20/∞の契り



『慎先輩に一生物の傷つけるっちゅー責任とる覚悟、俺にはあります。』


あの日から一カ月。
そんな事があった光の部屋で、俺の耳に穴を作ったファーストピアスをそっと取った。


「…できちゃったよ。」
「当たり前っすわ。」


鏡に映る自分の耳たぶに出来ているピアスホールは、綺麗なもので。左右対称完璧なものだ。こればっかりは光の腕を褒めざるを得ない。
しげしげとピアスホールを眺めて感心した次に、ファーストピアスを見る。普通のピアスよりも少しだけ太めで穴を開けるため先がとがっている。ちょっとした画鋲といったところ。

これをなんの躊躇もなく、思い立ちだけで人さまの耳たぶに…


(俺にはできません。)


そんな素晴らしい度胸をもつ光をチラッと見れば、消毒液をコットンに染み込ませていて。どうやら今からつけるピアスを消毒してくれるらしい。
思えばこの一ヶ月間、消毒液を使わなかった日はない。穴ができるまで一カ月は一日に最低でも二回、風呂の後は絶対に消毒するという面倒な事がある。
でもそれも今日で…


「先、言っときますけど。」
「ん?」
「あと二カ月は消毒続けなあきませんからね。」


……はい。
分かりやすく頷く俺にフッと笑って「まぁしゃーないっすわ。」と言う光は優しい顔で楽しみにしてくれているのが伝わる。ドクドクと心臓が大きめに音をたててしょうがない。
一か月前にプレゼントしてくれたピアスをつける時が来た。ソレをつけて2人で出掛けようと約束していたから。
恥ずかしいような嬉しいような…そんなむず痒いものが全身を包んでしょうもなくファーストピアスをいじってやり過ごせないか試してみた…無理だけど。

光は今日会ったときからすでにお揃いのピアスをつけていて「コイツどんだけ楽しみにしているんだよ」と思わざるを得なかった。普段は生意気な癖に、どうにも俺のピアスに対する愛情が半端ない。
いまも真剣にプレゼントしてくれたピアスを消毒して、俺の掌にソッと優しく乗せて。その瞳は宝物を見つめる慈愛に満ちたもの。


「ほら、つけたってください。」
「…うん。」


掌のピアスをマジマジと見てから、1つは机に置いて。
このピアスをつけてきた光を褒めた事によって、俺の耳たぶに穴が開いた。いわばこれは俺の運命を変えたピアスってこと。


(一生物の、傷。)


責任とるってなんなんだろう。あの日、光が言った言葉の意味は今も聞いていないし、なんとなく聞きにくかった。そのうち話してくれるはずって思っていたら一カ月経ったわけで。
キラキラ輝くピアスを見ていると思わずにはいられない、ソレってどういう意味?腫れたり膿んだりしないように気をつけてくれるってことなのか?それともまったくもって違う意味なのか…いまだ俺の中の答えはハッキリしない。

そっと、ピアスキャッチを外して本体を耳に当ててみる。つけたらこんな感じなのかって鏡で確認する自分の姿が、


「なんか、別人みたい。」
「何言うてますの?さっさとしてもらえます?」
「ちょっとくらい感動をさ…」
「ええからはよ。」


こいつ、緊張感の欠片もない…むしろクラッシャーだ…。
そりゃいくつも開けている光からすれば慣れているのかもしれないけどさ…という文句を口にするわけもなく。

このままだと光が怒るだろうから、意を決してホールに先を差し込んだ。すこし怖くて差し込む手が小さく震えていた、鏡で見て初めて気付く。やっぱり怖い、いつか慣れて鏡なんて見なくても大丈夫なようになるのかな…想像できない。
俺の不安そうに眉間に皺を寄せる顔も震える手も、しっかり差し込まれていくピアスも、光は何も言わないでジッと見続けた。さっきまで俺の事煽っていたとは思えないほど口を閉じ切って。

最後までしっかり差し込めたら、次はピアスキャッチをつけてそれで終わり、なのだけど。
コレが俺は苦手だ。消毒のために何回か外したりしたけれど入れるのが上手くいかなくて落としたりして半泣きしながら探したのはいい思い出。それを光に話して鼻で笑われたのも良い思い出…。

キャッチをしっかりと持って、しっかりホールをくぐりぬけた先端へ合わせようとしても、やっぱり上手い事噛みあわない。


「あれ、どこ?あれ?」
「…何してますの?」
「出来ない…。」


言って後悔した、光の顔に「アホや」って書いてる。
そんな顔しないで助けてよって小さく言えば、呆れたように溜め息を零しながらズリズリと膝立ちで俺の背後へ回った。耳にかかる髪を掻きあげて耳の裏を見て「あぁ」と納得したように声を漏らして。


「キャッチが斜めっとります。」


俺のキャッチを持つ指先の上に光の指先が重なって、「そのまま動かんといてください」とさっきよりも優しい物言いで言われてはジッとするしかない。
ぐっと押される感覚に体に力を入れて決して動かないように気をつける。光の言う事は聞いておくに限る。機嫌を損ねるわけにはいかないのだ、それにピアスの先輩だしこういう困った時は光頼みだ。


「出来ましたよ。」
「おー…ありがと。」


髪を元通りにしてもらってから鏡で確認する、光の様にしっかりと耳たぶで輝くピアスにじわじわと嬉しさが沸いてきて。まだ片耳しか付けていないのに口元がにやけてしまう。

嬉しさに気を取られていると、いきなり背中に何かが覆いかぶさってきた。

ん?と鏡で背後を見た時、光が俺のピアスをつけたばかりの耳へキスを落とし…


「慎先輩、キャッチつけるの下手でええすわ。」
「ちょ…え、」
「俺が毎日つけたります。約束しましたやん、覚悟できとりますよ。」


なんの話だろう、と鏡越しに光を見れば、ほんのりと頬に色を赤に染めて。見た事のないような穏やかな笑顔で、俺の腹へ回した腕に力を一層込めた。ギュウッと隙間なく抱きしめられながら光の言葉に何も返せなかった。

俺のつけたてのピアスにもキスを落としてから、そっと耳元でいつもより低めの真剣な声で、言いきるんだ。


「一生、側にいてください。ほんまに好いてます。」


なんて返せというのだろう。あぁこの後輩は意地悪だ。
茫然とする俺の顔を光の手は横へ無理矢理向かせた、頬へキスを落とすためだけに。自分勝手な奴、俺は何かを言い返してやりたくて、熱くなっていく体温とか頬とか耳とか、全部全部気付かないふりして口を開いた。

それは光が勝つ確率が高い賭けかも。


「光が20歳になった時、俺の事を今以上好きでいてくれるならいいよ。」


だってこんなにも光がキスを落としたピアスが愛おしい。





20/∞の契り





「そんなん当たり前っすわ。今の言葉、覚悟しといてください。」
「…そ、それまでに心の準備をする…多分。」
「じゃ20歳になってすぐ海外いく計画たてんと。」
「……か、かいがい?」
「同姓婚出来る国いきましょ。」


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ぐだぐだと
話しを書くのが好きすぎて文字が多くなりすぎるのが悩みです。
20歳の光って、格好良いとおもう。

2013,05,10

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