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4-02:Offender. ―正体と冤罪―

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 牢屋といっても、あったのは崖をくりついて作られた穴に扉が付けられただけの簡素な牢屋だった。
見張りは外に一人と中に一人。
確かにこれなら楽に脱獄できそうだ。

「あの、脱獄した放火魔のこと、お聞きしたいんですけど」

「はぁ?放火魔が脱獄した?バカ言うなよ。見てみろ、奥にいるから」

エミルが問いかければ、見張りをしていた男は顔をしかめた。
男が指で示した先に見えたのは、薄暗い牢屋の中で俯く一人の男。
顔はよく見えないが、よく鍛えられた体格のいい男だということは分る。

「あ、いる……」

「どうなってる訳?」

エミルが呟く隣でマルタが首を傾げた。
辺りに争ったような形跡もない。
この見張りが言う通り、脱獄などしていないのだろう。

「放火魔がここにいるってことは、さっきのボヤは別の犯人の仕業ってことになるよね」

「犯人と話をさせてもらえるかしら」

ジーニアスがリフィルを見れば、彼女は確信めいた目で見張りの男に声をかけた。
リフィルも先ほどのボヤ騒ぎが牢屋にいる男の犯行ではないと分っているのだろう。
事情を話せば男は少しだけ渋る様子を見せたが、気をつけろよ、と言って通してくれた。
 ありあわせの道具で作った牢屋らしく、固いはずの鉄格子は錆びており、少しのショックを与えれば壊せそうだ。
とはいえ、破壊された形跡は見当たらない。
入り口の門番が言う通り脱獄などしていないのだろう。
じっと周囲を観察していると、牢の中にいた男を見たリフィルとジーニアスが息をのんだ。

「「リーガル!?」」

呼ばれた男が、ゆっくりと顔を上げる。
鎖を鳴らして立ち上がった男は、青い目を大きく見開いた。
リーガルという名前は聞いたことがある。
確かレザレノ・カンパニーの会長にして世界統合の立役者の一人だ。

「リフィル……ジーニアス……何故ここに?」

「それはこっちのセリフなんだけど」

ジーニアスが溜息をつけば、男は苦笑して手錠に視線を落した。

「……確かに、恥ずかしい姿を見られてしまった」

そう零す男、リーガルは落ち着いているもののかなり疲れているように見える。
投獄されて精神的に参っているのだろう。
表情を曇らせるリフィル達にエミルは首を傾げた。

「リフィルさん達のお知り合いなんですか?」

「ええ、世界再生の旅の仲間で、リーガル・ブライアン。レザレノ・カンパニーの会長よ」

「レザレノってあの大企業の!?そんな人が放火魔だなんて……」

リフィルが答えれば、マルタが目を丸くした。
レザレノ・カンパニーはテセアラの大企業だが、世界復興に尽力した功績から全世界に名を轟かせている。
今やこの世界にレザレノの名を知らぬ者はいないだろう。

「ねえ、リーガル。どういうことなの?」

「それが……私にもよくわからないのだ」

ジーニアスの問いにリーガルは眉間に皺を寄せて首を横に振った。
彼の話によると、ロイドを見かけたというベルクに会い、話を聞いていた時に突然謎の光に包まれ気を失ってしまったらしい。
気が付いた時にはすでに家は炎に包まれ、気絶していたベルクを連れて外に逃げたが……

「連続放火犯として捕まってしまった――という訳ね」

「……その通りだ。しかし私はやっていない」

眉を寄せるリフィルに、リーガルが頷く。
彼の真っすぐな目は嘘をついているようには見えない。

「大丈夫、リーガルがそんなことするとは思ってないよ」

にっこりと笑うジーニアスにリーガルが口元を緩めた。
レザレノの会長と言えば、確か世界統合の功績が認められて恩赦された囚人。
前科持ちがまた罪を犯した可能性もあるが、リフィル達の表情を見るとそうは考えにくい。
それに、気になることもある。

「その謎の光というのは一体何なの?」

「私にも分らない。突然のことでな……」

頭を振って、リーガルは拳を握りしめた。
謎の光というのが分れば、この事件の真相も分るのではないだろうか。
先ほど聞いた放火事件も、火の手が上がる際に眩しい光があったという。
事件の鍵は謎の光が握っている可能性が高いはずだ。
アンジェラは思考を巡らせながらリーガルに問いかけた。

「ベルグという人の家に、何か変わったものはなかった?」

「変わったものは特にないが、カマボコグミならあったな」

「カマボコグミ?」

「ああ、彼はカマボコグミ職人だからな」

カマボコグミに、謎の光、そして炎。
これはただの偶然だろうか。
リフィルも同じ疑問を抱いたのか、そういえばと口を開いた。

「さっきの火事もカマボコグミが燃えていたわね」

「何、また火事が起きたのか!」

リフィルの言葉に、リーガルが息をのむ。
この様子だとまた放火事件が起きたことも知らされていないのだろう。
何も知らずに罪を増やされていたと知ったら彼はどうするのだろう。

「実は僕たち、その犯人を捜しているんです」

「放火はもっとも卑劣な犯罪の一つだ。ここから出ることさえできれば私も共に真犯人を捜すのだが……」

言ってリーガルは手の戒めを苦々しげに睨んだ。
彼に罪はないようだが、今ここで脱獄しても村人から嫌疑をかけられるだけ。
今はここで大人しく待って貰った方がいい。

 「あなたが会ってたっていうベルクさんは無実の証明とかしてくれなかったんですか?」

「それが、意識が戻らないらしい。火事で煙を吸い込んだのかもしれぬな」

マルタが心配げに眉を寄せれば、リーガルは首を横に振った。

「なら、一度様子を見に行った方が良いんじゃないかしら」

治療術ならリフィルやマルタがいる。
状態によるかもしれないが、下手な医者よりも有効な治療手段だろう。
エミルも頷き、マルタとリフィルを見た。

「そのベルクさんって、治癒術で何とかならないのかな?」

「うーん。実際見て見ないとなんとも……」

「なら、今すぐ行こうよ。その人が目を覚ませばリーガルさんもきっとここから出られるよ」

ね、と同意を求めればリフィルは頷き。

「そうね。そうしましょう」

「は、はい!」

エミルもリフィルの返事に嬉しそうに笑った。
ベルクを治療できるなら治療すれば、リーガルの無罪は証明される。
そうすれば、船も出港しコア探しを再開も出来て良い事ずくめだ。

「そういうわけだから、ちょっと待っててね」

「すまない。頼んだ」

ジーニアスが声をかければ、リーガルは疲れを見せながらも力強く頷いた。
かつての仲間を信頼しているのだろう。
リーガルの目はしっかりと白銀の目を見つめていた。



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