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 「ただいまー」

「おう!おかえり!」

帰宅は夜遅くだというのに、ダイクは明るく迎えてくれた。
それだけで落ち着くのはここが十五年間生活してきた我が家だからだろう。
荷物を置いて椅子に座れば、思わず安堵の息が零れた。

「って、おめぇどうしたんだその格好」

目を見開いたダイクにリンネは自分の服装に視線を落とす。
ここ最近戦いばかりだったせいで服には汚れが目立つ。
裁縫道具などを持ってなかったとはいえ、少しは身だしなみにも気をつけるべきだっただろうかとリンネは苦笑した。

「闘技場に行ってたからちょっと汚しちゃって……」

「ルインに行ったんじゃねえのか?まあいい。とりあえず風呂に入ってこれに着替えてこい。その服も洗わねえとな」

ダイクに渡されたのは見慣れない白い服。
留守にしている間に作ってくれたのだろうか。
広げてみれば、いつもリンネが着ているものよりも少し裾が長めのワンピースだと分かった。

「服作ってたの?」

「家にいる時くらい、そういうの着て大人しくしてろ」

大きく頷いたダイクにまたもや苦笑が零れる。
確かにこんなに長いものなら走り辛い上に足技も出しにくいだろう。
それはそれで落ち着かないが、たまには大人しくしているのもいいかもしれない。
というより、ここ最近飛び回ってばかりで落ち着きがないのでダイクとしてもリンネに大人しくして欲しいのだろう。
言われた通りに服を持って風呂場に行こうとしたが、ダイクが細工道具を手にしているのを見てリンネは足を止めた。

「仕事あるなら手伝おうか?」

「大丈夫だ。いいからおめえは体休めとけ。疲れてんだろ?」

行け、と言うダイクに渋々ながらもリンネは頷く。
鍛冶仕事なら手伝えるが、仕事場を覗く限り今ダイクが請け負っているのは要の紋の製造。
ロイドだったら細かい仕事も手伝えるが、リンネはロイドと違って鍛冶仕事は出来るが細工などはできない。
それに、この調子だとこれ以上食い下がっても手伝わせてもらえないだろう。
リンネはダイクの仕事にならないよう静かに部屋を出ると、風呂場へと向かった。




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