4-04:Acquittal. ―前へ、自由に―
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急いでイズルードに戻り、リフィルがローズマリーのしぼり汁をベルクの口に垂らすようにして与える。
解毒剤の効果はすぐに表れ、ベルクの身体に浮かび上がっていた模様も消えていった。
あとはベルクが目を覚まし、放火事件の真相を話して貰えば船が出る。
「う、ううっ……」
「やったね、エミル!」
「う、うん!」
うっすらと目を開けたベルクにマルタとエミルが顔を見合わせて嬉しそうに笑った。
目が覚めたものの、まだ意識がはっきりしていないのだろう。
ふらつきながら上体を起こすベルクをリフィルがそっと支えた。
「……あ、あんたたちは……?」
頭を押さえ、どこか虚ろに辺りを見回すベルクに事情を説明する。
彼が意識を失った後、リーガルが放火犯として捕まったこと。
現在も放火事件が続いているにも関わらず、リーガルが放火犯として投獄されていること。
全てを話し終えるとベルクは意識もはっきりしてきたのか、しっかりと頷いた。
「そんなことになってたのか。いやぁ……とにかく助けてくれてありがとう」
この様子を見ると、やはりリーガルは冤罪なのだろう。
真相を確かめてみようとアンジェラは口を開いた。
「貴方が意識を失った原因は何なの?」
「俺とリーガルさんが話をしていると、いきなり目の前に光の塊が現れたんだ」
「その光の塊というのはカエルじゃないかしら?」
アンジェラの問いにベルクはよく分かったな、と目を丸くした。
色々と気になることはあるが、それは全て話を聞いてからにした方が良いだろう。
「すっげえ眩しくてさ、リーガルさんはすぐ気を失っちまった。俺はサングラスをしていたから無事だったけどな」
「……現れた時から光っていた?そんなバカな」
「嘘はついてないぞ。で、カエルが俺の自信作カマボコグミを食べ始めて、突然光って周りの木箱にボッと火がついたってわけよ」
怪訝そうに眉をひそめるリフィルに、不服だと言わんばかりにベルクは眉間に皺を寄せた。
ヒッカリカエルが発光するのは、体内に高エネルギー吸収した際や身の危険を感じた時のみ。
それにいくら昏倒させるほどの光を放つとはいえ、これだけの長い間昏倒させるほどのエネルギーを蓄積できるのかが疑問だ。
「もしかして、ヒッカリカエルに直接触れたの?」
「そうだよ。火を消そうと思ってカエルを手で払ったら、その瞬間に気分が悪くなっちまって……」
ヒッカリカエルに触れて気を失ったというなら、それは身の危険を感じたヒッカリカエルが発光したものと考えるのが妥当だが、ベルクがヒッカリカエルに触れたのは発光してからだ。
やはりタイミングがおかしい。
「殴った時にヒッカリカエルの毒に触れちゃったわけか……」
「あ、あれって、触れただけで毒にやられちまうのか。これからは気をつけないとな」
心配げに呟くマルタに、ベルクが口元を引きつらせた。
ベルクが昏倒したのはヒッカリカエルの毒に触れたからだろうが、そもそもヒッカリカエルは何故発光したのだろう。
ここ、イズルードは小さいとはいえ、水産物が豊富な漁港。
餌には困らないが、ここまで連続して放火するほどのエネルギーを蓄積できるだろうか。
余程の数が棲みついているのかもしれないが、ヒッカリカエルの目撃情報がないことを考えるとそう数は多くないはず。
だとしたら、少数のヒッカリカエルが高エネルギーを摂取している可能性の方が高いだろう。
ベルクはカマボコグミを食べたヒッカリカエルが発光したと言っていたが、カマボコグミにそれほどの栄養分が含まれているのだろうか。
思考を巡らせていると、風が吹いた。
それはベルクが走り去る際の風だと気付いたのは、マルタが嬉しそうに笑った後だった。
「元気になったみたいで良かったね。私たちもリーガルさんの所に行こうよ」
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