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4-01:Fishery.―火事と放火犯―

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 リフィルを追って船のある方へと行けば、すでにリフィルが船の乗組員らしき男と会話していた。
明るい表情を見ると良い具合に船が出ると考えたいのだが、彼女はかなづちだ。
恐らくは逆だろうと内心ため息をついていると、ジーニアスが声をかけた。

「姉さん、どうだった?」

「暫く船は出ないらしいわ。例の放火魔が逃げるかもしれないから、事件が落ち着くまでは欠航するそうよ」

やはりか、と内心ため息を零してアンジェラはリフィルを見る。
嬉しそうなのはやはり暫くは船に乗らなくてもすむからだろう。
とはいえ、困ったことになった。
今から陸伝いにパルマコスタに戻るにしても、時間がかかりすぎる。
何とかして船を出して貰うしかないだろう。

「そんなぁ。先を急ぐ人はどうするの?」

ジーニアスが困ったように眉を寄せて詰め寄るが、乗組員の顔は険しくなるばかり。
その疑いの眼差しはジーニアスだけではなく、アンジェラ達にまで向けられた。

「怪しいな。ボヤ騒ぎの後で急いで船に乗りたいなんて、まさかおまえたち放火魔なんじゃ」

「ごめんなさい。知人が危篤状態と聞いて、いてもたってもいられなくて。早くフラノールへ向かいたいのよ」

このままでは放火魔と思われてしまう。
アンジェラが咄嗟に嘘をつけば信じてくれたのか、男は申し訳なさそうに視線を逸らした。

「そりゃ悪いとは思うけどね、でも出せないもんは出せないんだよ」

「そんな!お願いします!」

「何度頼まれても駄目だよ!ほら、帰った帰った!」

エミルが詰め寄るが、男の意見は変わらない。
この様子だと、下手に粘るより引き返して作戦を練り直した方が良いだろう。
そう思って口を開きかけた時、エミルの纏う雰囲気が変わった。

 「……うるせえ!俺達は急いでんだよ!」

ラタトスクの力を憑依させたエミルが、怒気をこめて男を睨みつける。
いや、これは怒気というより殺気に近い。
肩を震わせ、男は数歩後ずさった。
このままもめごとを起こせば、それこそフラノール行きは難しくなるだろう。
止めようと名前を呼ぶが、聞えていないのかエミルは男を睨み続けている。

「な、なんだよ……。しょうがないだろ……村の総意なんだから」

「んなもん知るかよ。俺の邪魔するってんのなら」

エミルが手を伸ばしかけたその時。
ゆるりと上がった手が止まった。

「エミル!やめて!」

マルタの声に、エミルがこちらを振り返る。
マルタの言葉でいつものエミルに戻ったのだろうか。
呆然とした様子でエミルが辺りを見渡した。

「……あ……あれ?」

「エミル!どうしてこんな所でラタトスクモードになっちゃうのさ。今のはよくないよ。謝らなきゃ」

ジーニアスが声をかければ、漸く事態を理解したらしい。

「……あ、うん。そ、そうだよね。ごめんなさいっ!」

「……あ……ああ……」

勢いよく頭を下げたエミルに、男は拍子抜けしたように頷いた。
突然の変わりように驚いているのだろう。
微妙な空気が漂い始め、慌てたマルタが笑みを繕った。

「……よ、よーし。気を取り直して放火犯を捜そうよ!そしたらきっと船も出るよ」

「そうだね。とりあえず牢屋に行って何か手がかりがないか調べてみよう」

ね、とジーニアスに同意を求められ、エミルが躊躇いがちに頷くがその表情は暗い。
先ほど突然変化してしまったことに戸惑いを感じているのだろうか。
マルタに半ば強引に連れて行かれるエミルを見ながら、アンジェラはそっと息を零した。

 「ねえアンジェラ、ラタトスクモードってこんなに頻繁だったの?」

リフィルも今のエミルを見て疑問に思ったのだろう。
いつもより幾分か低い声に、アンジェラはゆっくりと口を開いた。

「ラタトスクの騎士になった直後は戦闘時にしかラタトスクモードにしかならなかったけど、最近では会話の中でもああなるわ」

「ボクや姉さんと一緒にいることで、ストレス感じてピリピリしてるとか?」

アンジェラの答えに、数歩先を歩いていたジーニアスが振り返る。
エミルを心配しているのだろう。
表情を曇らせるジーニアスにアンジェラは首を横に振った。

「違うと思うわ。元々友人が少なくて団体行動は苦手みたいだから、その可能性もないとは言い切れないけれど……そんな理由じゃないわ」

エミルのラタトスクモードはそんな些細な理由ではない。
エミルを変えたのは、もっと他の力が原因だ。

「コアを孵化させて騎士の力が強くなるのに比例して、頻繁になってきている気がするわ」

最初は戦闘時以外にラタトスクの力が憑依することはなかった。
ここまで頻繁にラタトスクが憑依するようになったのはここ最近のことだ。
まるで侵食されていくかのように、エミルとラタトスクの境界がなくなっていく。
アンジェラの言葉にリフィルは考え込むように顎に手を当て、ややあって口を開いた。

「ラタトスクモードになった状態のエミルには何か変化はないの?」

「特にないわ。最初から凶暴な人格だったもの」

アンジェラが首を横に振れば、リフィルは再び考え込むように口を閉ざした。
何か分ったのだろうか。
問いかけようとしたが、考えをまとめているなら下手に声をかけないほうがいい。
アンジェラは口と噤むとエミル達を追って歩き出した――――





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