小説 | ナノ




35


シルヴィアがヴァリアーの屋敷にやってきてから1週間が経った。


一昨日からの雪で庭は真っ白になり流石に外で遊ぶことができないので、今日は温室でベルと遊ぶ約束をしていた。




「ねぇ、ベル…」


「なに?」


両手にたくさんの先程切り取ったアネモネを抱えてベルが振り返った。


「ベルやみんなは、何のお仕事してるの?」


「あ゛はっ。内緒」


「なんで?」


「先輩かボスが教えてくれるまで待てよ。」


「えーっ…きっと教えてくれないよっ。何かいつもはぐらかされるのよ」


「そろそろ教えてくれるさ。」

そう言って、ひときわ紅いアネモネを一輪シルヴィアに手向けた。



「そのボスにそっくりで、このアドニスの花の如き真紅の瞳は、風に乗ってきっと噂が広まるのが早いからね…。ししっ」



「アドニスって…少年じゃないっ」


大仰な芝居がかったベルの様子に、きょとんと首をかしげて紅いアネモネを受け取った。毒のように色の濃い花の中心部分は、見つめているだけでクラクラとする。


「ししっ。お姫様は物知りだね。それなら、ここに住んでいればすぐに気付くさ。」



「…知らない方がいいことなの?」


ベルはどこからかライトブルーのリボンを取り出すと、シルヴィアの持っているアネモネの茎に結んだ。


「なーいしょっ」


口元がニッと笑った。



「ココは毒ばかりで、まだ小さなお姫様には刺激が強すぎるからねっ」


「そうなの?」



ベルはそう言いながら残りの花を彩りよくブーケのような束に纏めていき、最後に大きな黄色いリボンをかけた。



「よしっ、でーきた。カマにおやつたかりに行こうぜ。これ、賄賂な。」



「うんっ」



2人は花束を手に、談話室へと向かった。

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