たくさんの君を君へ



たくさんの愛の言葉を君へ囁けるほど、俺は素直じゃないし度胸も勇気もない。

昨日の帰り道。たまには一本違う道を曲がって家に帰ってみようと思った。いつも通る道の隣の道なのに慣れない光景は俺にとってドキドキさせられる。
その道に、一軒分の家が建てられるだろう土地が空いていた。雑草ボーボーで手入れされている感じなし、ボロボロの柵に『売り地』と赤い看板が立っていて。こんな近所に空き地なんてあったんだ、と見渡せば雑草の中に黄色の花がこれでもかと咲いていた。

それは何処でも見かけられるだろう一般的で有名な花、ポンポンの様に丸くフワフワしている愛らしい花。

ソレを見て、俺は即座に


「…謙也みたいだ。」


君を、思いだしてた。


次の日。


「謙也ー!!」


朝連が終わって校舎内へ戻ろうとしていた謙也の背中を見つけた。いやー嫌がらせも兼ねて教室の机の上に置いておこうかと思っていたんだけどな、ラッキーだったな謙也。

俺の大きな呼びかけにコッチを向いて追いつくまでの数メートルを、わざわざ向こうから距離を縮めてくれる。笑って「慎やん」なんて呼んでくれて、キューって嬉しさが謙也の元へ向かう足の先から揺れる髪先まで昇っていく。


「朝からどないしたん?遅刻になるっちゅー時間やで?」
「マジだ、全然気付かなかった。」
「制服ぐっちゃぐっちゃやで?何してたん。」


いつもなら自分の机で寝ているだろう担任が教室へやってくる10分前。それに比べたら今日の俺は遅刻も遅刻、大遅刻だ。
これでも早めに家を出たのだけどな、と心の中で拗ねながら今はとにかく謙也の隣に並んで鞄の中に詰まっている物を見せたくて見せたくてしょうがない。どうやって見せようか悩むけれどやっぱ普通に見せるべきなのだろうか、でもそれじゃつまらない、謙也の驚く顔が見たい。

うーむ、と悩んでいる俺が気になるのか、謙也は「なに悩んどんねん?」と顔を覗き込んで来る。あぁ近いってバカ、心臓がドキドキするだろうがやめろバカ、なんて言えないけれど。
でも早く教室へ行かなきゃいけないし、さっさと渡さないと台無しにもなるし。赤くなりそうな顔を誤魔化すために大げさな咳払いを1つして、俺は謙也の目の前に立った。

今の俺なんか見てほしくない、制服が土で汚れちゃってるし髪もボサボサになっちゃったし。でもそんなの謙也と話す方が大事なんだよなー、分かってくれるかな?


「うっせ。謙也、あっち向いてほい。」
「お?」


右手の人差し指を左へ向ければ、声のせいか釣られて俺から見て左へ向いた謙也に「アホがいるー」とバカにしながら、軽い鞄のチャックを開けて中身を謙也へと向かってブチまけてやる。


「アホってなん、って、えっ!?」


ブワッと空を舞う黄色の花。その数、一体何本でしょうか?摘んできた俺にも分かりません。空き地の半分くらいまで摘んでいたし30は超えていると思う。
いきなりの俺からの攻撃に一瞬体を後ろへ引いた謙也だったけれど、その飛んできたものの正体がいったい何なのか分かると瞳を閉じただけでその場に立ち止まり全てが地面に落ちきるのを待った。

たくさんの花が地面に落ちれば、謙也の足元に黄色の花と花の茎の緑が広がって。二つの色が作りだした水たまりの真ん中に立ち続ける謙也がそろりと瞼を上げれば、きっとしてやったりと笑う俺がそこにはいるんだろうな。


「な、なんやねん急に!!」


ビックリしたわ!と足元の花を見ながら俺に文句を言ってくる、まぁ会っていきなりこんなことされたら驚くわな。ソレが目的だったから俺からしたら?大成功?ってやつですけれどね。

はっはーと笑いながら鞄の中を見れば、1つだけ引っ掛かって飛んで行かなかった花の姿。黄色の愛らしいその姿をつまんで謙也に差し出して、昨日の帰り道を思いだした。

一面の黄色を見て、君を思い出したんだ。会いたくなったんだ。そしてこの愛らしく可憐な花は何時の日か綿毛となってもっとたくさんの花が咲きますように、と何処かへ風の吹くまま遠くへと旅に出る。

それがこの花…たんぽぽに似ている君も、何時の日か俺から遠く離れた何処かへと飛び立っていくんじゃないのかって思った。


「たんぽぽ、謙也に似てるなって思ったから摘んできてやっただけ。」


でもそれは俺が勝手に思ってしまい、そんな未来を想像し涙を流したなんてさ、絶対ぜーったい謙也には言ってやらないんだ、バカ。




たくさんの君を君へ




「近所にさたんぽぽ畑あったんだー。」
「そんでわざわざ摘んできたんかいな…。」
「うん。綺麗だろ。」
「アホか、そこに俺を連れてけっちゅー話しやろ。」
「…いいよ、2人で行こう。」

「ちゅーか、慎、お前鞄の中身は?」
「教科書とかは全部机の中に入っているぜ。」


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最近、よくタンポポやチューリップが咲いているのを見かけます。
とても綺麗でいいですね、
花はとっても好きです。覚えられませんが。

タンポポを見て謙也を思い出したのは、
リアルです。見て一秒、「あ、謙也。」と
思ってしまいました(笑)

2013,05,27

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