炭酸飲料の唇



「ほい、コーラ。」
「おう。」


うちに遊びに来た宍戸に特別だと言いながら500mlのペットボトルを渡す。バカみたいに暑い日は、冷えたコーラを飲むに限ると思うよ。…いや、自論です。
みーんみんと五月蠅い蝉の鳴き声にげんなりしながら、ペットボトルのふたを回してプシュっと良い音をたて開ける。この音がコーラの美味しさを何倍にも引き立ててくれるよな。
俺の開封音に続いて宍戸もプシュッと音を鳴らす、これこれ、たまりません。

開けた勢いそのままに、唇とペットボトルの口でキスをして口の中へコーラを招いてごくごく、と喉を鳴らしながら何口も飲んで…


「…っぷはぁ!!」
「おっさんかお前は。」


激ダサ、そう幸せそうに肩で息をする俺の頭を叩いた宍戸は俺のように勢いはつけず、ゆっくりと一口だけ飲んで蓋を閉めた。


「宍戸、コーラは早く飲まないと美味くなくなるぞ。」
「だからって三分の一も飲むバカはいねーだろ。」
「此処にいるじゃん、目の前に。」
「…」


俺が飲んだ後のペットボトルを見せつけてやる。三分の一どころか半分近く減ってしまっているけれど気にしない、無限に増えるコーラを探して三千里したいくらい俺はコーラが好きすぎる。

見せられた俺のペットボトルを見るなり「うわバカだこいつ」という目で見てくる宍戸は置いといて、自分の部屋にある小さなテレビの電源を入れてゲームのスイッチをon。
今日は久々にテニスも練習も無しで俺と遊んでやる、と宍戸が言ったから思いっきり遊んでもらおうと思う。


「なにする?やっぱバトル物?」
「なんでもいい。」


準備する俺の横へ来て何でも良いと言ったくせにゲームソフトを吟味する宍戸は、なんとなく可愛くて笑いを我慢できない。


「…なに笑ってんだよ。」
「っくく…だって何でも良いって…」


がつ、と少し強めに殴られて、一本のソフトを俺に差し出した宍戸と笑いながらゲームをし続けること数時間。

いくら俺がコーラが好きだとは言え、ゲームに熱中すると飲むのを忘れがちになってしまう。それは宍戸も同じなのだけど。数時間経ったのに500mlのペットボトルの中にはまだ三分の一残っていて。宍戸はまだまだ半分も残っている。


「ちょっとブレイクターイム!」


コントローラーから手を離してベッドへダイブした俺はノビノビと手足を伸ばす。んーと唸りながら宍戸を見れば、ベッドに寄りかかって腕を伸ばして。流石にぶっ通しでゲームし続けるのは疲れる。
首を左右に動かしたり目の周りをマッサージしたり、喉の渇きに気付いたり。ハッと俺は愛しのコーラの存在を忘れてしまっていたことに気がついた。
コーラの方を振り向けば、宍戸も丁度コーラを飲んでいて。丁度良い。


「ししどー俺のコーラとって。」
「自分で取れよ…。」


もうそこまで残っていないコーラへ手を伸ばせども届かないアピールをしながら、宍戸が自分のコーラを持ったまま俺のコーラも持ってベッドの淵に座った。ぎしっとベッドが悲鳴をあげるが宍戸は気にせず、二つのコーラをジッと見て。
さっき宍戸が飲んだから丁度同じくらいの量になったコーラ。並べると見分けがつかない。が、宍戸は迷うことなくサッと右手に持っていた方を俺へ差し出した。


「ほらよ。」
「サンキュー。」


起き上がって蓋を開ければ弱々しくぷしゅ、と音を立てて。残っている全てを飲んでしまおうと温く若干炭酸が抜けてしまっているコーラを飲むべく唇をペットボトルの口へ重ねる。喉を鳴らしながらコーラを飲んでいくその光景をジッと見ていた宍戸も俺の真似をして蓋を開けて飲んで。

ペットボトルが空になって、ぷはっと小さく息をついた俺の後を追って、宍戸もペットボトルを空にした、と何故か小さく笑い、蓋をしっかり締めてから空になったペットボトルを俺へ投げてきた。


「おわ、」


いきなりの事で避けきれずに空のペットボトルは俺の胸元に当たって。痛くなかったけれどなんでこんなことされなくちゃいけないんだと、宍戸を睨んだ。


「なにすんだよ。」
「わりぃな。慎のコーラ飲んじまった。」
「は?何言ってんの?」


クスクスと笑う宍戸がのそりとベッドの上へあがってきて。
いまだ言葉の意味が分からない俺は、意味も分からずただ宍戸の笑顔を見続けていた、悪戯が上手くいったと笑う宍戸を。
優しく、だけれども力強く俺の肩を押して、俺をベッドへと沈めながら徐々に俺の体の上へ覆いかぶさり、


「お前、俺のコーラ飲んだんだよ。」


入れ替えたのちゃんと見とけよ、激ダサだな。

宍戸のペットボトルの口と俺の唇が重なったという衝撃事実に動揺する俺の唇と、さっき俺のペットボトルの口に唇を重ねた至極楽しそうな動揺する原因を作った張本人宍戸の唇が、距離を失った。




炭酸飲料の唇




「やっぱコーラの味だな。」
「…おま、わざと…?」
「当たり前だろ。じゃなきゃ俺も気付かないだろ。」
「な、なんで、」

「…聞くか?普通。」
「……あえて、聞いてみる。」
「激ダサだな。」


--------------------


たまには
悪戯っ子な宍戸さんを………

しっぱい、とか気にしな(ry

2013,05,20

(  Back  )

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -