32 ゲストルームに簡単に整えられたベッドに小さな真っ白い肢体が横たわる。 「熱が、あったんだぁ」 細い指先が淡い色の前髪をかき分けて小さな額に触れた。 「…無理させちまったな」 そういって肩を落とすスクアーロは、普段見るようなピリピリした空気とは程遠く、柔らかい『母親』の雰囲気だった。 「…てめぇも変わったな」 ボソッと呟いた言葉に、スクアーロが目を見開いて振り返る。 「…え?」 蒼銀の目を見開いたまま若干青ざめたスクアーロを見て、ザンザスは組んでいた腕を緩めた。 (しまった…さっきのはコイツには失言か) スクアーロは長年、ザンザスが母親という存在を憎んでいると思っている。そのスクアーロに『すっかり母親』なんてなんの誉め言葉にもなりやしない。 もたれていた壁から背を離すとスクアーロに近づき、軽くその白い頬を撫でた。 「…違げぇよ。俺は、もう母親の事はどうでも良いんだ。どう足掻いても過去は、変えられねぇだろ。」 「…ザンザス…」 手のひらがじんわりと暖かく濡れた。 「俺、きっと怖かったんだぁ。お前が氷漬けにされた時・子供がいると分かった時・産んだ時…」 「お前に話せずにいた時…それから、今日。」 伏せた淡い睫毛に涙の粒を溜めて、零れた。 「ごめん…色々勝手で…、ごめん…っ」 思わずギュッと抱いた肩は前よりも小さく感じた。 まるで少年のように見えた少女は、いつの間にか女性・そして母親になってしまっていた。 きっとザンザスがモヤモヤを感じたのは、それを自分が知らない事への焦りだったのだろう。 「…ドカス」 そう呟いて、小振りな頭を撫でた。 [mokuji] [しおりを挟む] TOP |