まぐれなジンクス



(よーし。玄関から出る時、左足から出ないと今日の海遊びで大物獲れないぞっと…)


ギュッと靴ひもを結んで、履き心地を確かめるために1、2回その場で跳ねる。万全な履き心地。
母親に頼まれた回覧板を手にして鞄の中身を確認して…さっき自分で自分にかけたプレッシャーを忘れそうになった頃、僕は家を出た。勿論、左足から。


「じゃ、いってきまーす!」


綺麗な青空、ポカポカ陽気、今日はなんて良い海遊び日和なんだろう!!サエさんが言っていた通りだ!!
今日は珍しくテニス部の練習がない。だから皆で海遊びに行こうと約束した、海遊びは良いよ!だって美味しいアサリ獲れたり、いっちゃんがハマグリ獲ってくれたりするし!美味しい事ばっか!!…女の子との遊びには程遠いけれど。
ちゃんと隣の家に回覧板を回して練習がない分目的の海までランニングしよう。一応ストレッチはちゃんとして…また心の中で唱える。


(今度は…海までの道中に一回でも知り合いに出会えなかったら、一生女の子と手をつなげない!!)


そんなの嫌だ!
誰かに背中を押されるように足を前へ動かした、きっとプレッシャーが僕の背中を押したんだと思う。
こんなプレッシャー、無理かもしれないけれど意外と出来る。こうやって練習がない日に海遊びへ行こうと約束をした行き道、いつも誰かと会う。バネさんともサエさんとも…みんなそれぞれ一回くらいは会っている。だから今日も会える!

海までは結構遠いけれど、ランニングだと思えば丁度良いくらい。無理のないペースで確実に海へと向かって歩を進める。
それにしても、本当にいい天気だ。濡れてもすぐ乾くだろうな。いっちゃんとかズボンビチャビチャにしながらハマグリ獲るし。ダビデもダジャレ言ってバネさんに蹴られて海にダイブさせられるし、結構みんなビチャビチャだから嬉しいな。

角を曲がって後は海まで一本道。そうこの一本道が最後の勝負!
みんなが通る道だからね、いつもこの道で会える!此処で出会わなかったら…。


(一生女の子と手を繋げないぞ!!)


嫌だ!!再度プレッシャーを掛け直しながら回りをキョロキョロ。誰かいないかなー。サエさんのキラキラオーラ見えないかな、背の高いバネさんとかダビデとか見えないかな、いっちゃんのシュポー聞こえてこないかな、クスクス笑い声聞こえてこないかな…まさかまさか、今日だけ例外があったりするのかな…。
内心ドキドキする、もしかしたら…って。

でも、僕の耳は聞き逃さなかった。


「困った。」


海の近くにある駅を通り過ぎようとして、その懐かしい声に僕の足は止まった。
はっはっと早いリズムで稼働する肺を鎮めることなく声のした方を振り向けば、後姿だけだけれど確信できるその人の姿があった。


(うそ、)


知り合いに会えた。でもその人は千葉に住んでいるわけではなくて。むしろ遠く大阪に住んでいて、まさか此処にいるなんてことあり得ない。でも、僕の耳が声を聞き間違えるわけがない。それくらい僕は憧れているんだ、その人に。
恐る恐る、足を動かした。走っていたせいなのか、それとも会えた喜びからなのか心臓がバクバクと音を大きくする。
その背中に近づいてみれば、その人が路線図と睨めっこしているのが分かった。

あ、困っているんだ。

なら、助けたい。力になりたいな。でも僕の事覚えていないかも…どんどん違うプレッシャーが肩にのしかかる。そう、僕が好きなプレッシャーが。

(声を掛けて、僕の事覚えていなかったら、)



「…慎さん、ですよね。」
「え?」


僕の呼びかけにクルッと振り返った憧れの人は、やっぱり格好良い。久々に会えた。
大阪から離れた場所でいきなり声を掛けられて驚いているのか、何度かぱっちり開いている瞳をパチパチと瞬かせた。

これは覚えられていないかも、嫌な予感に頬が引きつった。

でも、その予感は心配し過ぎに終わった。
驚いた顔をしていた慎さんは一転、にっこり笑って体の向きを路線図からちゃんと僕の方へ向きなおしてくれて「あはは」と声を出した。


「剣太郎だ。」
「っ、お、覚えてくれていたんですかっ!!」
「うん。葵剣太郎、一年部長。」


忘れてないよ。そう言いながら僕の頭をヨシヨシと撫でて。僕の事をちゃんと覚えていてくれているなんて、慎さんはやっぱり素敵だ!と、思い直した所で路線図と睨めっこしていた訳を聞いて助けてあげなくちゃと思いだした。
撫でてくれるのは嬉しいけれど、顔を上げて口を開いた。


「あの、どうかしたんですか?千葉にいるなんて…」
「あぁ…祖父ちゃんが千葉にいてね。1人で会いに来たんだけど降りる駅間違えちゃった。」


千葉へ来ることなんか滅多にないんだろう。右手にメモ書きを持っていた、駅の名前になにやら住所も。でも困っている割には明るく笑うから変だな、と思っていると慎さんはメモをポケットに押し込んだ。
くしゃくしゃと髪を掻き交ぜて首を傾げて僕に向けて言葉を紡いでくれる。


「剣太郎はお出かけ?」
「これからみんなと海遊びに行くんです。海、すぐそこですよ。」
「うみあそび…」
「はい、アサリとかハマグリとか獲るんです。」

「………アサリとかって、一駅分歩いても食える?」


「え。」と返事にならない返事を返してしまった僕に対してニマッと笑って、慎さんは僕の手を握った。
ドキッと痛いほどに心臓が跳ねあがる、それこそ口から出てこないか心配するくらいに。でも慎さんは気にせずに僕の手を引きながら歩きだす。駅とは反対方向へ。
つかつかと歩き出した慎さんに引っ張られる僕は頭の中が大パニックで。どこから話せばいいのか良いのか分からない、アサリの事?海の事?駅の事?あれ、本当になにから聞けばいいの?


「慎さん!?」
「海ってこっち?」
「そうです。……じゃなくて、」
「祖父ちゃんのお土産にするわ。遅刻してゴメンって。あとさ、みんなに会いたいなって!!」


玄関でのプレッシャーが当たったんだ。
僕は咄嗟に思ってしまっていた。こんな言い方したら凄く失礼なんだと思うけれど…当たったんだ。


「確かに大物だ…。」
「え?」


僕の方を振り返った慎さんの笑顔がポカポカの日差しでサエさんに負けないくらいキラキラですっごく眩しい、流石は憧れの人だと思う。海までは一本道なんだけど分からないだろう慎さんの手を握り返して、軽く走って追い越す。
引っ張られるのはなんというか嫌だ。僕だって男の子だし格好良い所を見てほしい。慎さんに負けないくらいの笑顔をむけた。


「今日はすっごく良い日になりそうだなーって!!」





まぐれなジンクス





「もしもし剣太郎?何してるの、みんな待ってるよ。」
『サエさん!大物ゲストと一緒にソッチに行きますから!!』
「え、どうしたのそのテンション。」
『ビックリしますから!!絶対に!!』

「…」

「サエ、どうしたのね?」
「剣太郎がウニと一緒らしいよ。」
「絶対違うのねー。」

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焼きうに(半生)
六角は全員大好きです。
実は、
サエさんが一番好きです。
全キャラ中一番。でも
逆にかけないのです。
ありがとさんかく。

2013,04,26

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