小説 | ナノ




36


小さな白いカップの中のエスプレッソは既に湯気を失い、表面を静かに揺らしている。


「どうするの?シルちゃん…」
「ボスはまだ何も言わねえ。…かと言って何も知らずにずっとこのままと言うわけにもいかねぇだろぉ?」



スクアーロが手の中のカップを見つめていると、ルッスがそっと新しく淹れた温かいカップを差し出した。


「それに知らない方が危険だぁ」


一口含むと、温かくほんのり広がる苦味に目を細めた。



「そうねえ。いつまでも私たちの誰かが一緒ってわけにも…」

「ベストなのはシルヴィア本人が自衛できるってことだけどよぉ。アイツにそんなん期待できねぇ」


スクアーロがソファの背に深くもたれかかった。

「そうなの?血統からしたら最高なのに」


「アイツは本ばっかり読んでてで、賢いんだけど体力はねぇからな」


溜め息混じりに話すスクアーロの目は優しく、微笑んだ。




コンコン


控え目なノックの音がした。幹部は談話室でノックなんてしないし、部下ならばもっとしっかりとしたノックが響き渡るはずだ。


「どうぞ〜」

ルッスが声をかけると、控え目に開かれた扉から小さな銀髪がひょこっと現れた。


「あれ、ママンもいる」


「ホントだ。」


続いて金髪に冠を乗せた少年が顔を出す。



「ルッスー、これあげるからおやつちょーだいっ」


「あら、綺麗じゃな〜い。良いわねアドニス、好きよ。」


ベルから花束を受けとると、ルッスは水を用意しに立ち上がる。


「温室にいたのかぁ?…アネモネって毒々しいよなぁ。ボスみてぇ」

隣にちょこんと腰掛けたシルヴィアの頭を撫でながらスクアーロが言った。


「あら。ボスは薔薇のほうが似合うわよ〜。」



シルヴィアは無言で握ったままの紅いアネモネを見つめた。




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