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6-07:Brawl.―兆しと変化―

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 入口に近づくと慌ただしい鎧の音がいくつも聞こえてきた。
ヴァンガードか、それとも呼んでいた王立軍が駆けつけてくれたのか。
警戒しつつも進めば、薄暗い中に白銀の鎧が駆け寄ってくるのが見えた。

「ブライアン公爵!ご無事でしたか」

「来てくれたか」

 リーガルの労いの言葉に、騎士が背筋を正して敬礼する。
どうやら応援に来てくれたのはまともな人間らしい。
ちらりと視線を走らせれば、事態の収拾に奔走しているのか慌ただしく何人もの兵士が走り回っていたが、入口近くで倒れていたはずの騎士はいない。
もう彼らが埋葬したのだろうか。
 騎士はゆっくりと手を下すと、辺りを見渡した。

「ヴァンガードは……」

「とりあえず今はここにはいない」

リーガルの言葉に騎士も安心したようだ。
とはいえ、大事な遺跡が荒らされて犠牲者がでたことには変わりない。
それでも今は先に進みたいのだろう。
退屈そうに視線を走らせたラタトスクは、血痕だけが残された地面を見て鼻を鳴らした。

「ふん……。わざわざ弱い奴の死体を片付けるなんざ、ご苦労なことだな」

「エミル!」

声を上げ、マルタがラタトスクに詰め寄る。
だがラタトスクの方は何故マルタが怒っているか分らないのだろう。

「な、なんだよ。何をそんなに怒ってるんだよ」

のけ反りながらも引くことはなく、戸惑いを滲ませながらも彼がマルタの視線を正面から受け止めていた、その時。

「うわぁぁぁああぁぁぁぁ!?」

突如悲鳴を上げたラタトスクは、頭を抱えてマルタから離れると背を向けて膝をついた。
一体どうしたのだろう。
急に悲鳴を上げるなんて、らしくない。
以前もこんなことがあったが、あの時はエミルの方だった。
まさか彼も何か思い出してしまったのだろうか。
 マルタは驚きのあまり動けないのだろう。
どうすることもなく息を飲むマルタの代わりに、しいなが彼に声をかけた。

「大丈夫かい?」

いつもならすぐに何でもない、と強がるラタトスクも今はそんな気力もないのか。
乱れた息を整え、右手で頭を支えつつもゆっくりと顔を上げた。

「……あ……ああ。……また変な記憶が……」

 やはり、と胸がざわめく。
うずく古傷を撫でるようにそっと撫でれば、リーガルが眉間に皺を寄せた。

「変な記憶?」

「俺がリヒターに殺される記憶だ」

息を飲むマルタ達に、彼は大きく息を吐き出した。
もう頭痛もしないのか、頭は押さえてはいないものの不機嫌そうなのには変わりない。

「なんでそんな記憶が……」

「知るかよ。胸糞わりぃ」

舌打ちしたラタトスクは一人で歩き出した。
 何が彼の記憶を刺激したのだろうと考えて、アンジェラはふと上を見上げた。
この薄暗い場所、そして向けられた負の感情。
それがあの日の記憶を思い出させたのだろうか。
答えは分らないが、あの様子を見る限り全てを思い出したわけではないだろう。
視線を元に戻して、息を零す。
全てを思い出したとき、ラタトスクは人間をどんな存在と認識するのだろう。
自分から力を奪った人間を虫けらのように排除するのか、それとも彼にとって大切なマルタの願いを聞き届けてくれるのか。
どちらもあり得ない話ではない。
アンジェラの中では、ラタトスクはどちらにでも成り得るように思えた――――





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