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6-05:While.―もっと近く、もっと傍に―

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 奥へと進んでも、目的のものは見つからない。
ここにないということは、他の場所に持って行ったのだろうか。
ホークがあの資料を大事に保管するとは思えない。
適当な場所に置いてあると思ったのだが、違うのだろうか。

「……なかなか、それらしいものがないですね」

時間だけ過ぎていく状況に苛立っているのだろう。
アクアは唇を尖らせて辺りを見渡した。

「ホークの奴、絶対保管場所知ってて教えなかったんですよ」

「深海文書ですよね?僕も探すの手伝い」

「アクア、もう少し奥を捜そう」

「はい!」

エミルが手を伸ばすが、リヒターはアクアに声をかけて再び歩き出した。
同行は許したが、今までのように力を借りるつもりはないのだろう。
まるでここに存在していないかのような扱いに、エミルが項垂れた。

「リヒターさん……」

「置いて行かれるわよ」

 声をかけるが、最初の威勢はどこにいったのかエミルは中々動こうとしない。
大きくため息をついて、遠ざかるリヒターの背中を見つめている。

「僕の事、嫌いになったのかな?」

エミルの疑問に答えることは出来るが、今大切なのは疑問に答えることではなく、エミルを安心させること。
そっと息を零して、アンジェラは笑みを浮かべた。

「ちょっと機嫌が悪いだけよ。気にすることないわ」

嘘はついていない筈だ。
彼も今、アステルと同じ顔をするエミルとの接し方が分からないのだろう。
その気持ちは、痛いほど分かる。

「でも、傍にいるのに力になれないなんて……」

「ですが、下手に刺激しない方がいいのでは?」

俯くエミルにテネブラエがそっと寄り添う。
確かにそれも一理あるが、とアンジェラは遠ざかるリヒターの背中を見つめた。

「でも聞けば何か教えてくれるかもしれないわ」

近付いても拒絶されるかもしれない。
今よりもっと、遠い存在になるかもしれない。
そうさせる要素が、エミルにはある。
彼自身も知らないラタトスクとしての存在があるのだから。
それでも、と考えてしまうのが甘いだろうか。
 アンジェラは不安げなエミルの目に向かって微笑んだ。

「選ぶのは、貴方よ」

アンジェラがエミルに微かな可能性を見出したように、リヒターも微かでも可能性を見出してくれればと思ってしまう。
だがその可能性を示せるのはアンジェラではない。
アステルと同じ顔をした、エミル自身なのだから。


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