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 これ以上一人で出歩いて、問題を起こしてはクララ達に迷惑をかけてしまう。
そろそろ総督府に戻ろうとブルートと別れて、リンネは一人で歩きだすと小さく息を零した。

 (分かってた事なのに―――)

あの大樹暴走で多くの命が失われ多くの悲しみが生まれたことはよく分かっていた。
覚悟もしていたはずだった。
それでも足が止まり、リンネは俯いてしまっている。
顔を上げて、リンネは両手で頬を叩く。
痛みが走る頬に溜息をついてリンネは再び歩き出した。

 「あたしは、あたしに出来る事をやらなきゃ」

こうしてリンネが立ち止まりそうな時でも、ゼロスとしいなはシルヴァラントの為に力を尽くしている。
みんながそれぞれの場所で頑張っている。
だったらリンネが今立ち止まるわけにはいかない。
誰かの助けを待っているだけなんて嫌だ。
きっとリンネにも何か出来る事がある筈だ。
 今シルヴァラントには何もかもが足りない。
物資も資金も機材も、何もかもが。
ゼロス達がテセアラ王にかけあったとしても、実際にテセアラが動くまでには時間がかかるだろう。
あちらは文明が発達した分、厄介なしがらみもある。
その点、シルヴァラントにはテセアラのような貴族や平民といった身分差もしがらみも少ない。
そのシルヴァラントの大地に立っているリンネだからこそ出来ることがきっとある。

 (何とか物資や資金を調達しないと……)

資金を得るなら働くのが確実だろうが、今のシルヴァラントには人を雇う余裕も皆無に等しい。
仮に働けたとしても、街を支援するほどの大金はそうそう手に入らない。
迅速かつ確実に大金を手に入れられればそれが一番手っ取り早いがそう簡単にいくわけが、

「……ない…わけじゃない、かも」

一つだけあった。
一日で大金を手に入れる方法が。
メルトキオの闘技場で賞金を得れば、普通に働くよりは効率よく稼げるのではないだろうか。
たしかあそこでは毎日シングルスとパーティ戦が行われていたはず。
それに毎日参加し続ければまとまったお金が手に入るはずではないだろうか。

「行ってみよう」

じっとしているよりはましだ。
そうと決まれば一度総督府に行って事情を説明しなくては。
そう考えてリンネが駆け出すと、よく知った声が聞こえた。

 「リンネさん!」

「カカオさん!?」

振り返った先にいたのは懐かしい人。
少し痩せた気がするが、あの足取りを見る限り大きな怪我もなく無事なのだろう。
ショコラと並んだカカオは本当に嬉しそうで、胸の奥が熱くなった。

「この度はショコラを助けて頂いてありがとうございました。なんとお礼を申し上げればよろしいか」

「お礼を言われる事なんてしてません。無事で本当に良かったです。ショコラも、カカオさんも」

「今日はこの町に滞在されるんでしょう?」

「それが……急用ができてもうこの町にはいられないんです」

リンネと一緒にいればまた先程のような事に巻き込んでしまうかもしれない。
それに次に何をするか決めた以上、じっとなんかしていられない。
苦笑するリンネにショコラは怪訝そうに眉をひそめた。

「何かあったの?」

「ちょっとやりたいことができたからね。それじゃあ、元気で」

鋭いなと思い、けれどそれを決して悟られないようにリンネは笑みを浮かべる。
なんとか誤魔化せたのか、ショコラはそれ以上追及することはなかった。
 二人に別れを告げ、リンネは総督府へ向かって足早に歩き始める。
まずはクララ達の所に行って、それからすぐにでもメルトキオに向かおう。
そう思うとどんどん歩調は早まり、リンネはいつの間にか駆け出していた――――――









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