液を滑らせて絡み付き、口を吸われるのに合わせて根本の部分を尖らせた舌で強く擦られる。ぞくりと背筋が粟立ち、何度も擦られている内に脊髄から震えが駆け上ってくるような疼きが生じ始めた。反射的に東堂のシャツを握り締めていた拳が震え、膝裏もガクガクと力が入らずに、支えられていなければその場に崩れ落ちてしまったかも知れない。

「ん、ぅ」

唇を塞がれている所為で悲鳴は蓋をされ、鼻に掛かった呻き声しか上げる事しか出来ない。奪われた呼気と一緒に吸いだされた舌は、東堂の口の中でゆるく甘噛みされるか、根元の部分を尖らせた舌先でなぞられるか、何をされているのかも分からない位に弄ばれ、蹂躙される。せめてもの抗いのつもりで東堂の肩を掴んでいた指先がブルブルと震え始めた。もう指先一つまともに操れないほど、感じてしまっている。

「んっ、んん」

深く唇を合わせて舌を吸われると上手く呼吸が出来なくて、きつく閉じた目尻にジワリと涙がにじんでくる。閉じられない口の端から、どちらのものかも解からない唾液が溢れて、顎を伝い落ちていった。同様に双眸から湧きだした生理的な涙が、頬を滑り落ちて顎を掴んでいる東堂の手の内に吸い込まれていく。

「…………」

ぴちゃ、と湿った音がして、漸く口付けから解放された。 やっと酸素にありつけた真波は、すっかり上がってしまった呼吸を整えるのに必死になって形振り構わず東堂の胸にしがみつく。

「はぁ……東堂さんに、食べられちゃうかと、思った」
「そんな訳ないのだよ。食べてしまったらもう二度と会えなくなってしまうではないか?」
「んっ」

粘膜を使ったキスの後はいつもより敏感になってしまい、項に東堂の指先が触れるだけでビクンと過剰なまでに反応してしまった。くすぐったそうに肩を竦める仕草に、東堂の喉がごくりと鳴る。懐かしい体温、懐かしい肌と髪の匂い、耳朶に吹き掛かる甘い吐息。その全てが愛しくて、たまらなくて、どうしようもなく魂を揺さぶられた。

「真波」
「わっ」

東堂は上体を屈めて真波の膝裏と肩に腕を回すと、背筋を伸ばして恋人の身体を抱き上げた。突然の浮遊感に驚いた真波は、咄嗟に東堂の逞しい首に腕を回して落下の恐怖に備える。
組み敷いた四肢の上に覆いかぶさった東堂は、頬から肩に掛けて唇を滑らせるようなキスを落としながら、片手で器用に真波のシャツのボタンを外していく。唇はどこまでも優しく、慈しむように肌を伝った。触れるか触れないかの羽毛のような繊細な口付けの心地良さに、大きな翼で包みこまれているような安心感を覚える。少しだけ癖のある前髪が胸元を掠めていくのがくすぐったい。首筋に埋まった唇が肌を舐めては吸い上げ、甘く歯を立てているのに、クスクスと笑みが零れてしまい、これからセックスしようとしているとはとても思わないような軽さで含笑をもらせば、東堂からは集中しろと叱られてしまった。言葉だけではなく行動でも戒めるように、布地の中に潜り込んだ掌が肌を伝い、微かに浮いた肋骨の窪みを撫でながら、指先が胸元に辿り着く。まだ柔らかい実のような突起に、東堂の指は確かな意思を持って絡んだ。


ダイヤモンド・ミッドナイト
(輝け、この思い)


20141009/青い山岳の天使様のサンプル
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