5-09:Check.―王朝復活と魔導砲―
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「……さすが、世界再生の立役者。アリスちゃん、ちょっとピンチかも」
ミトスと共に階下へ行けば、ロイド・アーヴィングたちがアリスを追い詰めていた。
やはり、彼らは強い。
壁際まで追い詰められたアリスの息は弾んでいる。
「お前たちもコアを持っているな。それを渡せ!」
「だ・め」
「お前たちの目的にコアは必要ないだろう」
だがロイドに剣を向けられても、まだ余裕はあるらしい。
鞭を弄ぶアリスに、エミルが眉をひそめた。
「ヴァンガードの目的って、シルヴァラント王朝の復活……?」
「シルヴァラント王朝の復活?何を寝ぼけたことを……」
先ほどのデクスの話を思い出したのだろう。
ゼロスは鼻で笑い、セレスを支えながらアリスを睨みつけた。
今更王朝を復活させた所でどうにもならないと思っているのだろう。
沢山の視線を受けながら、アリスは口の端を上げた。
「あら、総帥は本気みたいよ。ブルート総帥は八〇〇年前に滅んだシルヴァラント王朝の子孫なんですって」
「……上に誰かいます!」
息を呑むテネブラエに、誰もが武器をその手に構えなおす。
上の階にいたのは満身創痍のデクスだった。
あの身体のどこに立つ力があるのだろう。
デクスは気持ち悪いポーズを決め、上からアンジェラ達を見下ろした。
「知ってるかい。シルヴァラント王朝はクルシスの天使とマーテル教会に滅ぼされたんだぜ」
笑って言うデクスに、ミトスの肩が僅かに跳ねたような気がした。
彼はクルシスの責任者。
やはり責任感じているのだろうか。
そっと横目で見ていると、背後で小さな風が起きた。
咄嗟に振り返ればそこにアリスの姿はなく。
彼女はペットのティリーに乗って、デクスの元へと飛んでいった。
こんな初歩的な囮に気を取られるなんて情けない。
安全な所まで避難したアリスは、いつもの余裕を取り戻して腰に手を当てた。
「マルタちゃん、戻ってらっしゃいよ。ラタトスク・コアを持って帰れば、ブルート総帥も許して下さるわよ」
ブルート総帥が娘を溺愛しているのはヴァンガードでは有名な話だ。
コアに心を壊されたとはいえ、彼がマルタの命を簡単に奪うとは考えにくい。
マルタとて、本当は大好きな父親の傍にいたいだろう。
エミルが心配げにマルタをみれば彼女は俯いていた。
迷っているのだろうか。
だが静かに顔を上げたマルタは、強くアリスを睨みつけた。
「……戻らない、絶対に。パパの馬鹿げた野望を打ち砕くために、私はラタトスク・コアを持ちだしたんだから」
その強いまなざしは、パルマコスタを旅立ったときと変わらない。
いや、そのときよりも強くなったような気がする。
血の粛清の事実をほんの少しとはいえ思わぬ形で知った今、マルタの心は不安に揺れているはずだが、彼女はそれを感じさせないように気丈に振舞っている。
拳を振るわせるマルタに気づいたのだろうか。
アリスは鞭を弄びながら踵を返した。
「頑固なコは嫌われちゃうんだからね。さ、デクス、行くわよ」
「アリスちゃんとならどこへでも!」
デクスが気持ち悪いポーズを決めればアリスがきもーい、というのが聞こえてきた。
この距離では追いかけても逃げられるだろう。
アリスの姿が見えなくなったところで、マルタが俯いた。
「マルタ様……気をしっかりお持ちください」
「……う、うん……」
顔を上げたマルタは笑みを浮かべていたが、その笑みはぎこちない。
移動続きの上に、心労が重なれば心身ともに疲弊するだろう。
「無理しなくていいのよ」
歩み寄ってそっと肩に手を置けば、マルタは唇をかみ締めた。
弱いところを見せたくないのだろうか。
だが疲れているのはマルタだけではない。
「……皆傷ついて疲れている。ひとまずメルトキオへ戻ろう」
「そだね。セレスも心配だし……。ロイドもそれでいいよね?」
リーガルの言葉にコレットが真っ先に頷く。
いつものロイドならこの状況でも逃げるはずだが、流石に今回はセレスが心配だったのだろうか。
無言で剣を仕舞い、逃げることなくゆっくりと歩き始めた。
「ねえ、アンジェラ。アステルって……何?」
ロイドを追って彼の仲間が歩き出したところで、エミルがこちらを振り返った。
先ほどのリヒターの台詞が気になっているのだろう。
真剣な目に、アンジェラはそっと息を零した。
「彼の親友よ。あなたにすごく似ているの」
それ以上は何も言わず、ただにこにこと笑う。
何か思うことがあるのだろうか。
エミルは何も言わずに俯いてしまった。
「エミルたちも、あのリヒターって人と知り合いだったんだね」
ふいに会話に入ってきたのは、少し前を歩いていたコレットだ。
ロイドとの話はもう終わったのだろうか。
その知り合いのような口ぶりに、マルタが目を丸くした。
「え?もしかして、コレットとリヒターって知り合いなの?」
「うーんと、お友達?」
「「「ええっ!?」」」
思いがけない言葉に、マルタたちが目を丸くする。
驚いたのは彼らだけではない。
「……本当なの?」
そんなわけがないと思いつつも、疑問は口から出ていた。
以前、ヴァンガードが神子の輝石を狙っていると聞いたことがある。
敵同士である彼らが何故、友達になるのだろう。
問いかければ、コレットはそっと胸元に手を当てた。
「なんかね、私が持ってるクルシスの輝石、このペンダントみたいな奴なんだけど、このクルシスの輝石をくれって言われたの」
「そういえば、ヴァンガードも神子を捜してるもんね。もしかしたら、あいつらの計画にクルシスの輝石が必要なのかな……」
ちらりとマルタが答えを求めるようにこちらを見たが、アンジェラにも何故リヒターたちが輝石を
探しているかは分からない。
肩をすくめていると、コレットがそっと息を零した。
「でもね、大切なものだからあげられませんって言ったら、力尽くで奪うって言われて……」
「まさか、命を狙われたのですか!」
驚きの声を上げるテネブラエに、内心当然だと頷く。
彼が他人と馴れ合うわけがない。
だがコレットは苦笑しながら首を横に振った。
「ううん。私、驚いて逃げようとして、近くのお家の壁に穴を空けちゃったんだ。お家の人に凄く怒られちゃって……そしたらリヒターが一緒に謝ってくれて、弁償までしてくれたの」
「壁に、穴……」
普通、人間が壁に穴を空けるなんて考えられないが、彼女の場合それが簡単に出来てしまうから恐ろしい。
リヒターもコアを奪うために強引な手段ばかりとっているが、根は優しいのだ。
強硬手段に出ようとして、気がそがれてしまったのだろう。
謝る様子も弁償するようすも出来てしまって、アンジェラはそっと笑みを零した。
「……そ、それで?」
「今日は見逃すが、次は必ずクルシスの輝石を手に入れるぞって挨拶してから帰っちゃった」
「それは挨拶じゃなくて捨て台詞じゃ……」
生唾を飲み込むエミルにコレットが笑えば、マルタが大きくため息をつく。
昔のリヒターと今のリヒターは変わってしまったように見えるが、変わらない部分もある。
それがなんだか嬉しくて、頬が緩むのが分かった。
「相変わらずね……」
「きっとリヒターって神子マニアなんだと思うよ。だからクルシスの輝石が欲しいんじゃないかな」
「そうね。そうだといいわね」
拳を作り、力説するコレットにアンジェラも笑って頷く。
ただそれだけの理由ならどんなに嬉だろう。
彼がただの好奇心だけで、輝石を集めていたとしたら。
ありえないことだと思いつつも、そう願ってしまう。
二人で笑っていると、マルタ達は呆れたのかそろってため息をついた。
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