窓の中から



一階の廊下を歩いていると、窓からテニスをしている宍戸達が見えた。
今日も今日とて飽きずにテニス、気付くとテニス、姿が見えなくなったらテニス、と言ったところだろうか。
それはバカにしているわけではない、むしろ尊敬している。尊敬を通り越しても良いかもしれないレベル。「俺は凄い奴」って自惚れても良いくらいなのに自惚れない、まだまだ未熟なんだって練習し続けるその姿が、


(好きなんだよねー…)


皆の頑張る姿が好き。でも俺には特別な存在がそこにいる、帽子をかぶっている宍戸が、俺にとっての特別。
宍戸を思えば心臓は鼓動を速めて、宍戸と話せば心臓は鼓動を速めて、宍戸と歩けば心臓は鼓動を速めて…キリない。この思いは友達では収まらない、知っている。けれど宍戸はそうじゃないんだ、同じではない。俺なんかただの友達。

だから、特別にさせてほしいのさ。

ガラッと開いた窓、見える特別な君へ大きな声で叫んだってそれは感情故の行為だって許してほしい。青春してなんぼ、そういうお年頃なんだ。


「しーしーどー!!」
「あ?…慎?」


手を振って大きな声を出せば宍戸が俺を見る、まぁ宍戸以外のテニス部もコッチを振り返ったけど。跡部も長太郎もみんな俺を見る。顔が自然と熱を帯びた、これから自分がする事なんか、理解されなくてもいい。

足を止めて俺を見る君に想いが届けばいい、今の俺の思いなんて他にないさ。
1つ息を吸い込んで吐き出して、もう一度吸い込んで吐き出す際に音を乗せてやった、それだけ。
ただ乗せた音が良くなかったのかもしれない。

れっきとした歌手が歌っていた歌だった、俺の即興とかじゃない。俺の好きな歌手が歌っていたストレートな言葉が並ぶだけの歌。しかもこの歌、ギターもドラムもないんだ。歌手の歌声とコーラス、足踏みと手拍子だけのシンプルな歌。


愛してる
愛してる
愛してる

ずっとずっといつまでも

溢れて 汚れて
浅はかな歌

側にいて
側にいて
側にいる

ずっとずっといつまでも


愛らしく優しい歌手の声には程遠く、途中笑ってしまう歌手の笑顔にも程遠く。それでも構わない、短い音を紡ぐだけ。伝わるのならそれでいいと紡ぐだけ。
窓に出した掌を打ち鳴らしながら真っ直ぐに宍戸へ宛てた歌は、宍戸をダッシュさせる結果を生んだみたいだけど。
皆の輪から外れて俺の方へダッシュだ、あれ怒られるかもと思ったけれどとりあえず歌い続ける。最後の最後まで。愛の歌って途中でやめちゃったら片思いの歌になってしまいそうで怖かったから。

でも流石に恥ずかしいなって思っているよ、さっきよりも顔が熱いし。
でも、ぜぇぜぇと息を切らしながら近くへやってきた宍戸の顔も真っ赤だったから、歌い終わった俺は余裕もないのに笑ってしまう。


「あっははは!真っ赤、宍戸の顔真っ赤!!」
「慎お前な…!!お前だって赤いじゃねーか!!」
「知ってるよ、だって告白したんだもん。」


もう一回歌う?
そう首を傾げ聞いてるくせに、窓に投げていた手を中へひっこめて逃げる体制に入ろうとしている俺は、ただの迷惑な卑怯者かも。
だけれど窓を閉めようと手を掛けた俺の手を、宍戸の大きな手が捕まえた。ただそれだけの事なのに体が石になったみたいにそこから動けなくなった、まるで魔法を掛けられたみたいに。
今までこんなことされた事ない、友達なんだから当たり前だけど。
宍戸が赤いままの顔で小さく「激ダサだ」なんて呟きながら俺の手を強く引っ張った。


「っうわぁ!?」
「歌えよ。」


バランスを崩して窓から上半身が出た。倒れ込まないように空いていた片手が手をついた場所は、宍戸の肩。
近くなった距離、逃げだせない状況、宍戸のまさかのアンコール。俺の頭は何処から何を処理すればいいのか分からなくなってしまった。パニックを起こす俺とは正反対に冷静な素振りで俺の首へ腕をまわす宍戸が、ただ格好良いとしか分からないよ。


「歌えよ、もう一回。」
「え、あれは、」
「愛してるって、俺だけに言えよ…愛しているから。」


バカみたいに優しい宍戸の愛しているが、俺の心の奥底に落ちてきた。
恥ずかしいからもう歌えないよ。そんな意味を込めて…そんな意味がなくてもただ想いのまま宍戸の唇に、音を紡いだ唇を押し付けていた。





窓の中から





「なんで他の奴もいる前で大声で歌うんだよ。」
「だって…宍戸がいたから。」
「…くそ…俺、激ダサだな。」
「は?」

「嫉妬してんだよ!…言わせんな。」


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やっぱ、歌詞を載せるってまずいかな。消すかも。
でもこの歌本当に可愛くてストレートで好きです。
この歌の良さ、歌手さんの良さにめろめろです。

ちなみに金網も良いなと思いますが
窓(ガラス)も良いですよね
透明でとても薄いのに触れられない
簡単に壊れるけれど
壊れては面倒で近寄れなくなる。
萌え。

2013,04,19

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