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死角を見極める、弱点を見極める。じわりじわり絶望へと導いていく、それが俺様のテニスだ。
俺様にしか出来ない、だからこそ俺様はこの200人のテニス部の頂点に立っている。王様と呼ばれて当然だろ。俺様のためにある言葉なんだから。

けど、だ。

俺はこの氷帝テニス部に入ってすぐの頃。
俺以上の才能を持つ奴に負けた。


「よっと、」
「くそっ…!」


見えるのに。
弱点が見えるのに、返される。じわりじわり絶望へ導かれるのは俺様だった。
ゲームセットの審判の声がした、そのあとに勝者の名前がコート中に響いた。それは俺様の名前ではない。天城慎という名前だった。顔はチラリと見た事あったくらいでそれまで名前すら覚えていなかった存在は、その試合だけで強く深く俺様の頭の中に焼きついた。
6-2、2ゲーム取れたのが奇跡だと思うほど押され負けた。それまで順風満帆だった俺様のテニス人生がプライドが音をたてて崩れていったのを覚えている。

悔しかった、とにかく悔しかった。
ただその反面、嬉しくもあった。


(俺様より強い奴が…同じ学園の同じテニス部にいる。)


それはチャンスとも言えた。
人が成長するために必要なもの、良い指導者、良い憧れ、良い環境、そして自分と比べられるライバルの存在。
俺様の目の前にいる男こそが、自分と比べられるライバルなのだ。負けたのに嬉しくてしょうがなかった。
試合終了の握手のためにネットに近寄れば、初めて近くで見たそいつの顔は…


「ありがと、すっげー楽しかった。」


清々しいほどの、笑顔だった。ただ単にテニスを心の底から楽しんだと教えてくれる笑顔で。
その素直さが羨ましく、負けじと俺様も笑い返してやった。今まで掲げていたプライドや誇ってきた経歴などこの男の前では無駄なのだと思い知った、そして感じた、それが敗因のひとつなのかもしれないと。


「ふっ…良いゲームだったぜ。俺様は跡部景吾だ。」
「俺は天城慎。跡部ね、覚えた。」


コイツが、俺様のライバル。
何時の日か必ず勝ってみせる。










「え、何いきなりその話。」


あの一年の時の敗北が懐かしく、敗北だというのに誇れるものだというのに。
あの時、俺様が認めたライバルは大会を前にドクターストップを理由に退部し二年に進級する前に大阪へ転校していきやがった。
勝ち逃げとは卑怯じゃねーの、そう暇さえあれば電話し続けていた。その効果もあって長期の休みの時には大阪から帰ってきてはうちのテニス部に顔を出す。テニス部に休みなんざねぇしな。

今日も顔を覗かせた慎を最後まで引きとめて、部長にまでなった俺様がまだあの日の続きを待っている事を話す。誰にも話せないこの願いを。コートのベンチに座ってダラダラと話した。

今でも慎とコートにいると、あの日を思いだす。あの時よりも背が伸びて顔つきも大人びたのに、あの時の笑顔が今のコイツにダブってしまう。もう出来ないかもしれない勝負に夢を見る俺様が此処にいるからだろう。


「いつ治るんだ、その弱っちい腕は。あーん?」
「知らないよ。最近は平気だけど、医者が駄目って言うなら駄目なんじゃね?」
「ちっ…俺様を何年も待たせやがって。」


俺達の歳では体が出来上がっていない。コイツは出来上がっていない体で無理を重ねたせいで腕に爆弾を持った。別に部活の練習は俺様や他の部員も一緒だった、コイツが誰も知らない場所で練習を重ねたからか、元々体が強くなかったからなのか…どちらにせよ、長期で治して行くしかないとか。
しかも話しを聞く限りじゃ、体が出来上がる…つまり骨格が出来上がるまでドクターストップらしいじゃねーか。まだ中学生の俺達だ、あと何年も身長は伸び続ける。


「もう二年は待ってるぞ。俺様を待たせるとは、随分と良い身分じゃねーか。」
「待ってなくていいって。その頃には腕が鈍っていて跡部にストレート負けだよ。」


笑って立ち上がった慎の身長は、初めて握手をした時よりも随分と伸びていて髪も少し長くなった、それは俺様もなんだが久々に会ったらその実感が増した。
コートの中心へ歩いていって俺様の方へ振り返った慎の笑顔は、俺様には物足りない笑顔で。慎がどれほどテニスを愛していたのかが伝わって、それが今のテニスができないという現実がどれほど苦しいのかも伝わって。

テニスを続けられる俺様では、癒せはしない苦しさなのだろう。


「なぁ跡部。」
「あーん?」
「治ったら真っ先に勝負してやるよ。」


めっちゃ嫌だけどな!
空に叫んだ慎の言葉が、俺様の元へ来ず空へ飛び立っていくんじゃないか、なんて変な心配をしてしまった。
絶対に現実にさせてやる。ベンチから立ち上がって足を伸ばした、慎がいる半面とは反対のほうへ。あの日の様に俺達の間にネット、程良く暮れた日、でもあの日の様に観客も審判も自分達の手にはラケットすらないけれど。

クッと喉の奥で笑ってあの日の様に右手を差し出した。永遠のライバルに、そして俺様にとって特別で格別な世界で唯一の存在に。


「良いゲームにしよう。」





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「良いよ、こっそり練習しとくから。」
「ハンデくらいくれてやっても良いぜ?」
「くっそ、舐めやがって。」
「お前だからな。」


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まさかのべっ様練習。
どうしてこうも友情と愛情の狭間が好きなのでしょう…。
こっから恋愛対象になっちゃえばいいよ!

2013,04,23

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