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旅立ちの日は、天が味方してくれたような晴天だった。
短い間ではあったが、牧場の人々と親睦を深めた村人達も見送りに来てくれている。
その中……正確には輪から少し離れた場所でだが、村長も見送りに来てくれていた。
無愛想に眉間にしわを寄せてはいるが、以前では考えられない事。
小さな変化にリンネは嬉しくなって小さく笑みを零した。

 「忘れ物は無い?本当に大丈夫?」

「だいじょぶだよ」

「ミトス達こそもうすぐ出発なんだろ。準備は大丈夫か?」

心配げなミトスにコレットが笑い、ロイドが苦笑する。
今日はリンネ達の旅立ちだが、近いうちにミトスはジーニアス達と共にハーフエルフの人権活動の為に旅立つ。
彼等も準備があるにも関わらずミトスは余裕の表情で頷いた。

「大体のものは揃ってるから大丈夫だよ」

「そうそう。ロイドじゃないから事前に慌てたりしないよ」

「どういう意味だよ」

ミトスの隣で笑ったジーニアスにロイドが軽く睨みをきかせる。
相変わらず仲のいいやりとりにリンネはコレット達と共に笑った。
でもこんな風に話すのも暫くできない。
そう思うと少し寂しいが、これはみんなそれぞれの道を歩もうとしている証拠。
寧ろ喜ぶべきことだと考えるようにして、リンネは小さく息を零した。

 「ごめんな。みんなの事見送れなくて」

「見送られるより見送りたいと言ったのはこちらだもの。気にしなくていいわ」

申し訳なさそうに言うロイドに、リフィルが落ち着いた笑みを浮かべて首を横に振った。
リフィルの旅立ちに伴い、ずっと後任の教師を探していたのだがゼロスの口添えもあって先日やっと決まった。
職務の引き継ぎが終わり次第、リフィル達もイセリアを旅立つことになる。

「そうそう。見送られたら泣いちゃうもんね」

「ミトス!」

からかいを含んだ声にジーニアスが声を上げる。
図星をさされて照れたのか、微かに頬を赤くしたジーニアスにミトスは笑った。

 「でも、これでお別れなんてちょっと寂しいね」

「また会えるよ。あたし達は同じ世界で生きてるんだからさ」

悲しげに笑ったコレットにリンネは微笑んだ。
今、自分達は同じ世界で同じ気持ちで生きている。
剣を向け合うことも、憎しみ合うこともしない。
手を取り合い、同じ大地で生きている。

「それに、どんなに離れてても俺たちは繋がってる。それが仲間だろ?」

リンネの言葉に力強く頷いたロイドはまっすぐミトスを見つめ、まっすぐな視線を正面から受けとったミトスはくすぐったそうに笑った。

「相変わらずくさいセリフだね。でも、君達のそういう所が好きだよ」

柔らかく笑ったミトスに、胸があたたかくなる。
そこには憂いも影も何もない。
心からの笑みがそこにある。
それが本当に嬉しくて、リンネはこの幸せを噛みしめるように笑った。

「そろそろ行きなさい。みんな待ちくたびれてるみたいよ」

リフィルが促した先には、出発を今か今かと待ちわびている人々の姿があった。
あまり待たせるのも悪いだろう。
リンネはリフィルに頷いた。

「それじゃあ、いってきます」

「またな」

リンネはリフィルと握手をかわし、ロイドがジーニアスと、コレットはミトスと握手をかわす。
あまりさみしさを顔に出してはいけないと思いつつも、うまく笑えているか自信がない。
リンネの気持ちに気付いたのか、リフィルは大丈夫よ、と微笑んでくれた。
この先生には一生敵わないなと内心苦笑する。
卒業式で沢山の事を教えてもらったと言ってくれたリフィルだが、やはり沢山の事を教えてくれたのはリフィルだ。

 「あんまり無茶しちゃだめだよ?」

「みんなも道中気をつけてね」

全員と握手をかわし、リンネは最後にミトスと握手をかわした。
繋いだ手からミトスのぬくもりが伝わってくる。
このぬくもりをしっかり覚えておこうと、リンネはぎゅっとミトスの手を握った。

「元気でね。ミトス」

「リンネ達もね。君たちの旅の幸運を祈ってる」

ゆっくりと手を離し、リンネ達は自分達を待っている人々のもとへと向かう。
今日からまた、リンネ達の旅がはじまる。
ミトス達とは進む道も歩む人も違うけれど、世界を愛する同じ心を持って。


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