「今のはお前が悪い」
「は?!俺のどこが……っん」

荒北の言葉に、心外だと言わんばかりに反論しようとした新開の頭をぐいと引っ張り、驚いて言葉が止まったところを再度唇でふさいでやる。突然のことに身体を引き離そうと新開が両腕に力を込めるが、それは荒北が頭を押さえているせいで叶わなかった。触れるだけだった先ほどのキスとは違い、今度は舌を入れてやろうとするものの、固く閉ざした新開の口は開かない。早く開けとでも言わんばかりに舌先を出して、閉じた唇の端をすうっと舐めとってやると、新開は観念したようにゆっくりと、少しだけ隙間を作った。その隙を逃さずに、ぬるりと舌をすべり込ませて割り開く。更にぐっと顔を近づけると、んう、と小さな声を漏らした新開がぎゅっと目を瞑るのが見えた。ディープキスなんて今まで何回もしているのに、いつまでたっても初めてのような反応を返してくる新開が心底愛おしい。
奥に逃げようとする舌を絡めとってお互いの唾液を交換するように長々しく触れ合った後に、奥の方から手前へと、丁寧に歯列をなぞる。舌先でも分かるほどに整った歯並びをした小さな歯一つ一つを確かめるようになぞっていると、少し長すぎたせいか、息苦しくなったらしい新開がくぐもった声を立て始めたのでそこでようやく一旦口を離してやる。力が抜けて、荒北の顔へ覆いかぶさるようについていた両手がくにゃりと歪んだのを見て思わず新開の肩を支えると、荒い息をした新開が文句を言うようにじっとりとこちらを睨み付けてきた。酸欠でうるんだ瞳を溶かしてゆらゆらと揺れ、窓から漏れる月明かりが、二人分の唾液で濡れた唇を照らし出す。ほのかに頬が赤いのは、きっと気のせいではないだろう。

「……俺はそういうつもりじゃなかったんだけど」
「そりゃ悪かったなァ」

言いながら、右肩に置いていた手を動かしてはだけた着物の合わせに滑り込ませると、新開はあからさまに焦ったように身を離した。

「ちょ、ちょっと待て靖友!」
「……焦らすなヨ」
「焦らす焦らさないじゃないって!もしかして、このまま、ヤる気じゃないだろうな?」

新開は真剣な顔をしているつもりらしいが、先ほどのキスでとろけた表情は未だに戻っていなくて新開の真剣さは半分も伝わらない。そんなことを思いながら、っせと荒北を睨み付けるような新開の瞳をちらりと見て、荒北は言った。

「もちろんそのつもりだヨ」
「そんなところでキリっとしないでくれ!」

嘆くような新開の声音はやはり福富や東堂を起こさないように小さなままだが、あまり喋るとどれだけ小さな声でも起きてしまいかねない。人間は寝ていても物音に敏感なものである。あまり話していて、何もしない間に起きられては荒北の持て余した熱の処理に困ってしまう。

「と、隣には寿一や尽八が寝ているのだぞ?!その隣でなんて、」
「っせ。大体、お前が誘ってくるのが悪い。自業自得だボケナス」
「俺がいつ誘った?!」
「ずっと。ついでに今も、な」

きゃんきゃんと吠える新開を黙らせるようにもう一度引き寄せてキスをして、新開の力が緩んだところを、福富とは逆側、新開の布団の方へごろんと転がって押し倒す。必然的に組み敷く体勢となって、気付くと荒北が上へ乗っかっているという状況に、一瞬ぽかんとしていた新開だが、気付いて焦った時にはもう遅い。

「やすとも、」

抗議しようとする新開のその言葉ごと飲み込んで、また深く唇を重ねるともう新開が抵抗することはないだろうと本能で感じていた。

合宿にて、愛を育む
(みんな起こさないように)


20141004/青い山岳の天使様のサンプル

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