頬に愛を



「丸井っ。」
「ん?」


テニスコートから出てきたばかりだろう丸井を見つけたもんだから、これは良いと思った、後悔はしていない。
振り返った丸井のぷにぷにの頬にぷすっと刺さった俺の人差し指。所謂悪戯である。呼びかけておいてなんだけど、お前に用事はない。このためだけに呼んだのだ!
呼ばれたから俺の方を向いたのに、ただ頬を指差されて丸井はジロリと俺を睨みつけた。


「…慎、何すんだよぃ。」
「やー、暇だったから。柳どこ?」


いやー頬ぷにぷにだな。そう言いながら丸井の頬をつまめば流石に嫌らしく俺の手を掴んでペイッて投げ捨てられた。やめろよ傷つくだろー。
何とも面倒くさそうに頭をガシガシ掻きながらガムを膨らまし丸井はコートを指差した、見ろと促されたので見てみれば、そこに目的の人物がいた。目を開いているのかいまいち分からない細目の彼は切原を指導しているようで。

あんな悪戯したのに教えてくれた優しい丸井には礼をしなくては、と鞄からチョコレート菓子を渡す。


「ありがと丸井。」
「お、サンキュ。…でも行かねー方がいいと思うぜ。」
「なんで?」
「今、怒っているから。」


なんと。
もう一回柳と切原を見れば、切原がいつもより項垂れて小さくなっているではないか。そして柳からはなんとなく近寄りがたい幸村に似たオーラが出ているような出ていないようなよく分からないような…まぁ、表情が険しいから怒っているんだと思う。


「なんかあったの?」
「今日は幸村も真田もいないだろぃ?あのバカ、調子乗ったんだよ。」


その結果、現状一番偉いだろう柳が怒っていると。
まぁ真田ほどじゃないけれど柳も規則やルールには細かい方だと思う、厳しい人間だし部長達がいない間を預かる身として責任もあるし…あとで幸村に怒られるのは嫌だもんな。

だから俺は逃げてきたんだよ。パチン、と膨らませていたガムを割りながら丸井は苦笑いを零した。他の面々もなんとなくやりにくそうと言うか怖がっているような…特にジャッカルが。

まったく、怒るのは構わないけれどやりすぎも良くない。切原だって地面にめり込むんじゃないかってくらい落ち込んではいないけれど、初めて見るくらいには反省しているみたいだし。


「ここは俺が頑張ってあげようか?」
「……なにするんだよぃ?」
「いやー何もしないけれど。」


そう丸井に言い残して、俺はコートへ向かった。
テニスウェアの面々に紛れこめない制服姿の俺の事をレギュラー以外の部員が見つけるたび、「え?」という疑問の視線が飛んでくる。
レギュラーは俺を見つけたら「あ、慎」くらいなんだけどね。まぁ柳と仲良いから俺有名だし。
静かに、と笑いながら口元に人差し指を当て、出来る限り静かに柳の後ろへ回り込む。切原と柳以外は俺を見つけて何をするんだと興味津々の様子。

そろりそろり、とその距離を縮めて。その背中まであと五歩のところでギアチェンジ。走って飛び付いた。俺よりも背の高い柳におんぶしてもらう形になるように。


「やなぎっ!!」
「っ、な…」


いきなりの衝撃によろけたものの倒れはしなかった、流石常勝立海テニス部の三強なだけはある。
何が起きたのか分からないらしい柳が、振り返って俺の顔を確認するなり珍しく瞳をしっかりと開いてその綺麗な瞳に俺の顔を映した。ソレだけで嬉しい、言葉では表現できないほどコレでもかって位嬉しいのだ。

その思いを、どうか柳も感じてくれていると嬉しい。そう思いながら柳の頬に唇を押し付けた。


「、慎」
「あんまり怒んなよー、切原が可哀想だろ?」


周りに部員達がいるのも気にせず、俺は柳に抱きつく力を強める。離れたくないよ、すり寄って肺いっぱいに柳の匂いを吸い込んだ。
ただソレだけの事。そう俺に出来る事はこんな事。

でもな、柳の怒りを鎮めるには十分みたいなんだ。





頬に愛を




「…今日はこれくらいにする。」
「は、はーい…」

「てかまだ終わんないの?帰っていい?」
「これで終了だ。」
「アイスアイス、アイス食べに行こうぜー。」
「…丸井達が一緒に行くと思われるが。」
「いーじゃん。2人っきりはその内ね。」

(…慎先輩に甘過ぎる…!)

「何か言いたそうだな?」
「な、なんでもないっす!」


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…前の柳さんもそうなんだけど
なんか、バカップルになっちゃうな。

………お許しください、てへぺろ。

2013,05,23

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