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意外なことに旅は終盤に差し掛かっても順調そのものだった。
慣れない長旅で体調を崩す者もいるのでは、と思ったが故郷へ帰れることの喜びだろうか。
誰もが不満をもらすことなく、自分の足で歩いていた。
「わっ!」
聞こえた声に前を見れば少年が転んでおり、駆け寄ったが少年はリンネの力など必要なかったらしい。
軽く土を払うと笑みを浮かべた。
「大丈夫だよ。これくらいで泣いてたら父ちゃんに笑われちまう」
満面の笑みを浮かべる少年の顔つきはとても頼もしい。
つられるようにリンネも笑って、少年の傷口に手を翳した。
「でも、傷の手当てはちゃんとしないとね」
零れた光が少年の傷を癒していく。
こういう時、この傷を癒す力があって本当に良かったと思う。
少年は物珍しそうにじっとリンネを見ていたが、治療を終えると再び笑みを浮かべた。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
「ありがとうございます、でしょう。申し訳ございません天使様」
「リンネでいいですよ。そう呼ばれるのは慣れてなくて」
駆け寄って頭を下げた母親にリンネは苦笑した。
村人達は以前と変わらずリンネの事を名前で呼んでくれるが、村人以外は違う。
教会の者からリンネの話を聞いたのか、様付けだったり天使様だったりと、旅をする前から随分と変わってしまった。
「見えたぞ!ルインだ!!」
ふいに上がったのは嬉しそうな男性の声。
彼の示す先に見えたルインを見て、歓声がいくつも聞こえてきた。
数か月、または数年ぶりの帰郷に溢れる想いが言葉を交わさなくても伝わってくる。
「みんな、あと少し頑張ろうぜ!」
ロイドが声を上げれば、更に大きな歓声が上がった。
呼び名が変わったのはリンネだけではない。
神子コレットを守り、世界再生の立役者となったロイドは今や英雄と呼ばれて様付けする人も多い。
世界統合以来、世界は勿論リンネ達を取り巻く環境も大きく変わった。
(こうして、変わってくんだろうな―――)
少しずつ、けれど確実に世界は変わり始めている。
足早になる列の最後尾を守りながら、リンネは静かに息を零した。
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