図星
「よっ…」
「何しとんの?」
下校途中の俺と侑士は、見えないかもしれないけれど立派な恋人同士なのだ。と、胸を張って誰かに言ったことは俺にはない。侑士は誰にでも言うけど、死ね。
いつもどおり一緒に帰っている最中、いきなり前触れもなく背伸びしてみた。いや理由ちゃんとあるよ。まぁ普通の話ししている最中に恋人が背伸びしてきたとか、まぁ驚くよな。
侑士も現に少し瞳を大きくさせながら俺を見ているし。
「侑士、背でかいなと。」
「そうでもないやろ。」
「跡部より高いじゃん。」
それは言わん約束やで。と軽く頭を撫でられて嬉しいけれど、少しバランスが崩れる。長時間つま先立ちするのもなかなか大変だ。
おっと、と侑士の肩を掴みもっとつま先立ちしてやると意気込んだにも関わらず、侑士は俺の腰に腕を回しグイッと引きよせ、いや抱き上げてきた。急な力に脚は一瞬地面とバイバイしてしまった、だが侑士は案外力持ちなようで気にもしないでしっかり俺を立たせて腰から手を離した。
「頑張っとる姿も可愛えけど、普通にしとったらええやん。」
「……くそ。」
「?…なんか目的あったんかいな?」
ありますとも、えぇありますとも…って言うわけないだろうが。と心の中でノリ突っ込み。
さすがに目的なく背伸びするほど俺はバカじゃない。でも目的は言いたくない、なんというか…恥ずかしいのだ。きっと言ったら侑士は調子に乗るだろうし…。
(言いたくありまっせ―ん。)
「べっつにー。」
「なんやの?…あれか、バカと煙は…」
「ソレだったら俺より背が高い奴等全員バカになんぞ。」
「俺、慎より頭ええで。」
さりげなく酷い事言われたが事実なので軽く足を踏むだけで許してやろうと思う、俺って優Cー。…このまえジローの真似して侑士に怒られたから心の中で真似とこ。
バカ侑士、それだけちょっと言って一歩先を歩く。「慎、待ちや」と侑士が声を掛けてくるけれど、わざと返事を返さない。
少し怒っている感じで鞄を持ち直し更に距離を離してやろうか、と歩く速さを速める。別に怒ってなんかいない、それは侑士も知っているだろう。こう見えてちゃんと意思の疎通できているんだ。
ただ、たまにはこういうフリが大事さ。
「慎、ちょお待ちって。」
(知らね。)
「慎、」
(バカ侑士)
「キス、したかったんやろ?」
ビクッと、体が跳ねて動かしていた足が止まった。
足を止めてしまったと気付いた時にはもう手遅れ、自分がしてしまったことに激しく焦りを感じた。こんなあからさまな態度とったら誰が見たってソレが正解だと思うだろう。
正解なんだけど。
一気に顔の温度が上がっていく、耳の裏までじわじわと熱くなり切った時には、そこそこ開いていた侑士との距離を詰められていて。
隣に来るなり遠慮なく俺の顔を覗き込んできたその顔は、にまにまと絞まりのない笑顔。思っている事が言葉にされなくとも分かる侑士の顔を殴りたかったが、俺の体はいまだ固まったまま。
絞まりのない顔でズイッと近づかれて、俺はやっと一歩だけ後ろへ下がれた。
「図星やんな。」
「ち、違うっ、あれはその…ゆ、侑士の眼鏡を取ってやろうと…っ」
離れた一歩の距離も気にしないで頬へ侑士の右手が伸びてきて、しどろもどろな俺の嘘を聞いているのか聞いていないのか、俺の事を微笑ましそうに眺め頬をゆるゆると撫でる。
つぅっと指先が輪郭をなぞって俺の髪を掻きわけ、後頭部へと辿り着けばそこから動くなと固定するように力を込められる。
もう嘘を言っても意味がないのだ、俺はバカだ。
離れるために後ずさった一歩よりも大きく侑士は一歩踏み込んできた。その距離、マイナスといってもいいのではないのだろうか。だって唇同士の距離がわずか五センチ程度なのだ。
その距離に一層体温を上昇させる俺は息をするのも遠慮してしまうのに、お構いなしに侑士は笑う。
「むっちゃ可愛え、俺がキスしたいわ。」
「…っ、」
顔を覗き込むために少し屈んでいた絞まりない顔との間に残っていた五センチの距離をつめたのは、俺の方だった。
図星
「言えばええやん。いくらでもしたるのに。」
「五月蠅い。」
「背、伸びひんのきにしとっ痛いで慎!」
「跡部にでも浮気しよーっと。」
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図星
って可愛い字ですね。
これ、書いている途中で鼻血出て
中断してしまったんで
流れが変だと思ったら
鼻血かと察してください…。
2013,05,10
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