3-10:Daydream.―夢と現実―
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トリエットで準備を整えると、アンジェラ達はイズルードへ向かった。
フラノールは海を隔てた北の島にあるため、船で向かわなければならない。
ここから最も近い港はイズルードだ。
港と呼ぶにはとても小さな村だが、パルマコスタよりも近くて安全だろう。
「今日はここまでにしましょうか」
リフィルが見上げた空は橙色に染まっていた。
この調子なら、特に問題が起きない限り明日にはイズルードに到着出来る。
休まず進めば夜にはイズルードに着くかもしれないが、急いだとしてもそんな時間に船は出ない。
アンジェラは頷いて空を見上げた。
「そうね。これ以上進むのは危険だと思うわ」
夜間は魔物が活性化することを考えると、下手に動くより明日の朝から動いた方がいい。
幸い、近くに水辺もあることだ。
野営するには便利な場所だろう。
「そうだね。おなかも空いてきちゃったし」
「じゃあボク、食事の準備するよ」
マルタが頷けば、ジーニアスは持っていた荷物を広げ始めた。
エミルも料理がうまいが、ジーニアスも中々のものだ。
手際良く食材を取りだすジーニアスに、リフィルは笑みを浮かべて歩み寄った。
「ジーニアス、私も手伝いましょうか」
「あ、私も……」
「二人に手伝われたら、食べるものも食べられなくなっちゃうよ」
やる気を示すリフィルとマルタに、ジーニアスは肩をすくめた。
リフィルはレモンにご飯を詰めて炊き、マルタも何を作ってもよくわからない物になってしまうほど料理が出来ない。
ジーニアスのやんわりとした拒絶にリフィルは口元を引きつらせ、マルタは眉間に深い皺を刻んだ。
「……あら、ジーニアス」
「それってどーゆー意味!?」
「言わせないでよ。傷つけたくないからさ」
マルタ達に責め寄られ、ジーニアスが首を横に振る。
直接「下手だから」と言って傷つけたくないのだろう。
尤も、彼の口調からすると二人をからかっているようにも見えるが、とアンジェラは小さく笑った。
「そうね。私もおいしい料理が食べたいもの」
リフィルやマルタが手を出せば折角のおいしい料理が台無しになる。
笑って言えば、マルタが唇を尖らせた。
「アンジェラだって人の事言えないくせに……」
「何か言ったかしら?」
「な、なんでもない」
満面の笑みで言えば、マルタは即座に視線を逸らした。
それほど恐かったのだろうか。
マルタは逃げるように竈の準備をはじめた。
「あ、エミル。薪を拾ってきてよ」
「う、うん……」
いくら料理の腕があっても火がなければ調理できない。
ジーニアスが声をかければ、エミルはしっかりと頷いた。
「一人でちゃんと拾えるかしら?」
「大丈夫だよ。子供じゃないんだから」
軽くからかえばエミルは苦笑して踵を返した。
一人で行かせるのは少し不安だが、この辺りの魔物はそう強くない。
それにいつも付き添うより、たまには一人で行かせた方がいいだろう。
いってらっしゃいと声をかければ、いってきますと言葉が返ってきた。
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