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2-16:Pride.―気高き心、譲れぬ想い―

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 遺跡の内部は魔物であふれかえっていた。
こんな所に一般人が足を踏み入れて無事なわけがない。
奥へ奥へと進み続けていくと、倒れこむ一人の男を発見した。

「……あ、あの人!あの人じゃない?」

言ってマルタが駆けだし、エミルも続く。
倒れていたのは白いバンダナを頭に巻いた中年の男。
薄手のシャツと黒いズボンという服装を見る限り、迷い込んだ旅人でもないだろう。
恐らく、彼が大シケの原因を発見したというトマスだ。

「トマスさん!トマスさんですよね!」

エミルが男性を起こして声をかける。
大きな怪我はなかったのか、男はゆっくりと目を開けた。

「うう……あんたは……」

「僕、エミルです。お隣に住んでいたレイソルの息子の!大丈夫ですか?怪我は……」

心配げに声をかければ、男の眉間に皺が寄る。
意識が朦朧としてよく見えないのだろうか。
それとも、ドア夫人と同じ理由なのか。
男、トマスはエミルを訝しげにみつめた。

「……レイソルの?……あんたが……?そんな筈は……うう……」

「あの、トマスさん。どうしてここにいらしたんですか?」

トマスの傍に膝をついたマルタがゆっくりと問いかける。
名前を呼ばれても否定しないということは、やはり彼はトマスなのだろう。
トマスは何かを示すように指を動かした。

「そいつを……海で見つけて……多分これが……シケの、原因」

トマスの指先にあるものを見れば、数メートル先に転がっていたのはレモラの死骸。
それは、海にいるはずのない存在だった。

「トマスさん!」

力なく地面に落ちた手に、慌ててエミルが声をかけるがトマスは動かない。
ピクリともしないトマスにエミルは何度も名前を呼び、マルタはトマスの状態を確認するとゆっくりと彼を地面に横たえた。
今の様子を見る限り、やはりトマスの記憶に中にいるエミルと、今ここにいるエミルは違うのだろう。
おそらく、トマスの記憶ではエミル・キャスタニエは黒髪の少年だ。
次々と結びついていく答えに、胸がざわめくのは何故だろう。
答えを知りたいような、知りたくないような、よく分からない嫌な気分だ。

「……大丈夫。気を失っただけみたい」

微笑むマルタにエミルが安堵の息を零す。
二人の意識はトマスに向けられているが、テネブラエの意識はレモラに向けられている。
アンジェラも思考を止めてレモラを見るが、横たわる目に光はなかった。

「……これはレモラの死骸ですね。彼らは海の魔物ではありません。この辺りの淡水に棲む魔物です」

テネブラエの言葉の意味が分からないのだろう。
首を傾げるマルタ達にアンジェラは補足した。

「淡水系であるレモラが海にいるなんて、どう考えてもおかしいわ。生態系を崩している何かがあると考えるのが妥当ね」

「もしかして、センチュリオン・コアが?」

「それはありません。水のセンチュリオンはアクアですから」

息をのむエミルにテネブラエが即座に首を横に振る。
確かに自然現象といえばセンチュリオン・コアと結びがちだが、大シケの原因は絶対にコアではない。

「けれどアクアだからこそ、生態系が崩れているのかもしれないわ。アクアはリヒターにべったりで、センチュリオンとしての任務を放棄しているもの」

センチュリオンはコアを孵化させなければ異常気象を引き起こし、人の心を壊してしまう。
だが孵化し、センチュリオンとして目覚めればマナを整える役割を担い、世界は安定するはず。
そうならないのは、アクアがリヒターに肩入れをしているせいだ。
アンジェラ達の説明にそうだね、とマルタも頷いた。

「とにかく、推測の前にこの人を街まで運ばないと」

「その必要は無いと思うな」

マルタがトマスを運ぼうと手を伸ばしたが、聞えた甘い声にその身体をびくりと揺らす。
まさか、尾行されていたのだろうか。
アンジェラは思考を巡らせつつも、ガントレットを変形させながら声のした方を向いた。
アリスは余裕の笑みを浮かべ、レイシー……ジローと呼ぶ魔物の背に乗っている。

「だって、マルタちゃんはここでペットちゃんと一緒に死ぬんですもの」

「アリス……」

「今日はホー君がいないから、特別にアリスちゃん自ら相手してあげる」

アリスを睨むマルタだが、彼女の凄みにかける睨みにアリスが怯むわけがない。
にっこりと笑ったアリスが大きく鞭を振り上げ、続いて勢いよく振り下ろした。

「さ、死んじゃって」

アリスの甘い声に反してその目は鋭い。
彼女の声にジローが咆哮を上げ、ウサギのような魔物、エルシーが物陰から飛び出てきた。
エルシーがこちらに飛びかかればエミルが即座に剣を抜く。
ラタトスクの力を憑依させたエミルにやはり胸がざわめくが、今はアリスを倒すことだけ考えなければ。
軽く息を整え、アンジェラは詠唱を開始する。
アリスも魔物を盾にし、術で一気に片づけるつもりだろう。
不敵な笑みを浮かべる彼女の足元には青い陣が浮かんでいる。

「魔神剣!」

「鳳凰震脚!」

エミルがレイシーに向かって衝撃波を放ち、マルタがエルシーに向かってスピナーで斬りかかる。
あの二匹の相手はマルタ達に任せておけば大丈夫だろう。
やはり、アリスはアンジェラがなんとかしなければ。

「崩蹴脚、魔人閃光斬!」

エミルの脚がレイシーを蹴りつけ、剣を大きく振り上げればレイシーの身体が浮いた。
羽のないレイシーが空中に逃げ場を持つわけがない。
うめき声を上げるレイシーにエミルが大きく剣を振り下ろせば、巨大な衝撃波がレイシーを呑み込んだ。

「氷の刃よ、降り注げ――アイシクルレイン!」

「貫け、烈々たる炎の神槍――フレイムランス!」

アリスの術が発動し、マルタの頭上に氷の槍が現れたと同時にアンジェラも炎の矢を放つ。
一瞬にして溶けた氷が水蒸気を放つが、炎から逃れた一つの氷の矢がマルタに降り注ぐ。

「やらせるかよ!」

レイシーを片づけたエミルが氷の矢を剣で砕き、マルタを庇うようにして立ったかと思うと迷わずエルシーに向かって剣を薙いだ。
これであとはアリスを倒せば全て終わる。
アンジェラは即座に闇のマナを収束させて放った。

「ダークスフィア」

「きゃっ!」

アリスが持つ鞭めがけて闇を爆発させる。
転んだだけでは致命傷にはならないが、これでアリスには十分なはずだ。
ゆっくりと立ち上がったレイシーが視線の先にいたアリスを捕える。
レイシーさえいればこの状況を打開出来ると思ったのだろうアリスがいつものように鞭を振り上げたが、レイシーはアリスを威嚇し続けている。

 「うそ、ヒュプノスが壊れちゃったの……!?」

命令を聞かず距離を詰めるレイシーに、アリスが尻もちを付きながら後退る。
ヒュプノスさえ破壊すればアリスは魔物を操ることができない。
これで彼女の戦闘力は大きく低下した。

「……機械で誇り高き魔物を操った報いでしょう」

「と、止まりなさいっ!止まれっ!」

あのままではアリスは魔物に食われてしまうというのに、テネブラエの声は冷たい。
テネブラエにとって魔物をエクスフィアで操る行為が許せないのだろう。
鞭を振り回す姿からいつもの余裕は感じられないが、今ここでアリスを死なせたくない。
アンジェラは静かにボウガンに手を添えた。

「彼女を助けるのですか?」

「ここで借りを作っておけば、何か情報が聞き出せるかもしれないわ」

今抵抗してもアリスには何の得にもならない。
それに彼女はヴァンガードに忠誠を誓ってなどいない。
自らの力を誇示することに比重を置いている。
うまくいけば今のヴァンガードの動向を探れる可能性が高い。
テネブラエが、口を閉ざし、レイシーが咆哮を上げて襲いかかろうとしたその時。
アンジェラが矢で射抜くより早く、レイシーの身体から血が溢れた。
レイシーが倒れこんだ音に、アリスが閉じていた目を恐る恐る開く。
見ればレイシーを斬りつけたのは赤髪の青年、テセアラの神子だった。

 「……だ、誰?」

レイシーを背後から一撃で仕留めた神子は、涼しい顔で剣をくるくると回して剣を収めた。
総督府に用がある、と言っていたのはこの事だったのだろうか。
神子はこちらを見ることもなく、アリスに微笑んだ。

「可愛いお嬢さん。ここは見逃してあげるから、さっさと消えな」

声色こそパルマコスタで「子猫ちゃん」と言ってきた声と似ているが、語尾は鋭く、冷たささえ感じる。
暫く呆然と神子を見つめていたアリスだが、すぐに彼の正体に気付いたのだろう。

「……あなた……テセアラの神子!」

服についた汚れを払いながらも、アリスは静かに鞭を握りしめた。
否定しないという事は、やはり彼がテセアラの神子、ゼロス・ワイルダーのようだ。
腰に手を当て、軽く髪をかき上げた神子は不敵な笑みを浮かべてみせた。

「そう。神子様が見逃すって言ってるんだぜ。さっさと行きな」

軽い調子の声だが、その目には確かな敵意が含まれている。
アリスが目に力を込めれば、神子の声が低いものに変わった。

「ヴァンガードのアリスちゃん」

名を呼ばれたアリスの眉がぴくりと動く。
アリスを知っているということは、彼女が戦闘班の班長ということも当然知っているだろう。
その彼女をここで見逃すとは、あの神子は一体何を考えているのだろうか。
ただ単に女性を傷つけられないフェミニストなのか、それともここでヴァンガードの幹部に恩を売るつもりなのか、他に何か別の理由があるのか。
含みのあるゼロスの笑みにアリスも感じるものがあったのか、

「……んふ。アリスちゃんあなたみたいな人、嫌いじゃないカモ」

笑みを浮かべ、鞭を弄びながらアリスが神子に歩み寄った。
一歩一歩距離をつめるアリスにマルタとエミルが身構えるが神子は動かない。
アリスは少しだけ背伸びをするとゼロスの耳元で囁き、

「ま、今回は借りにしておくわね。神子様」

そう言ってにっこりと笑みを浮かべると踊るようにくるりと踵を返し、マルタとエミルの間をすり抜けていった。
スキップ交じりの足取りをじっと見つめていたが、やはり戦う力を失った今の自分では何も出来ないと分かっているのだろう。
彼女の姿は溶けるように薄暗い遺跡の中に消えていった。
これでひとまずは安心だが、まだ問題は残っている。

 「やあ、君がマルタちゃんだったのか。麗しのドア未亡人の依頼で助けに来たぜ」

振り返った先にあったのは、満面の笑みで両手を広げる神子の姿。
総督夫人もよほどマルタ達が心配だったのだろうか。
内心ため息をついていると、神子がにっこりと笑みを浮かべてこちらを向いた。

「会いたかったぜ〜。アンジェラちゃん」

「助けて頂きありがとうございました」

何はともあれ、ここは礼を言うべきだ。
馴れ馴れしく手を取る神子に、アンジェラは友好的な笑みを張りつけた。

「いいってことよ。それに、俺さまの助けなんていらなかったかも……なーんてな」

にこやかに言う神子だが、その目にはこちらを探るような色が含まれている。
声が少し低いのもきっと気のせいではない。
やはりこの男はリンネが姿を消す直前まで、共に旅をしていたアンジェラのことを警戒しているのだろう。
アンジェラはそっと目を細め、神子の目を正面から見つめた。

「あら、そんなことありませんわ」

神子もこの場でアンジェラを問いただすつもりなどないのだろう。
それに、問いただすならもっと早くにアンジェラを訪ねて来ているつもりだ。
アンジェラの居場所は、復興大使の代理であるランスロットという男に知られていたのだから。
それとも、アンジェラがセンチュリオン・コアに関わっていると聞いて再び調査に乗り出したのだろうか。
表情を変えずに思考を巡らせていると、神子は笑みを深めた。

 「そっか……それで、アンジェラちゃんとマルタちゃん、怪我はない?」

「ええ。神子様のおかげでこの通り」

「大丈夫です」

神子の目がアンジェラからマルタに移れば、マルタはゆっくりと頷いた。
言葉通り怪我ひとつないマルタ達に安心したのか。
神子は呆然と立ち尽くすエミルに目を向けた。

「あと、ついでになんとかっていう漁師と、キミ達の連れのなんとかくんも助けにきてやったぜ。ありがたく思えよ」

「……エミル、です」

「うんうん、なんとかくんね」

マルタとアンジェラの名前は覚えていても、エミルとトマスの名は覚えていないらしい。
適当すぎる扱いにエミルは口元を引きつらせたが、神子は気にも留めずに笑っている。

 「……貴方は、テセアラの神子なんですよね。ロイドの仲間の」

だが静かなマルタの声に、神子の目がそっと細められた。
ロイドの仲間、という言葉に反応したのだろう。
冷たさが含まれ始めた視線に気付かないのか、エミルが神子に詰め寄った。

「ロイドは……あいつは何処にいるんだ!?」

荒い口調のエミルに、ゼロスの目に冷たさが増す。
目が緑色だということはラタトスクの力は憑依していないようだが、かなり感情が昂っているようだ。
出会った頃のエミルならここまで強く出なかったはずだが、憎しみが彼を動かしているのか、それともこれもラタトスクと契約を交わした影響なのか。
じっと思考を巡らせていると、ゼロスがゆっくりと口を開いた。

「……お前ら、何でロイドを捜してる?」

「あいつは……あいつはお母たちの仇だ!」

軽い調子の神子に、エミルが更に声を荒上げる。
テセアラの神子が血の粛清を知らないわけがない。
神子は静かに口の端を上げた。

「復讐のため……ってか?」

「あいつは私たちが探している宝石を盗んで逃げた大罪人よ」

マルタがエミルに続けば、ゼロスは二人を鼻で笑った。
神子はロイドの仲間。
仲間を悪く言われ、快く思うものなどいない。
静かに目を細めた神子から感じるのは並々ならぬ怒気。
とはいえ笑顔に隠された怒気は、自分たちの感情に囚われたマルタ達には気付けないだろうが。

「……ふん。もの知らずのガキどもに話すことは何もねぇよ」

不敵な笑みを浮かべ、神子が右手を上げて指を鳴らすとパルマコスタの兵が現れた。
やはり総督夫人の指示でトマスを保護しに来たのだろう。
アンジェラ達が見守る中、トマスは兵士たちに担がれていった。

 「悪いが、ロイドを仇呼ばわりする奴とは付き合わないことにしてるんでね」

神子の声色は先ほどまでとは全く違う。
いや、先ほどまで隠れていた敵意が剥き出しになった、と言った方が正しいかもしれない。
先ほどの馴れ馴れしい態度が嘘のように、そっけなくエミルとマルタの間をすり抜けると真っすぐ出口に向かっていく。

「これで失礼させてもらうぜ」

軽く手を振ってくれた神子だが、彼がこちらを向くことは一度もなかった。
それは彼がロイドを信じきっている証であり、アンジェラ達を敵とみなした証と言ってもいい。

 「あいつもロイドを信じてるんだね。コレットみたいに」

立ち去る神子の背をマルタが強く睨みつける。
コレットはロイドの仲間だが、マルタ達の事も友達と呼んでくれた。
同じ神子でも性格は全く違う。
これも衰退世界と繁栄世界の違いなのだろうか。
すでに見えなくなった神子の背を睨み続けるマルタに、エミルは首を横に振った。

「……コレットとは違うよ。あいつは、僕たちのこと全然信用してないって顔してた」

エミルの言葉は刺々しいが、彼の言うことは正しい。
テセアラの神子はロイドだけを信じ、ロイドを疑い敵視するエミル達を敵とみなしたのだから。
エミルは強く拳を握りしめ、見えないはずの神子を強く睨みつけた。

「きっとあいつは、目の前でロイドが人を殺してもロイドを信じるようなぼんくらなんだ!」

エミルは完全に頭に血が上っている。
火に油を注ぐような真似はしたくないが、と溜息をつきながらアンジェラは口を開いた。

「残念だけれど、彼はぼんくらじゃないわ」

「どうして?あんな奴、ただの軽い男でしょ」

「表向きはね」

訝しげなマルタに、アンジェラはにっこりと笑みを作る。
おそらく、二人はテセアラの神子を全く知らないのだろう。
アンジェラは笑みを崩すことなく続けた。

「言ったでしょう?テセアラでは権力争いが繰り広げられてきたって。彼は幼い頃から強欲な貴族や教会と渡りあっていたから、駆け引きや政治的手腕は中々のものよ」

幼少期に両親を失い、ゼロス・ワイルダーは幼い頃から神子としての公務をこなしてきた。
人間の欲望が渦巻く社交界に子供の頃から身を置き、性格が曲がらないわけがない。
彼の道化のような態度も、おそらく他人を欺くための仮面。

「そうなの?」

「ええ。それに、神子は幾多の暗殺者を退けてきたってその筋じゃ有名なのよ。ただの遊び人に見えて、彼は只者じゃないわ。神子を甘く見ない方が良いと思うけれど」

信じられない、といった様子のマルタにアンジェラは迷うことなく頷く。
このまま神子の性格を誤解したままで、足元をすくわれるわけにはいかない。
あの男は、警戒すべき人物なのだから。

「そうだね。あれでも世界を救ったんだよね……」

「アンジェラは、やけにあいつの肩を持つんだね」

マルタは素直に頷いたが、エミルの視線は鋭いまま。
彼の怒りの矛先は、神子の肩を持つアンジェラに向けられたようだ。
それだけ、彼の中でくすぶる憎しみは大きいに違いない。
だがその視線がどこか心地よくも感じて、アンジェラはそっと目を細めた。

「そうじゃないわ。二人にも状況を冷静に分析して欲しいだけよ。敵の事を何も知らなければ、傷つくのは自分達だもの」

ふいに脳裏を過ったのは、残虐非道なラタトスクの姿。
もう少しラタトスクの性格について調べておけば、リヒターから笑顔は消えなかっただろうか。
そっと息を吐き、アンジェラはいつの間にか握りしめていた手をそっとほどく。
人に冷静になれと言っておきながら自分が感情的になるわけにはいかない。

「そっか、ごめんね……」

アンジェラの言葉がうまく伝わったのか、エミルはそっと息を零して俯いた。
呟くように言うエミルの声に先ほどまでの荒々しさはない。
少しは冷静になってくれたようだ。

 「……そうですね。それで、海のシケの件はどうするんですか?トマスさんの話では、ここに棲むレモラが原因だということでしたが」

「あ……そうだったよね……。どうしよう……」

ずれた話題を軌道修正するテネブラエに、マルタが戸惑いを見せる。
トマスを助けて話を聞くつもりだったが、あの様子では目が覚めるまで時間がかかりそうだ。
とすれば、自分たちで原因を解明する方が早いかもしれない。
問題があるとすれば、臆病なエミルがごねることぐらいだろうか。

「せっかくここまで来たんだし、もう少し奥まで行って調べてみようよ。どのみち、シケの原因は調べなきゃいけないんだし」

だがアンジェラの予想とは裏腹に、エミルにはマルタに微笑む余裕まである。
意外なことに内心驚いていると、マルタ達の視線が集まっていることに気付き、アンジェラは微笑んでみせた。

「そうね。噂によると、ここの地下には湖があるらしいの。そこを調べれば何か分かるかもしれないわ」

「よし、それじゃあ行こう!」

アンジェラの答えを聞くや否や、マルタが先陣切って歩き出す。
その勇ましい足取りに、エミルとアンジェラも続いた――――









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