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7-4:Impasse.―逃げられない、逃げたくない―

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 プレセアの案内で森を抜けて、見えてきたのは小さな村だった。
ミズホの里は隠密集団の住処とだけあってか、その所在は誰も知らない。
今から来た道を戻れと言われても、あの入り組んだ道では遭難してしまうだろう。
 里は木製の低い柵に囲まれているが、あれは魔物避けというよりは単なる境界線のようにも見える。
そして入口とみられる変わった形をした木製の門をくぐろうとしたとき、目の前で煙が立ち上った。
この登場の仕方はミズホの民のものだろう。
身構えることなく煙を見つめれば、中から群青色の服に身を包んだ男が出てきた。

「何者だ!」

「おろちさん。お久しぶりです……」

「プレセア殿か……。そちらの方々は?」

 プレセアが挨拶すると、おろちはアンジェラ達を見渡した。
隠密集団の里へそう簡単に部外者を入れるわけにはいかないのだろう。
戸惑うおろちにプレセアは真剣な表情でおろちをみつめた。

「しいなさんに頼まれて連れて来ました」

「頭領に!?頭領はご無事なのか?」

「実は……」

しいなは既に里へ報告していたのだろうか。
 息をのむおろちにプレセアはゆっくりと口を開いたが、彼女が話し始める前におろちが首を横に振った。

「あ、いや、お話はイガグリ老のところで伺おう。先客……リフィル殿とジーニアス殿がおられるからな」

「リフィルさんたちがここに来てるんですか!?」

息をのむエミルとマルタに、おろちが軽く瞠目する。
しいなはエミル達のことを話していなかったのだろうか。
おろちは驚きつつもマルタ達を見、プレセアを見た。

「あ……ああ。そちらはリフィル殿をご存知なのか?」

「一緒に旅をしたことがあるそうです」

「そうか……。とにかく詳しい話は屋敷で伺おう。ではな」

プレセアの説明に、おろちは里の奥に向かっていった。
一足先に向かい、話を通しておいてくれるのだろうか。
 再びプレセアの案内で里の中へと進む。
ミズホの里に関しては、その全てが謎に包まれている。
閉鎖的な風習を持つのなら独特な文化を持っているのではと仮説が立てられていたが、その仮説は正しかった。

「ここは、他の街と趣が違うのですね」

テネブラエも興味がわいたのだろう。
静かに姿を現すと、興味深げにマルタ達と共に周囲を見渡していた。

「そうですね。元テセアラの街でも、特殊な文化を持っている人々が暮らしています」

「見たことがないものばかりね」

プレセアに頷いて、アンジェラも辺りを観察しはじめた。
木製の家というものは珍しくないが、あの屋根は一体何で出来ているのだろう。
遠目からは干した草のように見えるが、何の草なのかよく分らない。
道を歩く人々も、基本的にはしいなとよく似た服が多いがあの服の構造も不思議だ。
柄と色からして女性はタイトなワンピースに、コルセットのような布を巻きつけているように見えるが、あれでは少々動きづらそうだ。

「ここがしいなの故郷なんだ……」

「しいな、大丈夫かな……」

 感慨深げなエミルにマルタの視線が下がってく。

「しいなはミズホの里の頭領よ。そう簡単にやられるわけないわ。彼女の強さはマルタも知っているでしょう?」

何とか励まそうとすれば、マルタは曇った表情のまま顔を上げてくれた。
ここまで逃げてきたのはいいものの、マルタはアルタミラを出てからずっとこの調子だ。
 マルタがこの調子では、アンジェラも落ち着かない。
今までずっと自分達で乗り越えてきたことを、しいな達に背負わせてしまったことを気にしているのだろう。
マルタのせいではないと言い聞かせ、これが最善の策だと思ってここまで来たが、この方法はマルタにとっての最善ではないのだろうか。
だとしたら、マルタも納得する方法とはなんだろう。

「しいなさんならきっと大丈夫です。前回の旅でも危険なことが沢山ありましたが、しいなさんは大丈夫でした」

そう言ってプレセアは微笑んだ。
その笑みは優しくて、力強い。

「私達は強運なんです。その私達と出会えたマルタさんたちも、強運です。だから、きっと大丈夫です」

「ありがとう。慰めてくれて。プレセアって私より年下なのに、なんだかお姉さんみたい」

小さく笑うマルタにプレセアが小さく息をのむ。
彼女の実年齢を知ればマルタはどんな反応をするだろうか。
マルタの反応にプレセアは少し照れたように微笑んだ。

「お姉さん……良かったら、いつでも『お姉さん』と呼んでください」

少なくとも、プレセアの方はまんざらでもないらしい。
マルタの方も、頼もしい仲間が増えることは嬉しいだろう。
彼女には一人でも多くの仲間が必要なのだから。




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