夏が運ぶ風(3/5)



長く続く屋台の列に、どれがいいかと頭を悩ます。ソースの匂いは食欲をそそり、焼きそば、たこ焼き、お好み焼き、食べきれるかも分からないのに買ってしまう。それらは二人でかなりお腹がいっぱいになる量だった。暑さを紛らわす為にかき氷を買い、シロップをかき混ぜる際にボロボロと氷を落としてしまう。浴衣に少し付いたけどまぁいい、シリウスのだし。ちなみ八重にはああ言ったがシワがついても問題ない、なぜならシリウスのだから。すれ違う女達が食べているりんご飴やらチョコバナナやらを見て、そう言えば甘いものを食べてないなと思い目の前の屋台の綿菓子を薦めてみるも八重はいらないと首を横に振る。とここで八重が甘いものが好きじゃなかったことを思い出す。まぁ女がみんな甘いもの好きだとは思ってないしそれでいいと思う。逆に女をアピールするために好きじゃないのに好きな風を装っている方が俺は嫌だ。だから八重は八重で、それでいいと思う。


*


お祭りに来ると普段はそうでもないものも美味しそうに見えてついつい買いすぎてしまう。ソース系を制覇してお腹いっぱいになっても串系に手を出してしまう。帯が憎い。むしむしした夜に冷たいかき氷はもってこいのサマーフード。かき氷を混ぜるときに氷を落としてしまうあるあるを披露してレギュラスの浴衣を汚してしまった。すぐに土下座する勢いで謝ったけど案外、いや全然怒られなかった。お兄さんのだからシワもつけるなって言ってたのに。シミならいいのか、いやいいわけない。しょっぱいものばかり食べていたからかレギュラスに綿菓子を薦められたが、甘いものが好きではない私はノーセンキューと首を振った。私は思うのだ、女の子なら甘いものを美味しいって食べている方が可愛いと。レギュラスもそういう女の子の方が好きだったりするんじゃないかなと思いながらも、私は浅漬けきゅうりを売っている屋台に並んでいた。





ふわふわあまい





「…まだ食べるの?」
「だって美味しそうなんだもん」
「まぁいいけどさ」
「……やっぱさー、きゅうりより綿菓子食べてる女の子の方がいいよね」
「は?」
「綿菓子って存在が可愛いじゃん。例えるならウサギとか、ポメラニアン。それが好きじゃない私って、可愛くない」
「そんなことないから」
「えーじゃあ、きゅうり食べてるカッパみたいな女の方が可愛いの?」
「俺は無理してるウサギより素直なカッパのがいいよ」
「……私カッパでよかった」
「カッパを恋人にした覚えはない」



甘い綿菓子がなくとも、そこはふわふわ、あまい空気が漂う。









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