高い所の君へ



ジローの誕生日だと思いだしたのは、ゴールデンウィークを使って東京へ遊びに行こうと向かっている新幹線の中での事だった。
あぁ、何も考えていなかった。相も変わらず自分はこういう所が抜けていると思う。
欲しいものなら本人に聞いてからの方がいいという事にして、とりあえず新幹線の中では眠った、それをそのまま忘れなかったら最高だったのに。

ジローの誕生日だと思いだしたのは、5月5日、当日だった。惜しくもその日は大阪へ帰る日だった。


(やばい、用意どころか何を欲しがっているのかすら聞いてない。)


今日がラストチャンスだ、まぁ結局は昨日も一昨日もそうなんだけど今日もテニス部の面々に会いに行くため氷帝学園へ。ジローは俺がテニス部へ遊びに行くと知っていれば、必ず昼寝をせずにしっかりとした足取りでテニスコートへやってきてくれる。
今日は最終日だから絶対に来ると言っていただけに、会えないという心配はしていなかった。

ただ、その日はやっぱり特別だった。
コートまでの道を歩いている途中、俺の背中へかけられた声。


「慎っ!!」
「ん?…ジロー、どうした?」
「Eから、こっちこっち!!」


振り返れば俺の方まで走って来ては、俺の手を掴むなりまた走り出した。そんなつもりはないけれど手を掴み走られては俺も走るはめに。いきなりのジローの行動に頭の中は?だらけになるわけだが、ある意味ラッキーだとも思えた。
コートに行けば他の面々の目もある、ましてや跡部の前で堂々とジローをサボらせるほど俺に度胸はない。

コートとは反対の方向へ走って走って、誰も来なさそうな校舎の影でジローはやっと立ち止まった。小さく肩を揺らしながら息を整えてから、くるりと俺の方へ笑顔を向けて。


「えっへへ…俺、寝る以外でサボるの初めてだ!」
「バレたら怒られるよ。」
「うーん、でも大事な用だC〜。」


大事な用。まぁ俺も大事な用があるのであまり強くは言わないけれど。
ジローは走ったせいか少し疲れてしまったようで、手をつないだま歩きだしては立ち入り禁止となっている芝生地帯へ足を向かわせていた。芝生の上で寝るの好きだからなぁ、と思いだして注意するでもなくついていく。
ボスっとテニスバックを適当に芝生の上に転がしてから座り、隣をポンポンと叩く。隣に座れと言っているのだろう、お言葉に甘えて座ればやっと手は離れて。


「こーやって慎と話すの久々だね。」
「確かに…いつもレギュラー全員と一緒だからな。」
「…慎、俺さ今日誕生日なんだけど、」


その言葉をジローから言われた瞬間ドキッとした。タイムリーヒットとでも言おう、俺も言おうと思っていた言葉なだけに少し動揺。
ジローはと言えば少し話しにくそうにもじもじとしながら、俺の顔を覗き込んで。まぁ誕生日を向かえる本人が催促するのって結構恥ずかしいというかちょっと難しいよな。
じゃ俺が代わりに聞いてあげなくちゃ駄目だよな、と笑ってジローの頭を撫でる。


「知ってるよ、おめでとう。なんか欲しいのある?」
「っ、マジマジ覚えててくれたの!?嬉っC〜!!」


パッと弾けるような笑顔で俺に向かって飛びついて来た。がばりと覆いかぶさってその勢いに負け俺達は芝生に転がった。
背中の痛みくらいは覚悟したけれど芝生は俺が思う以上に優しかった、全然痛くなかった。
グリグリと俺の肩へ額を押しつけてながら「本当に嬉C〜!!」と言ってくる、そこまで嬉しいのかと伝わって思わず笑いながらまたふわふわな癖っ毛の頭を撫でてやった。


「ジロー、重いよ。」
「だって覚えててくれると思わなかった〜!!」
「覚えているよ、ジローは大事な友達だし。」


思えば昔この氷帝学園のテニス部だった頃。俺はジローと良く昼寝しては遅刻していた。あの頃は樺地がいなかったから侑士とかが起こしに来てくれていて…懐かしいななんて思い出に浸っていた俺は、がばっと上体を起こしたジローの行動に追いつけなかった。

離れた、と思ったら…ジローの顔は俺の顔へと急接近してきた、鼻先がぶつかり合う距離はジローの不思議な甘い匂いで肺がいっぱいになる距離だった。


「俺ね欲しいものあるC〜…高い所にあるものなんだ。」
「たか、い?」

「高嶺の花…だっけ?慎が欲C…。」


唇がぶつかり合う距離は、ジローの心臓の音と俺の心臓の音が重なり合う距離だった。
トクリトクリ…音は1つになって新しい音を作り出していた。

新しい俺達の恋の音を。





高い所の君へ





「Eでしょ?」
「…じろ、」
「俺だけの慎。へへ、はずかC…。」
「っ、それはコッチのセリフだろ…。」


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ジローちゃん可愛いよジローちゃん。
ただし此処では格好良いジローちゃんを
目指してみました。
格好付けたいんだけど、
やっぱちょっと恥ずかC…みたいな。

ジロー
HappyBirthday

2013,05,05

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