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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
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 「あんた、全然休んでないんじゃないの?」

人々の治療を終えると、かけられた声にリンネは背後を振り返った。
何か不満があるのだろうか。
眉間に皺を寄せた彼女に、リンネは笑みを浮かべた。

「大丈夫だよ。あたし丈夫なだけが取り柄だから。ショコラこそ大丈夫?疲れてない?」

「忘れたの?私、教会の旅業で働いてたのよ。体力には自信があるわ」

肩をすくめてショコラは笑った。
元々健脚なのだろう。
皆ここにくるまで自分の足で歩いてきたが、その中でもショコラは特にしっかりした足取りだった。
 彼女は本当によく頑張ってくれた。
パルマコスタで出会って、一度はカカオの敵としてロイド達を拒絶して。
それでも最後には、イセリアの村長からロイド達を庇って味方してくれた。
あの気持ちで、あの言葉で、どれだけリンネ達は救われただろう。
ショコラとの出会いを思い出していると、差し出されたのはショコラの手だった。

「ここまで連れてきてくれてありがとう」

「あたしはあたしに出来ることをやりたいだけだよ。こんな事しか出来ないから」

差し出された手を握って、リンネは苦笑した。
まだまだやらなければならないことは沢山ある。
リンネに出来ることといえば、牧場の人々を故郷に帰すことや傷を癒す事。
リンネ一人の力では、ルインやパルマコスタのように壊されてしまった町を直すなんて事も出来ない。
それでも、今出来ることを一つ一つ確実にしていきたいとは思うが。

 「そうね。私も私に出来ることをするわ。私ね、パルマコスタに行こうと思うの」

「でもあそこは避難民の受け入れは……」

「避難しにいくんじゃなくて、復興を手伝いに行くのよ」

リンネの言葉に、ショコラは真っ直ぐな眼差しで答えた。
パルマコスタは総督府や宿舎が崩壊してしまった為に、未だに町としての機能がマヒしている。
少しずつ回復してはいるが、元のパルマコスタに戻る為には長い月日がかかるだろう。
元のパルマコスタに戻る為に必要なのはショコラのように復興を願い、復興の為に力を尽くそうとする人々。
だったら、と考えたリンネは口を開いた。

「それじゃあ、あたし達と一緒に行かない?」

「リンネ達と?」

目を瞬かせたショコラにリンネは頷く。

「元々、みんなをルインに送り届けたらあたしも一緒にパルマコスタの様子も見に行くつもりだったし。それに、あたしもパルマコスタのことが心配だから」

今、ルインにいるピエトロ達は今まで支援してもらったお礼にとパルマコスタ復興の手助けをしている。
そして今度パルマコスタに向かうのは数日後。
それにショコラが加わったとしても何の問題もない。
寧ろ手伝ってくれるというショコラにピエトロも歓迎してくれるだろう。

「そうね。あなたがいれば心強いわ」

嬉しそうにショコラが笑い、リンネも嬉しくなって一緒に笑った。
心強いのはリンネも同じ。
ショコラは強い。
魔物と戦うような強い力があるわけではないが、どんなに辛くても立ち上がる強さを持っている。
 彼女がいてくれば、と思っていたその時。
ぐらりと足元が揺れた。

「なっ、何これ地震!?」

ふらついたショコラを支えて、リンネはゆっくりとその場に屈む。
辺りに大きな建築物などもないので、この場でじっとしていれば大丈夫だろう。
 やがてゆっくりと揺れがおさまってゆき、胸を撫で下ろすと離れた場所から悲鳴が聞こえた。

「きゃああああ!」

声のした方に反射的に駆け出し、みつけたのは人だかり。
その中心にあったのは木材の山だった。
先程の地震で崩れたのであろう木材の傍には、母親らしき女性が目に涙を浮かべて頭を抱えている。

「どうしたんですか!?」

「木材が崩れて子供が下敷きに!」

「急いで木材をどけないと!」

男性の言葉にリンネ達は慎重に木材をどかしはじめた。
乱暴にしては下敷きになっている子供達が危険になる。
近くにいた人々と共に木材をどけていると、騒ぎを聞きつけたロイド達が来てくれた。

「今助けるからな!」

木材を一つ一つどけていると見えたのは小さな手。
あと少し。

「ジダ!モル!!」

「いたぞ!」

見えた手に女性が声を上げた。
微かに手が動いたので意識はあるのだろう。
だが、早く怪我を治さなければ命に関わる。
リンネは傷は癒せても死んでしまった人を生き返らせることは出来ない。
早く助けなければ。

「いくぞ!」

「せーのっ!」

ロイドが町の男性達と協力して、最後となった大きな木材を持ち上げた。
それと同時にリンネは少年達の傍にしゃがみ込んで治療を始める。
下手に動かして二人の怪我を悪化させるわけにはいかない。
こんな時、リフィルがいればもっと的確な治療を出来たかもしれないのに、と考えて唇を噛みしめた。
まだまだリンネには知らないことが多すぎる。
ぎゅっと力を込めて、想いを込める。
この場にリフィルも、医者もいない。
この二人の傷を癒せるのはリンネだけだ。

 「うっ」

癒しの光の中、うめいた少年がうっすらと重そうに瞼を開ける。
その隣で同じ顔をした少年も瞼を開けた。
ここまで似ているとは、一卵性双生児だろうか。
ゆっくりと起き上がった少年達に安堵の息を零すと、母親が二人を抱きしめた。

「ジダ!モル!無事でよかった……」

「い、痛いよ母さん」

ぎゅっと抱きしめた母に少年達が苦しそうに、照れくさそうに笑う。
無事で何よりだ。
周囲から湧き上がった歓声にリンネも自然と笑みがこぼれた。

 「本当にありがとうございます。ありがとうございます!」

「お礼なら、あたしじゃなくてみなさんにお願いします」

リンネ一人の力なら出来なかったこと。
座り込んだまま視線を上げれば、みんなが誇らしげに笑っていた。
リンネ一人の力では二人はまだ下敷きになっていただろう。
みんなが力を合わせたから二人の少年は今、ここで笑っている。

「無事で何よりだよ。大丈夫か?」

ロイドの言葉に二人の少年、ジダとモルは同時に頷き、だが初対面の相手に少なからず疑問を抱いたのだろう。
みんなに見守られているあたたかい空気の中、二人揃って首を傾げた。

「この人達、誰?」

「世界を救って下さった神子様達よ。ほら、あなた達もお礼をしなさい」

母が促すと二人は息をのみ。
続いてリンネ達を見て満面の笑みを浮かべた。

「「ありがとう!」」

二人の笑顔になんだかくすぐったくなる。
大丈夫。
こうして助けられる人はまだまだ沢山いる。
リンネの力なんてちっぽけなものだが、それでも……

 

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