小説 | ナノ









(今…ジジィはなんて言った?)


真っ白な病室に漂う消毒液の匂いが現実感を鈍らせる。


「…その様子なら君も知らなかったのかな?」


呆然としながらスクアーロは腹をさすった。

(子供がいるって?)


「失礼なことを聞くが、…ザンザスの子なのかな。」


腹をさすりながら俯くスクアーロは9代目の言葉には答えなかった。

しばらく無言だったが、ほとんどまばたきをしていなかった蒼銀の目から雫がポタっと音を立てて落ち、シーツを濡らした。

「…っ……」



(ザンザス……ザンザス…)


(なんで、お前が今いないんだ)




ふぅっと息をついて、努めて柔らかく老人は言った。


「すまない、混乱させたね。色々聞きたいことがあるけれど、日を改めるよ。君と…子供の為にも安静に療養なさい。」



カタンと音を立て、椅子から立ち上がった老人が部屋を出て行ったのを機に病室の前から人の気配が消えた。

静かな空気が耳にキーンと響くようだ。

(子供…)

(誰の?っても俺と……ザンザスしかいねぇけど。)



ザンザスは、いない。

あの日、クーデターの最後。

動かない体に必死で力を込め微かに見たその場所には、凍らされたザンザス。

一体、どうなったのか。
ザンザスは死んでしまったのか?そのあと彼はどうなったのか?


「ザンザス…」


窓から差し込む日は傾き、病室の床に長く伸びた影が小さく震えた。


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