触れれば、



桜を見るために上へ向けていた視線が、今は花筏となり公園の池を優雅に揺れるから下へ移動させた大型連休。
世間は様々、変わっていく世の中についていくのが大変そうだったり少し大げさだったり。

「あっつ。」

そんな空気の中で俺はいつもの呑気さで妙に上昇した気温にパーカーを脱いだ。その横に居る財前は済ました顔してスマホをいじってた。

いい年になってきた中学生の俺と財前含むいつものテニス部メンバーは、大型連休も終盤を迎えた今日「集まれるやつ集まって遊ばへん?」という気楽な誘いにのっかった。言いだしたのは誰だったっけな。
まぁ軽いノリで集まったはいいけど、どこもかしこも人がいっぱいでそれなら公園で小学生どころか幼稚園児になってやろう…なんて意気込んでかくれんぼなんか始めたわけで。
鬼になった白石が大きな声で20まで数える声を聞きながら、日差しから逃げるように大きな滑り台なんかがついているアスレチックの陰に座りこんだ俺。
そしてその五秒後に隣へ滑り込んできたのは、財前だった。

「じゅーきゅーう!…にぃーじゅーう!よっしゃお前ら全員エクスタシーしたるからなぁ!!」

「どういうこっちゃあ!」と遠いような近いような場所から謙也のツッコミが飛んできて白石が「ソッチか!」と走っていく音がした。俺達がいる場所とは正反対みたいだ。
暫くは安全になったかな、と両手を砂場に置く。滑り台の周辺は砂場になっていて、日陰になっている此処の砂はひんやりしていて気持ちよかった。
小さい頃はよく砂場にいたもんだ…さらさらと砂を撫でて昔を思っていれば、ふと財前に見られていることに気付く。さっきまでずっとスマホを見ていたのに。

「なに。」
「別に。慎先輩って案外子供っぽいとこあるんやなって思っとっただけです。」
「…ちょっと砂を触っただけだろ。」

それだけで子供っぽいといられるのは心外だ、砂を撫でていた手を止めて財前からも視線を離す。
ていうか俺達はまだ子供なんだけど…とは言い返さない。俺の周りに居る奴らって大人っぽいところあるし。財前含めて。それに言い返すこと自体が子供のすることかもと思った。

「怒りました?」
「いや、別に。」

遠くで謙也の叫び声とか聞こえたけどまだまだ遠そうだし、なんか漫才みたいな言い合いしているから大丈夫だろう。
お互いに黙ってしまって謙也達の話声が良く聞こえてくる。元々財前と俺ってそんなに話す間柄じゃなかったしこういう時間があってもしょうがない。指先でつい砂を撫でながらぼんやり。

「……」

はやく見つけてくれとは思わない、不愉快な時間じゃないんだ。お互いがお互いに干渉しようとしていないようでそう言うわけでもない…花筏、みたい。
風が吹いてお互いが触れ合うこともあるだろう、波が立って距離が開くこともあるだろう…そんな花筏に少し似てる。

「慎先輩。」

触れ合う風が吹いたなら、触れ合う時。

「っぇ、」

砂を撫でる指先、ソレを撫でたのはスマホを撫でていた指先。

「…あとで、どっかアイス食いに行きません?」

冷たい砂を侵食していくのは俺が発熱した温度なのか、それとも二人で生み出した温度なのか。
急に、なんで、とかなにも言葉が出てこない。ただただ俺の指に触れている財前の指先を魅入ってしまって……いや急にではなかったのかもしれない。
この公園、中学生が本気でかくれんぼしてもそんなに飽きないくらい広いのに…どうして同じ場所に隠れているんだろう。
俺が先に隠れてほんの数秒後…するりと隣へやって来た財前、もっといい隠れ場所あったはずなのにそれなのにやってきたのは、もしかして最初っから意味があったから?

「さっき探したらめっちゃ美味そうな店あったんすわ。」
「………」

何も話さないでスマホをいじっていると思ったら、何のためなのかアイスの店を探していたからなのか。それも何の意味を持って探していたんだろう。皆と行くためなのか?それとも…

「…みんな、で?」

財前って俺にとって花筏、ふわふわ池に浮かぶつかめない後輩。
風が吹いているとは感じなかったのに、指先を撫でていた優しかった仕草が力を込めた。少し砂で汚れた俺の掌全てをキュッと握りこんだ。

それはまるで、はなさない、って言っているみたいだ。

「二人で、って言いたいんすけど。」

「こんなところで二人居ったんか。」

いつの間にか足音すらさせないで、ひょこりと白石が俺達を見ていた。「見つけたで」と言われて、そうだかくれんぼ…と思いだした。どうにも俺達以外は見つかっていたらしく遠くから金ちゃんが「もっかい!」と悔しそうな声がしてくる。
白石が笑いながら最初にじゃんけんをした場所へ戻っていく、俺達も日陰からでないと…と思ったけど俺の掌は、

「はぁ。」

溜め息に合わせてゆるりと解放され、財前は何事もなかったかのように日陰から出ていった。
大事なことを話されなかった気がする。でも、自分からは聞く気にはなれなくて俺もとりあえず日陰から出た。
先を歩く財前が、

「あっつ。」

数分前に俺が言った言葉を口にしながらパタパタと手をパタパタさせながら自分に風を送っていた。
見間違えじゃなかったら、ピアスが輝くその耳は少し赤みを帯びているように見えた。




触れれば、




「じゃ次の鬼は謙也やな。」
「おっしゃ!浪速のスピードスターが最速で見つけたるからな!!」

また始まったかくれんぼ、今度はどこへ隠れようか…そういやすぐそこに茂みがあったっけ、そこに座り込めば隠れられるだろう。
さっきの白石みたいに大きな声で数をかぞえだした謙也の声を聞きながら目的の場所に座り込んで、5秒後。

「返事、」
「っ、あ…」
「聞いてへんから。」

俺の隣には、さっきと同じ光景。


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はないかだって言葉が好きなんですねぇ(何度目のご登場)
あとかくれんぼも好きです
なんなら雨とか植物とか
分かりやすいですねぇ。

2019.05.04

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