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7-6:Purpose.―潜入と救援―

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 約束の深夜零時近くになって街に近づけば、入口はやはりヴァンガード達によって固められていた。
地下通路にさえ入れば入れればいいが、この様子では入口を突破するのも難しい。

「さすがに警備は厳しそうだね」

辺りに視線を走らせ、さすがにエミルも眉間に皺を寄せた。
強行突破出来なくもないが、ここから問題を起こせば後々行動し辛くなる。
出来れば穏便に入口を突破し、ヴァンガードに気付かれぬよう第二社屋に潜入したい。
目的の場所は目の前。
けれど入ることも出来ず、もどかしそうにマルタがホテルレザレノを見上げた。

「これじゃあ0時までに街の中に入れないよ」

「どうする?騒ぎを起こさないであいつらを何とかしないと……」

見張りを退けることはたやすいが、それが穏便に、となると話が違う。

「他に入口はないの?」

「はい。従業員もこの門をくぐりますから」

アンジェラがプレセアに問えば、彼女は申し訳なさそうに眉を寄せた。
となると、やはりあの兵をどうにかしてどけるしかなさそうだ。
陽動と本体とに分ければ潜入は容易いかもしれないが、それでは第二社屋にまでたどり着いたとしても動きづらくなる。
ミズホが協力してくれるとはいえ、数では圧倒的に不利。
 どうすればと思考を巡らせていると、テネブラエが笑みを浮かべて前に出た。

「彼らをどかせばいいのですね」

「肉球さん……」

「テネブラエ、です。ワンちゃんだの肉球だの呼ばれるならまだテネブちゃんと呼ばれる方がマシですよ」

プレセアの呼び名に、テネブラエが鼻を鳴らす。
先ほどまでは自信ありげだったが、たった一言で機嫌を悪くするとは大人げない。
溜息をついていると、マルタが宥めるように笑みを浮かべた。

「機嫌直してよ、テネブラエ。どうするつもりなの?」

「こうするつもりです」

言うや否や、テネブラエの姿が煙に包まれる。
何をする気なのかと煙を見つめていると、徐々に晴れてきた煙の中からセルシウスが出てきた。
いや、正確にはセルシウスの姿をしたテネブラエだろうか。
 目を丸くするエミル達に、テネブラエは余裕の笑みを浮かべ、腰をくねってポーズまで決めて見せた。

「人間も魔物も美しい女性には弱いものです」

「テ、テネブラエってなんにでも変身できるんだね」

驚きと戸惑いを含んだエミルが口元を引きつらせる。
だがテネブラエにとってはただの褒め言葉にしか聞こえなかったのか、にっこりと笑って口元に手を当てて笑った。

「センチュリオンですからね。では、行ってまいります。おほほほほ……」

行って踵を返し、セルシウスの姿をしたテネブラエは臆することなく堂々と門に向かっていく。
最初は警戒するように武器を向けた兵たちだったが、暗闇の中でもセルシウスの白い肌が目に入ったのだろう。
しゃなりしゃなりと歩くその腰は細く、大きくスリットが入ったスカートからは柔らかな太ももが垣間見える。
何か会話しているのか、遠目から兵の口が動いているのが見える。
背を向けられているためにテネブラエが何を言っているのか分らないが、うまく誘い出そうとしているのだろう。
門をくぐるセルシウスを追うように、ヴァンガード達もふらりふらりとアルタミラのどこかに消えていく。
 これでうまく中に入ることは出来るが、あんな兵を見張りに置くヴァンガードにアルタミラを制圧されたのかと思うと情けなくもなる。
だが今は絶好のチャンスだと考えるようにして、アンジェラ達はホテルに駆け込んだ。
あとはテネブラエと合流するだけだが、このまま進んでもテネブラエなら追ってこられるだろう。
そう考えていると、テネブラエは満足げな笑みを浮かべて戻ってきた。

「うまく行ったようですわね。ホホホホ……」

元々、冗談や皮肉で人をからかうのが好きなテネブラエだ。
偽りの姿で兵を惑わし、自分の思うように操るのはさぞかし楽しかっただろう。

「いつまでやってるの」

「いやだわ、エミルちゃんったらツレないんだから」

溜息をつくエミルに、テネブラエはなおも笑っている。
よほど楽しかったらしい。

「ずっとそのままでいいんじゃないかしら」

「そうですか?」

にっこりと笑えば、テネブラエは気を良くしたのか腰をくねらせ胸部を強調し、ウインクまで決めてくれた。
これは完全に楽しんでいる。

「テネブラエってこんな性格だったっけ……」

「変身すると性格も変わるんじゃない」

「そうかしら。テネブラエって元々こんな感じでしょう」

溜息をつくマルタにジーニアスが肩をすくめる。
テネブラエがはしゃいでいるように見えるのは、テネブラエなりの気遣いなのだろうか。
尚もポーズを決めるテネブラエにプレセアが俯いた。

「肉球がないと寂しいです…」

「元々、テネブラエに肉球はないと思うけれど」

「でもテネブラエさんは肉球を作れます」

アンジェラが指摘すれば、プレセアは握り拳を作って力説してきた。
その力強い目に、思わずたじろいでしまう。
よほど肉球が好きなのだろうか。
そうね、と同意すればプレセアは小さく笑って頷いた。

「とりあえず、ここで夜を待ちましょう。0時になったら行動開始よ」

脱線し始めた話にリフィルは咳払いをして時計を見た。
観光地であるアルタミラは今や敵の基地。
緊張感を欠けば、敵に付け入る隙を与えることになる。
さすがにそれを忘れたわけではないかと思うが、気を取り直したのかマルタが周囲に視線を走らせた。

「地下通路へはどう行くの?」

「エレベーターで従業員用のボタンを押せばいいと聞いています」

プレセアが指を指したのは奥にあるエレベーター。
エレベーター自体は客用と従業員用は同じらしい。

「では0時までくつろぎましょう。オホホホホホ」

よほどセルシウスの姿が気に入ったのか、テネブラエは近くにあったソファに座って足を組んだ。
零時までまだ時間はあるが、あまりくつろぎすぎるのもどうだろう。
溜息をつく中、テネブラエは自分の魅力に酔っているのか青い髪をなびかせていた――――




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