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4-04:Acquittal. ―前へ、自由に―

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 リーガル・ブライアンがうまく釈放されたかは気になるが、それ以上に気になるのがカマボコグミだ。
ヒッカリカエルの好物がカマボコグミなどという説は聞いたことがない。
だがヒッカリカエルの生息地であるフラノールとの定期便が出るようになったのは、つい最近のことだ。
まだ世間に浸透していないカマボコグミがヒッカリカエルに及ぼす影響など、誰も知らないだろう。
これはカマボコグミについてもう少し詳しく調べてみた方がいいかもしれない。

 「良かった!釈放されてる!」

「……世話をかけたな。すまぬ」

ジーニアスが駆け寄ると、リーガルは申し訳なさそうに微笑んだ。
放火事件が彼の犯行でないと分ったなら、船はすぐに出るだろう。

「疑って悪かったよ。今手錠を……って、あれ?」

「どうしたんですか?」

服のポケットに手を入れた男が首を傾げれば、エミルも首を傾げた。
無実が証明されたのなら、すぐにでも釈放するはずだがこの様子とみると釈放したくても出来ないのだろう。

「鍵がないぞ?どっかで落したのかな?」

「ちょっと、冗談は顔だけにしてよね!」

「……どういう意味だ」

間抜けな発言にマルタが声を上げれば男がマルタを睨んだが、この状況で鍵がないというのは笑えない。

 「予備の鍵はないの?」

「そんなものあるわけないだろ」

マルタの言葉で機嫌が悪くなったのだろうか。
当然だと言わんばかりに、こちらまで睨んでくる男にアンジェラは溜息をついた。
何故彼は予備の鍵を作っていないのだろう。
こういった不測の事態が起きた場合、どう対処すべきだったのだろうと考えて……やめた。
こんな急ごしらえの牢屋を作った人間たちだ。
深く考えずに行動していたに違いない。

 「ロイドやリンネがいれば、鍵なんて簡単に開けてくれるのに……」

「リンネがどうにか出来るの?」

「二人ともこういうのは得意だから」

アンジェラが首を傾げれば、ジーニアスは頷いた。
ジーニアスの話によると、二人は針金一本で手錠も扉も開けられるらしいが、無断で解錠するなど犯罪。
だがこの状況で解錠出来る者がいれば、便利だったかもしれない。

 「――器物破損で再逮捕されないといいが」

八方塞の状況でも、リーガルは笑っている。
何をするつもりなのだろうと内心首を傾げていると、リーガルがほんの少し手首を動かしたように見えた。
それと同時に手錠が割れ、無機質な音を立てて手錠が地面を転がる。
こんな簡単に破壊できるのなら、あの牢屋も簡単に壊せただろう。
実行に移さなかったのは罪を重ねない為なのか、自分の無実を証明してくれる者がいると信じていたのだろうか。
赤の他人を信じていたのだろうか。

 「このメーカーの手錠はあまり丈夫ではないようだ。次は我がレザレノグループ製のものを使ってみてくれぬか?サンプルを送らせよう」

「は、はい……!」

平然と言うリーガルに呆然と男が頷く。
無実の罪で拘束されたのなら、制裁を与えることが出来るだろうに。
だがリーガルは男達を咎めることはなく、何事もなかったように手錠をはめられていた手を撫でている。

 「すまないが、着替えたい。宿に戻って構わないか?」

「その方がいいわね。私もあなたの囚人服を見るとは思わなかったから」

「……まったく情けないものだ。皆には改めて礼をしなければならぬな。とにかく、感謝している」

笑みを零すリフィルに、リーガルが苦笑する。
前科持ちの大企業会長とはどんな人物かと思ったが、こうして接している限り悪意のようなものは全く感じない。
彼は囚人とは思えないほど物腰柔らかで気品がある。
投獄歴があるとは思えないほどだ。

 「しかし、こんな形でお前たちと再会するとはな」

リーガルは穏やかな眼差しで一同を見渡し、並んで立つリフィルとジーニアスを視界に収めると笑みを深めた。

「本当ね。まさかあなたがまた囚人になっているとは思わなかったわ」

「ホントホント。てっきり会長室で忙しくしてるんだと思ってた」

小さく笑うリフィルに、ジーニアスも肩をすくめて笑う。
皮肉が皮肉に思えないのは、それだけ心を許した証だろうか。
リーガルは二人の言葉に気を悪くした様子もなく、穏やかに笑っている。

「会長職と兼任で新会社の取締役に就任したのだ。新会社は主にシルヴァラントで事業を展開しようと考えていてな。あちこち回っていたところだった」

「テセアラの企業の割には、レザレノ・カンパニーはシルヴァラントの受けがいいからね」

「やはりパルマコスタの復興に尽力した功績が認められているからでしょうね」

ジーニアスとリフィルの言葉に、リーガルが頬を緩める。
今はシルヴァラントに受け入れられているレザレノだが、統合直後はテセアラという未知の地からやってきた者に対して冷たい態度をとる者も少なくなかった。
それでもここまでシルヴァラントの人々に受け入れられたのは、それ相応の努力をしたからだろう。
リーガルは力強く頷き、だがすぐに表情を引き締めた。

「……テセアラではシルヴァラント人を蛮族扱いしている者も多い。わが社がその誤解を解いていければと思っている」

八〇〇年も分れていた世界が、そう簡単に分りあえるとは思わない。
だが静かに語るリーガルの目は真剣そのもので、瞳は力強い光を宿している。
異なる環境で育ってきた者達が、互いが分かりあえると信じているのだろうか。

 「でもさ、テセアラと対立しているおかげで、ハーフエルフへの風当たりは少し弱くなってるんだよね」

「ええ。ハーフエルフの知識が求められるようになったわ。好ましいことではないけれど、きっかけにはなるかもしれない」

シルヴァラントはテセアラに比べれば差別は軽い方だと聞いたが、それでも差別はあったはず。
人間とは実に単純なものだ。
複雑な表情で笑うリフィルに、リーガルが小さく息を零した。

「互いに問題を抱えているな」

マナを搾取し合うという仕組みがなくなったものの、今はセンチュリオン・コアによる世界の破滅が迫っている。
最も、リーガルはそんなことは知らないだろうが。

「当面の問題はロイドだけどね」

「そうだな……今、何をしているのだろうか」

息を吐き出すジーニアスに、リーガルが空を仰いだ。



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