音恋



「ギター上手いっすね。」


サボりなう。
授業サボって空いていた音楽室で机に座り(良い子は椅子に座れよ)アコギ引きながらカントリーロードなんてものを歌っていると、声かけられた。
指先も声も止めて振り返ってみれば、同じクラスの謙也の後輩がそこにいた。名前は知らない、俺はテニス部でもないしテニス部の追っかけでもないし、ぶっちゃけ謙也ともそこまで仲良くない。
だからこの黒い髪をワックスで決めているピアスしまくり後輩に声かけられた意味わからない。
とりあえず褒められたって言うのは分かった。あと気になる事もある。


「…君、サボりなん?」
「いや。保健室に寝にいくとこです。」


寝不足なんで。そう付け足して俺の方へ寄ってくる彼に思わず呟く「それはサボりやんけ」。小さい小さい声だったのに、この無音の音楽室では鮮明に聞こえてしまったらしく「そーっすね」と適当に返事返された。


「意外っすわ。」
「なにが?」
「ギター、めっちゃ上手いですやん。」
「…久々や、弾いたの。」


少し笑って俺の横へ到着するなりべた褒めかよ。意味分からへんけど恥ずかしくてギターを見た。家にある俺の放置されっぱなしのギターに比べたら綺麗で手入れされているソレは、思った以上に良い音を出してくれた。
だから気分良くなって歌まで歌って…なんていう恥ずかしい他人に見られたくない姿ランキング上位に来るほどの所を見られたわけで。
あぁ耳が熱い、きっと赤いんだろうなって思うと我慢できなくなって頭をぐしゃぐしゃとかき乱した。ちょっとくらいは耳も隠れるはず。

俺の真似なのか隣の机に座った名前も知らない後輩は「ふぅーん」なんてまた適当な返事。なんとなくその声が俺の様子を窺っているようなトーン。そりゃいきなり髪ぐしゃぐしゃし始めたら可笑しい奴だと思うよな。


「でも、ほんま上手いと思います。お世辞抜きで。」
「…おおきに。」
「俺、パソコンで曲作るの好きなんすわ。やっぱ打ち込みより生の方がええ音しますね。」


つくる?曲を?意外だ、と言うより打ち込みの音と比べられた事の方に少し反応してしまった。まだ赤みが引いていないだろう顔を向けて、ギターを少し叩いた。


「そらそうや。結局打ち込みは打ち込み、ギターは弾いてなんぼや。心こめて弾いたったらちゃんと答えてくれんねん。ええ音出しよるし…なんやろ……その…」


あかん、上手く良い言葉が出なかった。格好悪い。
思わずまた顔を下げた、そんでついでに弦に指をひっかける。この変な空気を壊したくて途中まで歌っていたカントリーロードを初めから引き直す。今度は歌わないけど。
将来の夢、小さい頃はそれこそギタリストだった。今は違う、やりたい事なんか見つからない分からない。ギターも忙しくて弾いてない。

だから、今日こうしてギターを弾いているのが可笑しくてしょうがない。


「分かります。」
「え、」
「先輩、ギター好きなん分かりますわ。だから、ギターも先輩の事好きなんやと思います。こんなええ音、初めてですし。」


話しをしてくれるから止めかけたカントリーロード、弾いてくださいと先を促されて止めず弾く。彼の顔は穏やかだった。伝わる、穏やかなその理由は、きっと。


「俺、先輩のギターの音に惚れましたわ。」


カントリーロードを弾き終わった後、赤い耳も何も気にしないで名前教え合って。「また弾いてくれません?曲は何でもええんで。」なんて言ってくれた後輩の名前は財前光。言ったその笑顔が名前に負けないくらい輝いた眩しいものだった。

サボって良かった、ギター弾けて良かった、今日この場所でアコギを見つけて良かった。
後々、この良かったは大きな意味を生み俺に幸せを、財前にとっても価値あるものへと変わっていくなんて、

俺も財前も知らなかったし、予測できるはずがなかった。



音恋




「俺の曲のギター弾いて録音させてもろうてええすか?」
「ええけど…何するん?」
「動画投稿サイトに上げるんすわ。」
「……なんやそれ、え?」
「俺、こー見えて結構有名で…」



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ヲタでPな光、すっげー好きです。
部屋とかパッと見は普通のオシャレな部屋で、でも良く見ると本棚にミクの本とかアニメのDVDとか入っててほしい。

2013,04,11

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