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6-01:Perceive.―壊れる心、争いの気配―

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「お待ちください!孫が病気なんです!テセアラのお医者さまなら治せるだろうと言われているんです!」

「だからなんだ、小汚いババアが」

 メルトキオの広場に響いたのは老婆の声。
広場に目を向ければ、マーテル教会の祭司に縋り付く老婆が見えた。
継ぎはぎだらけのスカートに、色あせた上着。
お世辞にも綺麗な身なりとも言えない老婆を、祭司は侮蔑の眼差しで見下していた。

「テセアラのどこのお医者様も、メルトキオの教皇さまに紹介状を書いてもらわなければシルヴァラント人は診ないと仰って」

「知るか!シルヴァラントの蛮族などシルヴァラントのヤブ医者にでも診てもらえばいい。そこをどけ!」

祭司が蹴れば、老婆の身体はいとも簡単に地面を転がる。
どうやらあの老婆はシルヴァラントから孫の病を治す為に、はるばるメルトキオまで来たらしい。
 だが治療をしてもらうのは難しいだろう。
血の粛清以降、シルヴァラントとテセアラの溝は深まるばかり。
それはこの場に居合わせた貴族達を見れば分かる。

「見ろよ、あのババア」

「まるで貧民街のゴミと同じ臭いがしますわ」

身なりだけは綺麗な貴族達は老婆を見下して嘲笑っている。
彼らには地面に蹲って嗚咽を零す老婆さえ、退屈な日常の些細な暇つぶしに過ぎない。
老婆を助けるとしたら、と考えていると予想通りの展開になった。

「何なのあいつら!」

「大丈夫ですか!?」

 エミルとマルタが老婆に駆け寄り、しいなとリーガルが老婆たちを庇うように前に出た。

「ちょっとあんた、ひどいじゃない!」

「うるさい!マーテルさまの天罰が下るぞ!」

高らかに声を上げる祭司にマルタ達が顔をしかめる。
力でねじ伏せることは簡単だが、流石にそんな手荒な真似は出来ない。
リーガルやしいななら話が通じるかと思ったが、この祭司は二人のことも知らないようだ。
 面倒なことになったと、アンジェラは笑って肩をすくめた。

「あら、それは怖いわね。でも、天罰が下るとしたら貴方の方じゃないかしら」

「なんだと?」

強く睨まれるが怖くない。
浅はかな人間をからかうほど面白いことはないのだから。
にこにこと笑っていると、黒い影とともに祭司が突然倒れた。
咄嗟に身構えれば、祭司を押し倒したのは黒いウルフ……いや、レイシーだった。
悲鳴を上げる祭司の頬を舐めたレイシーは満足したのか、リボンをつけた尻尾を機嫌よく揺らして駆けてきた方向へ戻っていった。

「あらら、天罰が下ったみたい」

 レイシーが向かった先から現れたのは、鞭をいじるアリスといつもより無表情なデクスだった。
いつもなら気色悪い笑みを浮かべているのに、今日の彼の目はどこか虚ろで気味が悪い。

「な、何をする!」

立ち上がり、祭司がアリスを睨みつける。
だがさきほどのレイシーで怯えているのだろう。
ローブの下から微かに見える足は震えている。
アリスは怯えた祭司に鞭を弄びながら口の端を上げた。

「あら、マーテル教なんて腐ったエセ宗教振りかざしてるから、天罰を食らわせてあげたのよ」

「な、何……」

冷たい笑みに、祭司がたじろぐ。
数歩後ずさる祭司にアリスがゆっくり歩み寄った。

「マーテル教会が何をしてくれるのよ。うちの両親を生き返らせてくれるの?無理矢理教会の旅業に出されて、魔物に襲われて死んだお父さんたちを」

「そ、」

冷たい表情に、冷たい声色に祭司の口が開閉を繰り返す。
それでも逃げないのは安っぽいプライドがあるからだろうか。
 ぐっと眉間に力を籠め、祭司はアリスを睨みつけた。

「そんなことでマーテル教を逆恨みしているのか!恐れを知らぬ小娘め!」

そう吐き捨てるや否や、デクスが一気に距離をつめて祭司を蹴り飛ばした。
ここまではいつも通り。
違ったのは、ここからだった。

「こぉのやろぉぉぉおおお!アリスちゃんになんてこと言いやがるぅぅううぅぅっ!」

 強く祭司を踏みつけるデクスに、柄にもなくぞくりとした。
何かがおかしい。
アリスに牙をむくものに容赦がないのはいつものことだが、いつものデクスと様子が違う。
声色も、目の色も、力加減も、何もかも。
いつもより凶暴性が増しているが、アリスは気づいていないのだろうか。

「うふふふふ。勘違いしないで。力がないからうちの両親は死んだの。もちろん、あなたも力がないからここで死ぬのよ。それだけ」

視線を向ければアリスはいつものように微笑んでいた。

「ちょ、ちょっとデクス!やめなよ!」

「も、もういいです。どうかそれ以上は……」

慌ててマルタが止めてもアリスはにこにこと笑っているだけだったが、老婆に言われるとそっと息を零した。

「あら、おばあちゃんに救われたわね。デクス、もういいわ」

だがアリスが言ってもデクスは蹴るのを止めない。
聞こえない筈がないのに、デクスは狂気じみた笑みを浮かべて蹴り続けている。
 やはりおかしい。
これはコアに精神を破壊されているのではないだろうか。
あり得ない話ではない。
寧ろ半年もの間、何事もなかったことの方が奇跡なのだ。

「も、もういいって言ってるでしょ!」

アリスもここまで来てようやくデクスの様子が可笑しいと気付いたのだろう。
強く咎める口調は、動揺しているように聞こえた。

「そ、そうだよ!デクスおやめよ!」

しいなが声をかけてもやはりデクスは止まらない。
実力行使に出ようとリーガルとエミルが近づいたが、二人は揃って口元を押さえた。

「す、すごいにおい……」

メロメロコウの臭いにやられたのだろう。
一番離れているアンジェラさえこの臭いがきついのだ。
あの距離ならデクスに触れるのも難しいだろう。
どうしようかと思考を巡らせていると、アリスが鞭を握りしめ大きく口を開けた。

「デクス!」

 アリスの声が広場に響くと、デクスの動きがぴたりと止まった。
呆然と祭司を見下ろしているところを見ると、自分のしたことに気づいていないのだろう。
ふらりと祭司から離れると頭を抱えた。

「……あ……お、オレ……な、何を……」

足元には傷つき倒れこむ祭司、傍にはどこか不安げなアリス。
視線を彷徨わせたデクスは頭を掻いて視線を泳がせている。
デクスのあの様子は、恐らくはコアによる精神攪乱。
動揺して辺りを見渡すデクスを観察しているとアリスがデクスに歩み寄った。

「デクス、行くわよ」

「あ、でもアリスちゃん、マルタ達が……」

 コアを目の前にして何もせず撤退するのはヴァンガードらしくない。
アリスとマルタ達を交互に見るデクスをアリスが睨みつけた。

「それどころじゃないわよ!あんたがそんな制御不能じゃ心配じゃない」

「アリスちゃん!オレのこと心配してくれるの!?」

「アリスちゃん自身が心配なの!あんたなんてどうでもいいわよ」

目を輝かせて両手を広げたデクスに、アリスが鞭を突きつける。
いつも素直になれないが、やはりデクスが心配なのだろう。
相変わらず素直じゃないと小さく笑っているとアリスに睨まれたが、にっこりと笑顔で返しておいた。
コアの副作用を危惧して使用を控えればいいが、今のヴァンガードならこのままデクスを使い続ける可能性が高い。
 アリスは分かっているのだろうかと視線を向ければ、彼女は落ち着きなさそうに辺りを見渡す老婆に声をかけていた。

「それから、おばあちゃん。お医者さまならこのヴァンガードのアリスちゃんが紹介してあげるわ。私の名前を出してフラノールの医者を訪ねてみて。無料で診てくれてるはずよ」

「あ、ありがとうございます、アリスさま……」

アリスの言葉に老婆は神に祈るように手を合わせた。
あの老婆にとって崇めるのは誰も救えない女神より、孫を助けてくれるヴァンガードなのだろう。
 満足げに口の端を上げ、踵を返したアリスにアンジェラはそっと口を開いた。

「彼、少し休ませた方が良いんじゃないかしら」

アリスはデクスのように馬鹿ではない。
何のことか分らないデクスはアンジェラの言葉に振り向いて眉を寄せたが、アリスは背を向けたまま動かない。

「あなたがそれを言うの?」

風に乗って聞こえた声は聴きとるのがやっとの大きさ。
アリスの言葉を、アンジェラは否定できない。
どんなに正しいことを言おうとしても、今まで積み重ねてきたことを思えば全て偽善に思えてしまう。
所詮、アンジェラはどうあがいてもマルタ達のように光の差す元へは行けない。
そんなこと、分かっていた、はずなのに。
 アンジェラは振り向くことなく広場を去るアリスの背中を見つめていると、エミルがそっと息を零した。

「アリスが人助けするなんて……」

「一応ヴァンガードはシルヴァラント人を救うのが目的だから」

ヴァンガードの行いは許せないが、アリスの行為は間違っていない。
多少乱暴だったとしても、被害がなかっただけでもよしとしよう。

「それにしてもマーテル教会って相変わらず酷いよ」

「……うむ。マーテル教会はどんどん腐敗していくな。神子や陛下もさぞ悩まれていることだろう」

 溜息をつくマルタにリーガルも唸るように同意する。
恐怖の対象がないこの世界では、救いを求める人々も減少して崇拝の念も薄れていくだろう。
教会の腐敗と重なれば、尚のことだ。

「この騒ぎは何?」

「っ、リンネ様!」

 聞こえたのはリンネ・アーヴィングの声。
彼女の隣には補佐のランスロットもいる。
仕事の途中なのか彼女はロイドと一緒にいたときの服ではなく、アンジェラが出会った時の白い法衣に変わっていたが。
助けて貰えると思ったのか祭司はよろめきながらも立ち上がり、リンネの前に膝をついた。

「こ、この者たちが、ヴァンガード達が!」

言ってこちらを睨む祭司に、リンネがこちらを向く。
事情を説明してほしいのだろう。
そっと息を零したリーガルが、マルタ達に支えられる老婆を見た。

「そこの祭司が、孫の治療のために教皇の紹介状が必要だと言う老婆に手荒な真似をしてな。それをヴァンガードと彼女たちが止めただけだ」

「き、貴様でたらめを!」

立ち上がろうとした祭司だが、デクスに蹴られた場所が痛むのかすぐにまた膝をついた。
祭司と仲間……しかもシルヴァラント人を蔑ろにするような人間だ。
どちらを信じるかなんて、考えるまでもないだろう。

「それは、申し訳ございませんでした。ブライアン公爵」

「ブライアン公爵!?」

 恭しく首を垂れるランスロットに、祭司が悲鳴に近い声を上げる。
顔は知らなくとも、テセアラの祭司なら名前くらいなら聞いたことがあるだろう。
先ほどまで怒りに震えていた祭司の顔は、一気に青ざめていった。

「申し訳ございません。教会の者が失礼をいたしました」

「そ、そんな……顔を上げて下さい」

リンネが頭を下げて膝をつき、老婆の体にそっと触れる。
治癒術によって溢れる淡い光に老婆は申し訳なさそうに首を横に振った。

「リンネ、様……」

「事情はゆっくり聞かせてもらいます」

横目で祭司を見るその眼は冷たい。
ようやく事の重大さを認識したのだろう。
祭司は視線を泳がせた後、俯いた。

「ランスロット」

「至急、医師会に確認させます」

 リンネが声をかければランスロットは眼鏡を押し上げて頷いた。
教会が腐敗しているのは分かっているが、少なくとも彼女たちのように正そうする者がいるなら多少はましになるだろうか。
 とはいえ、ここで会えたのは運が良かった。
話せないと思ったが、折角会えたなら聞くしかない。
とはいえ、面識のあるランスロットの前では下手な真似をしたくない。
老婆を支えて立ち上がり、ゆっくりと立ち去るランスロットの背中を見送ってからアンジェラは口を開いた。

「どうしてあなたはコア集めをやめたのに、ロイドはまだコアを集めているの?」

 また逃げられるのだろうかと不安はあったが、今は逃げる気配がない。
こちらに向き直った彼女は真っ直ぐアンジェラを見つめた。

「世界を守るため、だよ」

その眼は痛いほどに力強い。
嘘をついているようには見えないが、完全に信用は出来ない。
何も言わないアンジェラに話は終わったと思ったのか、リンネはリーガルたちに視線を向けた。

「ゆっくりしたいところだけど、まだ仕事があるから」

まだ何かあるのだろうか。
それと、と彼女は続けて言葉を探すように視線を走らせた後ゆっくりと口を開いた。

「ヴァンガードの動きが活発してるみたいだから、奴らの動きには十分気を付けて」

「分かった。すまないな」

反乱は先日の件だけではないのだろう。
リンネはそれだけ告げると城に向かって歩いて行った。
そっけない態度だが、話が出来るだけまだましになった方だろう。
 だが、しいなは何か引っかかるのか遠ざかるリンネの背中を見つめて頭を掻いた。

「あれって、リンネ……だよね?」

「やはり、しいなも違和感を感じるか?」

眉間に皺を寄せるリーガルに、しいなも眉間に皺を寄せながら頷く。
かつて共に世界を統合させた仲間だからこそ、感じるものがあるのだろう。
リーガルと二人でもう見えない筈のリンネを見つめるようなしいなに、エミルが首を傾げた。

「どういうこと?」

「リンネにしては雰囲気が固すぎるっていうか、あたしの知ってるリンネだったら、もうちょっとにこにこしてると思うんだけどねぇ……」

溜息交じりのしいなの表情は訝しげと言うよりは心配げだ。
何か気になることでもあるのだろうか。
一度言葉を区切ったしいなは、大きく息を吐き出した。

「なんか心を失ったコレットや、プレセアに似てる気がするんだよね……」

「まさか、天使疾患とやらが進んでいるのか?」

低いリーガルの声に、しいなが頭を抱えて俯いた。
リンネが天使疾患とは考えにくいが、実際に天使疾患を目にした者の証言は貴重だ。
少しでも情報が欲しいと思ったが、しいなは黙り込んでいる。
流石に心配になったのだろう、マルタがしいなの顔を覗き込んだ。

「……しいな?」

マルタの声に息をのみ、しいなは苦笑して頭を掻いた。

「ああ、ごめんよ。何か、大切なことを忘れてるような気がしてね」

「忘れてるって何を?」

首を傾げるエミルにしいなが頭を掻く。
だが本人も漠然と感じているだけなのか、首を何度も傾げてうねるだけで何も言わない。
最終的にはなんでもないよ、と笑って首を横に振った。

「何にせよ、リンネに何か異変があったなら、あほ神子が気づきそうなもんだけどね」

結局は何も分からず、アンジェラは内心溜息をついた。
一応、間違っている方向に話が進んでしまうのは避けるべきだ。
答えを出せずにいるしいな達に、アンジェラは口を開いた。

「リフィルからエクスフィアの話を聞いたことがあるけれど」

怪しまれないようにそう前置きして、アンジェラはリーガルたちを見つめた。

「リンネは姫神子でしょう?だったら、彼女が天使疾患を患うとは考えにくいわ」

「どうしてだい?」

「貴方達が天使疾患と呼んでいるものは、経口摂取によるエネルギー摂取の停止や体性感覚の喪失、視覚及び聴覚の向上のことでしょう?」

首を傾げるしいなに確認を込めて問いかけたが、益々訳が分からないといった表情をされてしまった。
もう少し簡単な言葉で説明するべきだっただろうかと思ったが、リーガルは頷いている。
まずはリーガルに話を聞いてもらおうとアンジェラは言葉を続けた。

「これらは、ハイエクスフィアとの融和による急激な身体構造変化の為に起こる現象よ。生まれたときからハイエクスフィアを装備して相互性が極めて高い上に、ゆっくりと時間をかけて融和していった彼女が今更天使疾患になるとは思えないわ」

リーガルは納得した様子で頷いているが、予想通りリーガル以外は話についてきていない。
次は理論よりも結果を分かりやすく説明しようと、アンジェラは顔を見合わせるマルタ達に目を向けた。

「リンネに天使疾患が起きるなら、ハイエクスフィアを馴染ませる過程である十年以上も前のはずよ。そうならなかったのは、彼女がハイエクスフィアと相性がいい証拠。だから私はリンネが天使疾患ではないと思うわ」

この説明はマルタ達にも伝わったようだ。
納得した様子で頷くマルタ達に、リーガルは話を整理するように口を開いた。

「では天使疾患でないとすれば、やはりコアが関係しているのだろうか。以前ロイドがコアを集めているのは、リンネの為のような反応をしていただろう?」

「まさか、コアの影響で精神が破壊されてるんじゃ……」

今までコアと共にいたのなら、あり得ない話ではない。
不安げに眉を寄せるマルタにエミルも俯いた。
個人差はあるが、人によってはコアを手にしたその時から心が蝕まれる可能性もある。

「ゼロスの言ってた契約とかが関係してるのかね……」

 沈黙が流れる中、しいなが考え込むように地面を睨んだ。
あの時、ミトスも言っていた。
『みんなを守るために、ボクらが交わした約束だ』と。

「約束、というのが何かのキーワードかもしれないわね」

鍵を握っているのはゼロスとミトス。
あの二人ならアンジェラの知らないことを知っている。
リンネが漂わせる違和感の正体も知っているだろう。
問い質したいところだが、うまくいくだろうか。
思考を巡らせていると、しいなが顔を上げた。

「ゼロスがあそこまで言ったんだ。『リンネとロイドの事は信じてくれ』って。昔のあいつならともかく、今のあいつが嘘をつくとは思えないよ。今のあたしたちに出来ることは、リンネ達のことを信じることじゃないのかい?」

「この不可解なことだらけの状況でよく信じられるわね」

「理屈じゃないんだよ」

からかうように言うが、しいなは笑って肩をすくめただけ。
旅で培った信頼関係は揺らぐ気配がない。
信じるより疑う方が簡単だとは思うが、しいな達にとっては逆なのだろう。
表面上は笑みを作っていると、リーガルが頷いた。

「そうだな。人を信じるのは頭ではない。心で信じるのだ」

「にしてもアンジェラ、あんたエクスフィアについて詳しいんだね」

知らなかったよ、と笑うしいなは何も感づいてないのか明るい。
アンジェラは静かに手を握りしめてゆっくりと口を開いた。

「リフィルから色々聞いたこともあるし、ヴァンガードにいた頃にも少し……ね。センチュリオン・コアとエクスフィアの構造は似ていたから、技術班として勉強していたのよ」

それらしい嘘を並べれば、誰も疑うことはなく頷いてくれた。
こうも簡単に信じられてしまうと肩透かしをくらった気分にもなる。
それともそう思われないように振る舞っているだけかもしれないが。
アンジェラは誰にも気づかれないように、そっと息を吐き出して笑みを作った――――



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