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 「お久しぶりです。リンネさん、ピエトロさん」

「お久しぶりですクララさん、ニールさん」

総督府に到着すると、クララとニールが迎えてくれた。
二人とあいさつを交わしリンネは軽く周囲を見渡す。
建物内は以前に比べれば修復されつつはあったが、それでも壁の穴や津波の跡などは色濃く残っていた。

 「そちらの方は?」

クララの目はショコラに向けられている。
リンネは一歩後ろに下がるとショコラを示した。

「ショコラです。牧場脱出後にイセリアで避難していたんですけど、本人の強い意志で復興の手助けになりたいと」

「あなたが……申し訳ありませんでした」

リンネの言葉にクララの表情が曇る。
それに気付いたのか、ショコラが首を傾げたが彼女が疑問を口にするより早くクララが口を開いた。

「貴女には沢山の苦労をかけてしまいましたね」

「……ドア総督の事ですか?」

ショコラもクララの言葉の意味に気付いたのだろう。
 あの日、ショコラは神子であるコレットをおびき出すための囮として使われた。
その事をニールから聞いているのだろう。
頷いたクララは懺悔するかのように胸元で手を組み言葉を続けた。

「主人の行いは決して許されることではありません。でも」

「私はドア総督を恨んでません。ドアさまが全てなんとかしてくれると、あの方に全てを背負わせてしまった私達にも責任はありますから」

ゆるく首を横に振ったショコラの顔は、微かに俯いてしまっている為よく見えない。
それでも彼女の目はきっと光を宿しているに違いない。
あの時、イセリアで村長からリンネ達を庇ってくれた時のように。

「だから、あなたがそんな顔をしないで下さい」

そう言って顔を上げたショコラの顔には笑みが浮かんでいた。
これがショコラが牧場で見つけた答えなのだろうか。
縋った希望に裏切られ、それでも立ち上がったショコラなりの答え。
ショコラの微笑みにクララは目元をそっと撫でると顔を上げて微笑んだ。

「ありがとう、ショコラ」

クララもずっと気にしていたのだろう。
安堵がその笑みから伝わってくる。
 その様子をじっと見ていたニールが静かに二人に歩み寄り、口を開いた。

「ショコラ、お母さんなら今も君の帰りを店で待ってるよ。早く行ってあげるといい」

「母さんは無事なんですか!?」

ニールの言葉に、ショコラの焦げ茶色の目が大きく見開かれる。
その焦げ茶色に優しく微笑み、ニールは頷いた。

「君のお母さんはあの津波の後、無償で物資を提供してくれた。立派な方だよ」

ニールの話によるとあの大樹暴走の後、カカオは僅かに残った店の商品をすぐに提供してくれたらしい。
町を守ることが、店を守ることに繋がると。
ショコラが帰ってくる場所を守りたいからと。

「私の自慢のお母さんですから」

ニールの話にショコラは誇らしげに胸を張って微笑んだ。
自慢の母に一刻も早く会いたいのだろうし、カカオも娘の帰りを心待ちにしているに違いない。
ショコラは踵を返しかけたが、何か思い出したようにこちらを振り返った。

「ありがとうリンネ。助けてもらった恩は忘れないわ。みなさんも、本当にありがとうございました」

深く頭を下げて、ショコラは総督府を出て行った。
嬉しそうに駆けて行く背を見守っていたリンネ達だが、この町にあるのは嬉しいニュースばかりではない。
問題は今も山積みなのだから。

 「それでは、本題に入りましょうか」

話を切り出したのはニールだった。
その顔には、先程までの和やかな空気は身をひそめている。
ニールの言葉に、ピエトロは口を開いた。

「あれから何か変わったことはありましたか?」

「先日、テセアラから和平の使者が訪ねてこられました。藤林しいなさんという方らしいですが、」

「しいながここに?」

「やはりご存じなのですね」

クララの口から出た名前に、リンネは息をのんだ。
頷いたクララが執務机から出したものには、確かにテセアラ王室とマーテル教会の証がある。
これがこの手紙が正式な文書だという証だ。
クララの話によると、テセアラ王室とマーテル教会からの親書を持ってきたのがしいならしい。
そして被害状況を調べているというしいなに、パルマコスタやルインの惨状を報告したのが数日前。

 「テセアラからの援助なんて……うまくいくのでしょうか?」

だが今まで月だと思っていたテセアラからの使者に、クララ達は戸惑いを隠せないようだ。
呟きに似たニールの言葉にクララは何も言わない。
しいなが使者として来たという事はゼロスの力もあるのだろう。
親書の中を見せてもらえば、やはり彼の名前はしっかりと彼の字で書かれていた。

 「テセアラの国王は信頼できる方だと思います。それに、ゼロスが……テセアラの神子がいれば、きっとシルヴァラントに手を差し伸べてくれると思います」

「テセアラの神子?」

「政治的手腕もありますから、きっと大丈夫です」

目を見張るニールにリンネは頷いた。
ゼロス達がテセアラ側で力を貸してくれるのならこれほど心強いことはない。
 ゼロスやしいなは今も元気にしているだろうか。
無理をしていないだろうか。
そう思うと少し不安でもあるが、ゼロス達ならきっと大丈夫だと信じよう。
親書の中のゼロスの字をなぞりリンネはそっと笑みを零した。

「リンネさんがそう仰るのなら、きっと素敵な方なんでしょうね」

「はい。一緒に旅をしてましたからゼロスの事も、しいなの事もよく知ってます」

小さく笑ったクララにリンネは頷いた。
彼等の強力があれば、復興はきっとうまくいく。
その事を伝えようとリンネは言葉を続けた。

「テセアラは八百年近く繁栄世界にあったのでこちらより技術も進んでますし、きっと大きな力になってくれると思います」

シルヴァラントだけではできないことも、テセアラと一緒なら出来るかもしれない。
四千年間時空の壁によって違う世界で生きてきたが、今は同じ星に生きている。
きっと共存しあえるはずだ。

 「ですが援助があるとはいえ、待ってるだけでは何も変わりません。私達は私達に出来ることをしないと」

リンネの言葉にピエトロは決して気を緩めることなく頷いた。
テセアラが協力してくれるとはいえ、実際に行動に移るにはまだ時間がかかるだろう。
ピエトロの言う通り自分達に出来ることを一つ一つしていかなければ。

 「教会の援助はどうでしたか?」

「調度品の多くを売り払ったり避難所として開放してくれてはいるのですが……現状維持がやっとの状況です」

「教会に頼るわけにはいかないというわけですね」

ニールが手に持った書類を手渡すとクララは眉間に皺を刻んだ。
パルマコスタはシルヴァラント最大の町。
教会の本部も総督府のすぐ近くにあったが、津波による被害が大きくこれ以上の援助は難しいとの事らしい。

 「ブルート達の様子はどうですか?」

「今は我々に協力してくれますが、軍に戻るつもりはないと」

クララの言った聞き覚えのある名前に、思わず首を傾げる。
どうしてこのタイミングで彼の名前が出てくるのだろう。
人違いだろうかと思いながらもリンネは口を開いた。

「ブルートって、ブルート・ルアルディさんですか?」

「ご存じなのですか?」

どうやらリンネの思い描くブルートとクララ達の言うブルートは同一人物らしい。
あの日、彼が力を貸してくれなかったら被害は拡大していただろう。
目を見開くニールにリンネは頷いた。

「あの大樹暴走の後、町の人達の救出と治療を手伝って貰ったんです」

リンネの言葉にニールはそうですか、と言って口を閉ざした。
あの日、家族を失った悲しみに耐えてブルートは町の人々の救出に向かってくれた。
彼も兵士か何かだと思ったのだが違うのだろうか。
じっと答えを待っていると、躊躇いがちにニールが口を開いた。

 「彼は元々軍の一員でしたが、ドア総督がディザイアンと通じていると知って除隊し、一部の者達と義勇軍のようなものを立ち上げ始めて……」

言ってニールは口を閉じて何か言いたそうに口を開いたが、言い辛い事なのか何も言おうとしない。
パルマコスタの軍ではなく、自分で義勇軍を立ち上げるとは一体どんな理由なのだろう。
あの時のブルートの様子を見る限り、彼は強く優しい人だということは感じたが、それ以上の事をリンネは何も知らない。
 何とも言えない空気の沈黙がどれくらい続いただろう。
ややあってニールは再び口を開いた。

「……その多くが、マーテル教会に不信感を持つ人々の集まりなのです。今は復興の為に協力はしてくれているのですが、それがずっと続くのかどうか」

総督の行いを知れば、憤りを感じる者は多いだろう。
それに救世主であるはずの神子が旅立ってからも、いつまでも終わらない世界の衰退と天変地異。
総督やマーテル教信じられなくなるのも無理はない。

「……不信感、ですか…」

「勿論、そういった人々ばかりではありません。この町には神子さまやリンネさまに助けて頂いた方も沢山いますから」

俯いてしまったリンネが傷ついていると思ったのだろう。
心配げに首を横に振り、口早に言葉を紡いだニールにリンネは顔を上げて微笑んだ。

「ありがとうございます、ニールさん」

 世界再生の為に旅立ってから世界を再生させるまで……いや、世界を統合させるまでに随分と時間がかかってしまった。
不安が広がっていた所に大樹暴走をはじめとする天災。
苦しいからこそ救いを求めて教会に縋りつく者もいるが、ここまで災害が続けば信じていた教会を信じられなくなるのも当然の事だろう。
今はまだ復興に向けて手を取り合ってはいるが、復興を終えた時に反乱や暴動が起きないだろうかというのがニール達の不安だそうだ。
じわじわとこみ上げる不安を落ち着かせるようにリンネは胸元のエクスフィアを握りしめた。

 「あの……少し町の様子を見てきてもいいですか?」

ここでじっとしていても本当のことは何も見えてこないのではないだろうか。
先程の話が気になるという事もあるが、あの日ブルートに力を貸してもらったお礼をまだしていない。
リンネの言葉にクララ達は顔を見合わせたが、すぐに戻ると告げれば渋々ながらも頷いてくれた。



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