3-01:Lloyd.―仇と英雄―
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見れば見るほど、この村はのどかだった。
穏やかに雑談する人々、農作業に精を出す人々、外を元気に走り回る子供達。
「はっはっは!私がディザイアンの五聖刃、フォシテスだ!!」
「ロイド・アーヴィング参上!悪のディザイアンめ!成敗してやる!」
胸を張る金髪の子供の前に、一人の少年が立ちふさがった。
手に枝を二本持っている所をみると、あの子がロイド役なのだろう。
「いくよ、ロイド!ディザイアンをやっつけなきゃ!」
ロイドの隣に並んだのは一本の木の枝を持った女の子。
ポニーテールにしている所を見ると、あの子はリンネ役なのだろう。
三人はそれぞれ手に持った木の枝を振り回し、楽しげにどこかに立ち去って行った。
人間の子供はお伽噺などの主人公達になりきって遊ぶというが、この村ではリンネ達が子供達にとっての憧れなのだろう。
子供たちのあの楽しそうな表情を見れば、リンネ達がどれほど人々に慕われているか分かる。
「あの、ディザイアンという単語をよく聞くのですが、一体何者なのでしょうか」
辺りに気配がないのを確認し、姿を現したテネブラエが不思議そうに子供たちをそっと見ていた。
やはり世界が二つに分かれていた時の事はよく覚えていないのだろう。
目を丸くしたマルタが首を傾げた。
「テネブラエ、知らないの?世界再生が始まるまで、世界中を荒らしてたハーフエルフの集団だよ」
「人間をさらって、人間牧場ってところに連れて行って酷いことをしてたんだって」
マルタに頷いたエミルもテネブラエに説明するが、眉間に皺を寄せるマルタに対しエミルの方は淡白だ。
感情が籠っていないというより、実感がこもっていないというのだろうか。
「エミル、他人事みたいに言うけどパルマコスタの近くにも牧場があってみんな怖がってたじゃない」
「……そうだった?」
マルタがそのことを指摘すれば、エミルは首を傾げた。
パルマコスタの街でさえよく覚えていなかったエミルだ。
人間牧場のことも覚えていないに違いない。
「そうだよ。その点イセリアは恵まれてたんだよね。神子が生まれる村だったから、ディザイアンと不可侵契約を結んで村の人を守ってたんだって」
「不可侵条約とはなんですか?」
口を尖らせながら言うマルタにテネブラエが首を傾げる。
エミルもよく分からないのだろう。
テネブラエと同じように首をかしげている。
「ディザイアンが村を襲ったりしないって契約。こんなの交わしてたの、イセリアだけだよ。他の街はみんな、ディザイアンに何度も襲撃されてたのに」
ディザイアンは全て神子によって滅ぼされたらしいが、統合前……衰退世界時代にはディザイアンによって滅ぼされた街や村も多いらしい。
それほどディザイアンという存在は、シルヴァラントの人々にとって驚異的な存在だったのだ。
「そうだよね、アンジェラ」
同意を求める青い目がアンジェラに向けられるが、アンジェラには分からない。
シルヴァラントに住めばディザイアンの話は何度も耳にしたが、実際にこの目で確かめたわけではないので詳しい話は分からない。
アンジェラは笑みを零して肩をすくめてみせた。
「私もディザイアンのことはよく知らないわ」
「アンジェラでも知らないことってあるんだ」
それほど意外なことなのだろうか。
目を丸くするエミルにアンジェラは小さく笑う。
あまり詳しくは話せないが、出身地くらいなら話しておいてもいいだろう。
それに何より、無知だと思われるのは癪だ。
「私、テセアラの出身だもの。統合されてからこちらに来たから、ディザイアンの事は話でしか聞いたことがないわ。ディザイアンに関する文献は少ないもの」
「アンジェラって、テセアラ人なの?」
「ええ。ハーフエルフとして迫害されてばかりだったから、あまりいい思い出はないけれど……」
これ以上の事は聞かれたくない。
悲しげな表情を作れば、マルタ達はそろって口を噤んだ。
以前、両親が殺されたと話したことを思い出してくれたのだろう。
予想通りの反応だと思いながら、アンジェラは悲しげな笑みを作った。
「私達が眠っている間に色々なことがあったんですねぇ」
話して貰った情報を整理しているのだろう。
テネブラエは簡単に話を纏めるように呟くと、村人の気配に気づいて姿を消した。
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