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 「今日でお別れなんだな」

寂しげにロイドがぽつりとつぶやく。
ロイドの足元には荷物が一つ。
その隣でコレットも寂しそうに息を零した。

「寂しくなっちゃうね」

「そんな顔しないでよ。別に一生のお別れじゃないでしょ」

こんな別れ方はしたくない。
明るく笑うリンネにつられるように二人は顔を上げたが、やはり寂しそうな顔をしている。
今日、ロイドとコレットはエクスフィア回収の為にアスカード方面へ、そしてリンネは復興の手助けのためピエトロとショコラと共にパルマコスタへ旅立つ。
 ロイドとはこの十五年間ずっと一緒にいた。
片時も離れず育った。
旅をしている時もずっと一緒で、進むべき道も一緒で。
でも今日から歩む道はそれぞれ違う。

 「てっきりリンネも一緒に来てくれるんだと思ったんだけどな」

「ずっと一緒だったもんね」

苦笑するロイドにリンネも小さく笑う。
以前の自分なら絶対にロイド達について行っただろう。
ロイドを守る事が自分の義務だと思っていた少し前のリンネなら。

「ロイド達にはロイド達の道があるように、あたしにはあたしの道があるんだよ」

まだ自分の道がどんなものかははっきり分からないが、もうロイドの為だけに生きるのはやめなくてはいけない。
寂しそうな二人につられて泣きそうになってもリンネは笑う。
これからの不安がそれに拍車をかけてもリンネは笑う。
胸がぎゅっと痛くなっても、目の奥が痛くてもリンネは笑う。
決して立派な姉だとは思えないが、それでもやっぱり弟の前では強くありたいと思う。
せめて旅立ちの時くらい、胸を張って笑って弟を送り出してあげたい。

 「……そうだよな」

リンネの想いが伝わったのか、ロイドが小さく笑う。
ロイドは本当に強くなった。
剣の腕もそうだが、何より心が。
まだまだ幼さが残るが、その心の在り方はリンネよりもずっと包容力があって大人なのではないだろうか。

 「今までありがとう。姉さん」

手袋をはずし、差し出されたのは右手。
リンネも手袋をはずしてその手を優しく握り返せば、自然と笑みが零れた。

「お礼を言うのはあたしの方だよ。ロイドのお姉さんで本当に良かった。ありがとう、ロイド」

自分が姉でいいのだろうかと何度も思った。
生まれてきてよかったのだろうかと何度も思った。
でも今は胸を張ってこう言える。
ロイドの家族で良かったと、生まれてきてよかったと。
そう思わせてくれたのは他でもないロイドと、そして仲間達だ。

 「ロイドもコレットも、無茶しちゃだめだよ」

「分かってるって。俺達そんなに子供じゃねえぞ」

不貞腐れて口を尖らせるロイドにリンネは笑った。
こういう所が子供っぽいと言われる事にきっと本人は気付いてないのだろう。

「十分子供だよ。ね、コレット」

「子供じゃねえよな!コレット」

「ロイドはロイドだよ」

姉弟で同時に同意を求めれば、コレットはどっちとも思える言葉と共に頷いた。
コレットらしい、柔らかくあたたかな笑みで。
一度は失われそうになったコレットの笑顔。
でも今、コレットはここで笑っている。
彼女が命に変えても守ろうとしたこの世界で、大好きな人の隣で。

「どういう意味だよそれ」

よく分からない答えに納得いかないのか、ロイドは首を傾げた。
これ以上ロイドをいじるのも可哀そうだろう。
リンネは幸せそうに笑っているコレットに微笑んだ。

 「今度会うときはコレットが妹になってるかもね」

「えっ?!」

リンネの言葉にコレットの目が更に大きくなり頬が赤く染まり、

「もう妹みたいなもんだろ」

そしてロイドの言葉にコレットの頬は更に赤くなった。
が、すぐにロイドがどういう意味で言ったのか分かったのだろう。
明るく笑うロイドに、コレットの頬は徐々に元の色に戻っていった。
 いつまでも話は尽きないが、このままずっと話し込んでいては前に進めない。
コレットと握手を交わし、リンネは笑った。

 「それじゃ、弟の事よろしくね」

「うん。ロイドの事は任せて」

強くなったとはいえ、ロイドはまだ見ていて危ないと思う事もあるがコレットにならロイドの事を任せられる。
ロイドが辛い時はコレットが支え、コレットが辛い時はロイドが支える。
二人はそうやって互いを思い遣って支え合っていける。
コレットとの握手を終えたリンネは、ロイドに向き直った。

「ロイド、しっかりコレットの事守ってあげるんだよ」

「ああ!任せとって」

胸を張って答えたロイドにリンネも頷く。
これで本当にお別れだ。
ずっとずっと一緒にいたロイドと、そしてコレットとのお別れ。

「じゃあね。ロイド、コレット」

「リンネも元気でな」

手を振りあってリンネ達は踵を返してそれぞれの道を進み始めた。
それぞれの人と共に、それぞれの道に向かって。
後ろは振り返らない。
絶対に。
過去に縛られて生きるのではなく、未来へ向かって前に進むと決めたから。

 「寂しいんじゃないの?」

「……そりゃ寂しいけど、泣いたらロイドが行き辛くなるし」

顔を覗き込んできたショコラにリンネは苦笑した。
リンネだって寂しいし、本当は今にも泣きそうだ。
でも泣き顔なんて見られたくない。
大きく息を吸って吐き出し、リンネは顔を上げた。

「さあ、あたし達も行こう!」






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