5-10:Scar.―悪夢の跡、失った証―
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地の神殿は、レザレノカンパニーの所有物らしい。
といっても実際に所有していたのはエクスフィア鉱山の方だが。
今は閉鎖したらしいが、今でもエクスフィアを狙う輩は多いために所有権は保持しているらしい。
「こら!ここは立入禁止だ!」
「何かあったんですか?」
洞窟に入ればすぐにマーテル教団兵に止められた。
声からして、中年の男性だろうか。
よく見れば、あたりにはマーテル教会のマークが入った資材が積んである。
心配げなエミルに、兵士は頷いた。
「このところ地震が続いてるだろ。そのせいで中が崩落しちまって大変なんだよ」
「入ることは出来ぬのか」
「見学か?中の修理が出来るまでは無理だと思うぜ」
リーガルの問いに兵士が洞窟の奥を指さす。
彼の示した先には大きな岩が道を塞いでおり、その奥にある橋も落ちてしまっている。
あれでは奥に進むことは不可能だろう。
「……どうしよう」
「でも、入れないのはロイド達も同じでしょう?だったら、無理に進む必要もないと思うけれど」
不安げなマルタにアンジェラは肩をすくめる。
ある意味、道が崩れていて良かったかもしれない。
これで少しでも早く雷の神殿へ迎えるのだから。
「そうだねぇ。入れるようになるまでただ待ってるのも何だし、先に雷の神殿に行ってみるかい?」
「そうだな」
しいなとリーガルの予想通りの判断に、アンジェラも頷いた。
ヴァンガードもデクスのような馬鹿ばかりではない。
これまでコアが発見された場所から、コアと精霊の神殿の関連性について気づいている可能性がある。
うまくいけば、トルニスのコアを狙いに来たデクスからコアが奪えるかもしれない。
「ところで、出発前にグラキエスのコアを孵化させませんか?」
兵士もいなくなったところで、テネブラエが姿を現した。
コアを持ち歩いているのはマルタだが、これだけ近くにいればリーガル達がコアの影響を受けるかもしれない。
「あ、そうだよね。そういえば手に入れてそのままだったもんね」
マルタが頷いて、薄い水色のコアを取り出して両手で上に掲げる。
光を放った雫型のコアは花を散らすように光を散らすと、グラキエスの紋章を刻んだ球体となった。
コアは確実に集まってきている。
ということは、ラタトスクも確実に力を取り戻しているということだろう。
そんなことを知らない本人は、コアをしまうマルタに安堵の息を零していたが。
「これでグラキエスも目覚めたんだね。よか……た……」
「――エミル!?」
だがその身体が突然倒れ、マルタがエミルの肩を揺するが固く閉じられた瞼はぴくりともしない。
コアを孵化させて何かしらの影響が出てきているのだろう。
動かないエミルに、テネブラエがそっと息を吐き出した。
「疲れがたまってたいのでしょうか」
「ここ最近、強行軍だったもの。近くの街で休ませた方がいいわね」
またメルトキオに戻ることになるが、仕方ないだろう。
「そうかもしれないね。とにかく街まで運ぼう」
しいなの言葉に頷いて、リーガルがエミルを担ぐ。
突然倒れたエミルが心配なのだろう。
エミルに寄り添うようにマルタがリーガルに付き添っている。
「あれも、コアが孵化した影響よね?」
二人きりになったところで、アンジェラは口を開いた。
この距離ならマルタ達には聞こえないだろう。
リーガルに担がれるエミルを見ながら、テネブラエは頷いた。
「はい。力を取り戻した影響で、一時的に意識を失ったのでしょう」
「やはり、ラタトスクは記憶を失っているの?」
そうでなければ、ラタトスクの振る舞いに納得できない。
横目で問いかければ、テネブラエはそっと目を伏せた。
「ええ。おそらくは、あの時の影響かと」
直接口に出さないのはテネブラエなりの配慮だろうか。
まさか、テネブラエに気を遣われるようになるとは。
やはりコア化するというダメージは大きいのだろうか。
いっそのことラタトスクにはすべて忘れたままでいて欲しいがそれはきっと叶わぬ願いだ。
アンジェラはそっと息を零し、意識のないラタトスクを見つめた。
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