×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
4-04:Acquittal. ―前へ、自由に―

4/6



 「一時はどうなることかと思ったが、本当に助かった。ありがとう」

荷物があるという宿に行けば、程なくして着替えを済ませたリーガルが出てきた。
フォーマルなダークグレーのスーツに身を包んだ彼が、先ほどまで囚人服を着ていたと誰が思うだろう。
しっかりと身なりを整えたリーガルは、改めてセイジ姉弟を見つめた。

 「しかしまさかこんな所でお前たちと再会するとは思わなかった。やはりロイドを追ってきたのか?」

「ロイドの行方を知ってるんですか?」

リーガルの問いに答えたのは、セイジ姉弟ではなくエミル。
割って入ったエミルに、リーガルが目を丸くした。

「君は一体……」

「彼はエミル・キャスタニエ。こちらはマルタ・ルアルディで、私はアンジェラ。訳あってロイド・アーヴィング達を探しているの」

仲間との再会に割りこまれれば困惑するのも当然のこと。
手短に自己紹介を終えれば、リーガルも自己紹介してくれた。
ロイドを探している理由は伏せるべきか、それとも旅の理由を全て話してしまうべきか。

「実は、色々面倒なことになっているの。簡単に事情を説明しておきましょうか。テネブちゃん、あなたも出てきて」

「テネブラエ、です」

リフィルが声をかければ、何もない空間からテネブラエが姿を現した。
テネブラエもリーガルに話そうと思っているのだろう。
そうでなければ、変なあだ名で呼ばれたとしても出てくるわけがない。
得体の知れない生物にリーガルは息をのんだものの、テネブラエとリフィルの話には静かに耳を傾けてくれた。
順応能力の高さは会長という立場だからか、世界を救った英雄だからか。
どちらにしろ、彼がただの人間ではないのは確かだ。

 「……信じられぬ。あのロイドが我らに隠し事をするとは。それにラタトスクにセンチュリオン・コアか。精霊や天使といい、我らはそういうものに浅からぬ縁があるのかもしれぬな」

リフィル達の説明に、リーガルが考え込むように俯いた。
二年前に世界統合して世界の理を変え、そして今も世界の危機に直面している。
それも、アンジェラ達以外誰も知らない世界の危機に。

「あのっ、それでロイドは……」

言いにくそうに、けれど急かすようなエミルにリーガルが顔を上げた。

「ベルクから聞いた話ではフラノールに向かったらしい。それもごく最近のことだそうだ」

「ホント!?姉さん、ボクらも急いでフラノールに……」

「……そうね。まだ追いつけるなら、もう一度話をしてみるのもいいかもしれないわ」

目を輝かせるジーニアスにリフィルも頷く。
フラノール近くにある氷の神殿にはコアがある可能性が高い。
リンネ達がフラノールに向かったというのなら、コアを奪われてしまうかもしれない。
コアの事を考えるなら今すぐ船を出して貰い、フラノールに向かうべきだ。

 「……少しいいだろうか。私もロイドのことは気になっている。皆の旅に私も加えてはもらえぬか?」

「そりゃボクと姉さんはかまわないけど、エミルとマルタは?」

センチュリオン・コアを集める旅はエミルとマルタの旅。
ジーニアスとリフィルはそれに同行しているにすぎない。
ちらりとジーニアスが二人を見れば、マルタは迷わず頷いた。

「私もかまいません」

そう言ったマルタがエミルを見れば、エミルは小さく息をのんだ。
少しずつ『ロイドの仲間』に対する認識が変化しつつある今、断ったりしないだろう。

「……えっと、僕ら頼りないですけどそれでも良ければ。テネブラエとアンジェラも、いいよね」

「私はマルタさま達に従います」

たどたどしく頷いたエミルがテネブラエに視線を送れば、テネブラエはすぐに頷いた。
テネブラエはラタトスクの僕。
この二人の決定に異を唱えるわけがない。

「私も問題ないけれど、会長さんは大丈夫なの?お仕事に支障が出るんじゃないかしら」

戦力が増えるに越したことはないが、彼はリフィル達と違い立場ある人間。
この旅は一日や二日で終わる旅ではない。
それが分らない彼でもないだろうに、この旅についてきて本当に大丈夫なのだろうか。

「こちらから連絡は入れるが、会社の方ならジョルジュ達に任せれば問題ない」

会長不在による企業の損失より仲間。
こちらを見つめる青い目には迷いがない。
それでも素直に頷くのは癪に思えて、アンジェラは口の端を上げた。

「あら。会長不在でも問題ない企業なんて、ある意味問題じゃないかしら?」

「全ての社員を信じているからな。皆、実に優秀な仲間だ」

アンジェラの皮肉に、リーガルは眉ひとつひそめず余裕の笑みを浮かべた。
会長不在でも問題のない会社など、会長がただの飾りではないのか。
そんなアンジェラの思考さえも読み取っているような笑みに、少し居心地が悪くなった。
何故ここまで赤の他人を信用出来るのだろう。
レザレノ程の大企業となれば、顔も知らない社員を雇っているはず。
彼は全ての社員の顔や名前、人間性を把握しているのだろうか。
それとも顔も知らない人間を信用しているのだろうか。
理解できない。

「……貴方がそれでいいなら、私も構わないわ。戦力が増えるに越したことはないもの」

何とか笑みを作って頷けば、リーガルは笑みを深めた。
自社の社員を信用しているように、会って間もないアンジェラの事もこの男は信じるのだろうか。

 「これからよろしく頼む。我が片翼の名にかけて裏切らぬと誓おう」

改めて手を差し伸べてきたリーガルの手をとったのはエミルだった。
続いてマルタやテネブラエとも握手を交わし、アンジェラも握手を交わす。
一通り挨拶が終わった所で、リフィルが口を開いた。

「それじゃあ、出発しましょうか」

リフィルに頷いてジーニアスとリフィルが歩き出す。
だがロイドの手掛かりを手に入れた今、一刻も早くフラノールに向かいたい筈のエミルは右手を見つめたまま動かない。

「どうしたの、エミル」

「――う、ううん。なんでもない」

マルタに声をかけられ、エミルは首を横に振った。
何か気になることでもあるのだろうか。
慌てて駆けだしたエミルの背を見つめ、アンジェラはそっと息を零した――――




.

- 231 -


[*前] | [次#]
ページ: