4-05:Investigation. ―実験と証拠―

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 カマボコグミを使ってヒッカリカエルをおびき出せば、二つの関連性は明らかになる。
実験はそう難しいものではない。
一日もあれば出来るだろうと思っていたが、ベルクに話を聞いてみた所、カマボコグミの在庫は先日の火事で燃えてしまったらしい。
材料から調達すると約束したが、色々と面倒なことになってしまったと宿屋に向かいながらアンジェラは溜息をついた。
マルタ達はうまく情報収集出来ただろうか。
心配なのは、ラタトスクモードの凶悪性だ。
最近ではラタトスクモードになる時間が徐々に増えている。

『今回は少し違って、誰かが助けてくれた気がするんだ』

先日のエミルの言葉を思い出し、アンジェラは静かに拳を握りしめた。
振り下ろされる剣と斧、それを遮る何か。
どうしてそれをエミルが知っているのだろう。
どうしてその視線で見ていたのだろう。
その視線でそれを見ていたのは、ただ一人しかいないというのに。
そんなはずがないのに。
そうであってほしくないのに。
その先の答えは、本当はこの胸の中にある。
それでも辿りつきたくないのは心がそれを拒んでいるから。
感情で物事を判断したくないのに、頭では分かっているのに冷静になりきれない自分が嫌になる。

「アンジェラ!大丈夫?」

 聞えた声に顔を上げれば、マルタが宿屋の前から駆けてきた所だった。
もう情報収集は終わったらしい。

「顔色悪いよ。何かあったの?」

それほど酷い顔をしていたのか、心配げなマルタにアンジェラは笑みを浮かべた。
彼女に余計な心配をかけるわけにはいかない。

「ごめんなさい。カマボコグミで誘きだそうと思ったけれど、在庫は全て燃えたらしいわ。作るには原材料であるジェリーフィッシュを手に入れないと」

適当に誤魔化して、アンジェラはベルクから貰った特性餌を見せた。
釣りなら先日マルタ達がやったことがある。
道具はテネブラエがなんとかしてくれるだろう。

「そのジェリーフィッシュってどこで手に入れるの?」

「トリエットに生息しているらしいわ。そっちはどうだったの?」

視線をエミル達にも向ければ、それだけで答えは分った。
この表情だと、良い情報を手に入れただようだ。

「アンジェラの言う通り、放火事件の現場には必ずカマボコグミがあったよ」

子供が隠したもの、海産物店、船の積み荷。
場所も状況も違うが、全ての現場に共通するのはカマボコグミ。
エミルが説明する間にもテネブラエは姿を現さなかったが、まだ納得していなのだろう。

「ではトリエットに向かおう。在庫がないとはいえ、またヒッカリカエルが村を襲わないという保証はないからな」

魔物にも学習能力はある。
何度もカマボコグミを狙って村に来ているのがその証拠。
彼の言う通り、餌を求めて人里に下りてきた魔物が人を襲うという事件は少なくない。
それに、早くこの事件を解決してフラノールに向かわなければ、リンネ達にコアを奪われてしまう。
アンジェラ達は手短に準備を整えるとすぐにトリエットに向かった――――


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