×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
4-03:Rosemary. ―確かめる、信じる―

3/6



 奥へ進めば自生するハーブの種類も増えてきたが、ローズマリーは見当たらない。
簡単に見つかるとは思わなかったが、想像以上に時間がかかりそうだとアンジェラはそっと息を零した。
普通の野山と雰囲気が違う気がするのは、ハーブが多いからだろうか。
ハーブを見て思い出すのはリヒターの事。
彼がハーブ好きと知ったのはいつ頃だっただろう。
水辺に咲くハーブを見ていると幸せだった日々を思い出して、自然と口元がほころんだ。

 「何だかアンジェラ楽しそうだね。もしかしてハーブとか好きなの?」

そんなに表情に出ていたのだろうか。
気がつけばマルタがこちらを見て楽しそうに笑っており、内心驚いた。
だがハーブは嫌いではない。
アンジェラは頷くと、近くのハーブに目を向けた。

「そうね。好きよ。ハーブで料理の味が変わるもの」

「ハーブか……僕は苦手だな」

「なんで?」

だがエミルはあまり好きではないらしい。
溜息をつくエミルにマルタが首を傾げれば、余程嫌いなのかエミルは顔を歪ませた。

「ハーブって、匂いがきついし、辛いっていうか苦いっていか、変な味がするし」

「あら、それがおいしいんじゃない」

「案外子供なのね。大人になると苦みも辛みも美味しく感じるようになるわ」

ハーブが苦手なんて、味覚が未発達な証拠。
ラタトスクの騎士とはいえ、まだまだ子供らしい発言にアンジェラはリフィルと共に笑った。

「そうですね。闇と苦味は大人の味です」

大きく頷いたのはテネブラエだが、苦みと闇をひとくくりに考えるのは如何なものだろう。
やはりセンチュリオンと人の感覚は違うようだ。
テネブラエの冗談か本気かよく分からない発言にエミルは口元を引きつらせた。

「闇は味覚と関係ないと思うけど」

「つまり闇属性のテネブラエはお年寄りってことだね」

大きく頷くマルタにテネブラエの顔から笑みが消える。
この様子だと、テネブラエは闇も味覚も同じように考えたのだろう。
大雑把な感覚だと、アンジェラが小さく笑っているとジーニアスが辺りを見渡した。

 「それにしても、ここって寒いね……」

「ホントだ……。水が流れるからかな……。ひ、冷えるね……」

自分の肩を抱くジーニアスに、エミルも同じように肩を抱く。
ジーニアスの言う通り、近くを流れる川が辺りの温度を下げているのだろう。

「でも凍ってないね。水の温度はそこまで低くないのかな」

「そのようね」

屈んだマルタがそっと川を覗き込むが、水は澄み渡っている。
ここに自生しているのはハーブだけではない。
ソーサラーリングにしか反応しない……それもソーサラーリングが生み出す水にしか反応しない花が数多くある。
植物学に精通したリヒターがこの花を見たらどんな反応をするだろう。

「しかし暑いだの寒いだの人間は不便ですねぇ」

「デリケートなの!テネブラエみたいに鈍感じゃないんだから!」

「し、失敬な!私にも感覚ぐらいあります!」

一人物思いにふけっていると、テネブラエとマルタがにらみ合いを始めていた。
マルタ相手にここまでムキになるとは、テネブラエも子供っぽい所があるものだ。

「センチュリオンは寒暖の差が分らないの?」

「寒暖の差よりももっと重要なものがあります」

アンジェラが問いかければ、テネブラエは誇らしげに胸を張った。
まさか、先ほど言っていた暗さのことだろうか。
そっと息を零していると、興味がわいたのかエミルが首を傾げた。

「どんな感覚?」

「暗いとか、より暗いとか、もっと暗いとか……」

誇らしげなテネブラエだが、暗さの度合いがそれほど重要とは思えない。

「……闇のセンチュリオンだからってそれはないよ」

なんとも言えない空気の中、ジーニアスが大きなため息をついた。

 「でも、ハーブは沢山あるみたいだけど、ローズマリーはなさそうだね」

早くこんな寒い所を出たいのだろう。
身体を震わせ、エミルが辺りを見渡しアンジェラも改めて辺りを見回した。
サフランやセージなどのハーブはここに来るまでに沢山見てきたが、肝心のローズマリーが見つからない。
簡単に見つからないから枯れたと言われているのだろうが、そろそろ見つけてしまいたい。
何の手がかりもない状況に、エミルは肩を落とした。

 「元気出して、エミル!もっと奥に行けばきっとあるよ」

「……うん。ごめん、弱気になって。僕が探そうって言い出したんだもんね。最後まで諦めちゃダメだよね」

ね?とマルタが微笑めば、エミルの視線が上がってきた。
以前のエミルなら、無理だと言って諦めていたに違いない。
いや、それ以前に赤の他人の為にここまで頑張ろうとしなかっただろう。
エミルは確実に変わりはじめている。
成長していると言っても過言ではない。
それはラタトスクの力による影響なのか、それともマルタが彼を変えたのだろうか。

「なんかエミル、少しずつ変わってきたね」

「そうかな?」

「うん。うまく言えないけど……良い感じだと思うよ」

言ってマルタが嬉しそうに笑えば、エミルは顔を赤くして頭をかいた。
気弱で後ろ向きなエミルと、気が強く前向きなマルタ。
やはり二人は相性が良いのかもしれない。
互いに足りないものを補い、共に進めるのだから。
アンジェラ達とは違って。

「あ、ありがとう」

耳まで赤くしながらも嬉しそうに言うエミルに、マルタも更に笑みを深めた。
以前はマルタが一人で騒いでいるだけだったが、あの喧嘩以来二人の絆はさらに強いものになった。
無自覚かもしれないが、二人は甘い空気を作り出している。
本来の目的を忘れていないか心配になるほどに。

 「……あーあ。ごちそうさま」

甘ったるい空気に耐えられなくなったのだろう。
ジーニアスが呆れながら肩をすくめれば、マルタ達は顔を赤くした。

「そ、そんなんじゃないよっ!ね、エミル!」

からかわれて余程恥ずかしいのだろうか。
マルタが同意を求めれば、エミルは乾いた笑いを上げた。
先日までとは違う反応をされてエミルもまだ戸惑っているのだろう。
二人を見ているとやはり悪戯心がわいて、アンジェラは小さく笑った。

「でも、好きなんでしょう?」

「だ、だって……!」

笑って言えばマルタの顔が更に赤くなる。
本当に期待を裏切らない可愛らしい反応をしてくれる。
言葉を返せず顔を赤くするマルタに、アンジェラはにっこりと笑みを浮かべた。

 「アンジェラもあの二人といるとみせつけられて大変じゃない?」

大きなため息をつく銀色の目は、半目になっている。
アンジェラはもう慣れてしまったが、ジーニアスはまだ慣れないのだろう。
溜息をつく少年に、アンジェラは微笑んだ。

「あら、可愛らしくていいじゃない」

「それ、本心で言ってるの?」

口元を引きつらせるジーニアスに、納得がいった。
これはただ単に呆れているのではない。
彼もからかい甲斐がありそうだと、アンジェラは口元を緩めた。

「そうやって二人をからかうってことは羨ましいのね。自分は好きな人と離れ離れだから」

「なっ!?」

「え?ジーニアスも好きな人いるの?」

どうやら図星らしい。
一気に顔を赤くしたジーニアスに、マルタが目を輝かせて寄ってきた。
マルタも年頃の女の子、色恋沙汰には敏感な年齢。
ジーニアスの話が気になって仕方ないのだろう。

「す、好きと言うか……な、なんて言うか」

マルタに詰め寄られ、耳まで真っ赤にしたジーニアスが後ずさる。
こちらも素直になれないお年頃なのだろう。
口をぱくぱくさせているものの全く言葉にならず、

「そ、そんなことよりローズマリーを探そうよ!」

ジーニアスの口から出てきたのは先を促す言葉。
言って歩き出したジーニアスにマルタが続き、リフィルも続いた。
だがこんなことでマルタが引き下がるわけがない。

「あら、ジーニアスも可愛い反応をするのね」

やはりああいう反応をしてくれる子供をからかうのは楽しい。
これからマルタに根掘り葉掘り聞かれるのだろうと、小さく笑うアンジェラの隣でエミルが口元を引きつらせた。

 「アンジェラって、いい性格してるよね……」

「エミル、何か言ったかしら?」

「な、何でもない!」

にっこり笑えば、エミルは全力で首を振って駆けだした。
またからかわれるとでも思ったのだろうか。
何にせよ、このままでは置いていかれてしまう。
アンジェラは笑みを零して、エミル達を追った。


.

- 224 -


[*前] | [次#]
ページ: